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灰の街を越えて *AI執筆  作者: gramgram


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80/92

p75 完全日本語版

門の前に立ったフリンツは、制服の襟を正しながら門番に声をかけた。

「ドン方面司令部からの緊急連絡だ。指揮官を呼べ」


門番は一瞬動きを止め、無線機に手を伸ばしかけた。

「無線は使うな。機密漏洩で処罰されたくないならな」

フリンツが低く言い放つと、門番は顔を強張らせ、敬礼して奥へ駆けていった。


やがて、雪を踏みしめる足音とともに、一人の将校が現れた。

赤地に金星の襟章。階級は中尉か。

顔には夜通しの緊張が刻まれ、目の奥に疲労と警戒が滲んでいた。


「……ご用件は?」


フリンツが無言で差し出した身分証を受け取ると、中尉は確認しながら封筒の赤い印章に目を留める。

「ドン方面からの極秘任務だ。詳細はここでは話せない。

内密に指揮所へ案内してもらいたい」


中尉はしばらくフリンツの顔を見つめていたが、やがて短く頷いた。


案内されたのは村の中央にある大きな建物だった。外壁は砲煙で黒ずみ、窓には

板が打ち付けられていた。かつての村長の家か、役場だったのかは判然としない。

中は食堂を転用したような空間で、粗末なテーブルの上には地図が広げられ、数人の将校が囲んでいた。空気は湿り、灯油と冷えた煮豆の残り香が混ざっていた。


フリンツが一歩前に出て尋ねる。

「戦況は」


地図の端に立っていた副官らしき男が、疲れた顔で答えた。

「敵は既に対岸まで展開し、我方の前線はじりじりと後退中です。

川の渡河点が危険です」


別の下士官が不安げに口を開いた。

「兵たちの敢闘精神は横溢していますが、もし市街のドイツ軍が押し出て、

挟撃される形になれば、どうなるか……」


「心配は無用だ」

フリンツは全員の視線を受け止めたあと、打ち合わせの通り、静かに言った。

「現在第2親衛軍が南から移動中だ。戦車軍団と連携して川沿いの突破口を塞ぐ。

さらに別の親衛戦車軍団が背後から回り込み、敵の突出部を切り離す」


将校たちは顔を見合わせた。

期待と疑念が入り混じった空気が、静かに広がるのが感じられた。

「増援の成否は、我々の速やかな敵情報告にかかっている。

故に、可能な限り前線を網羅できる高所に案内してほしい」


副官は一瞬ためらう様子を見せたが、フリンツの口調に押されるように

若い兵士に目配せした。

「案内しろ。南の丘の監視壕だ」


フリンツとヴァルターは兵士に導かれ、村の外れを抜けて雪に覆われたなだらかな丘を登った。風は冷たく、雪は膝下まで積もっていた。

丘の上には粗末な観測壕があり、土嚢と木材で組まれた壁の隙間から川の向こうまで見渡せた。


やがて遠くに黒い煙が立ちのぼり、断続的な銃声が風に乗って届いてくる。

双眼鏡を覗いたヴァルターの目に、ドイツ軍の車列が雪原を押し進む姿が映った。


「始まったな……」

リンツは双眼鏡を握り締め、息を呑んだ。

雪原を切り裂くように戦車列が前へと押し出し、履帯が軋むたびに地面が沈む。

先頭の装甲が塹壕の縁を打ち砕き、ソ連陣地は次々と後退を余儀なくされて崩れていく。

歩兵が慌てて散開し、号令は途切れがちで、白煙と粉塵の合間に逃げ惑う人影が小さく見える。銃火が断続的に追い立てるように鳴り、雪に残る足跡は後退の方向へと延びていった。


ドイツ軍の前進は勢いを増し、押し返される側の防線を確実に浸食している。

「いいぞ、すぐに下へ――」

身を乗り出すフリンツの肩を、ヴァルターが引き戻した。

「待て。見ろ」


その指差す先、川の奥から新たな部隊が現れた。雪を蹴って進む戦車の列、赤い星章のついた装甲車、そして歩兵の波。


「……まさか、本当に来たのか」

フリンツが呟いた。


ソ連側の増援だった。第2親衛軍か、それとも別の部隊かは分からない。

だが、確かに増援は現実になっていた。

ドイツ軍は前進を止め、やがて後退を始めた。

砲声が遠ざかり、煙の向こうに車列が引いていく。

フリンツが立ち上がろうとするのを、ヴァルターが再び制した。

「やめろ。今は動くな。ここで目立てば、どちらに撃たれるか分からん」


そのとき、二人に向かって案内役の若い兵士が雪を蹴って駆け寄ってきた。

顔は紅潮し、息は白く、目には涙が浮かんでいる。

「あなた方が呼んでくれたんですね!援軍を!本当に来た!あの戦車の列!」


兵士はフリンツの肩を掴み、感極まったように抱きついた。

「俺たち、もう終わりかと思ってたんです……でも、あなた方が来てから

流れが変わった。助かったんだ、俺たち……」



フリンツは一瞬硬直したが、すぐに笑顔を作って肩を叩いた。

「すまないが、我々には任務がある。いずれまた会おう」


兵士は名残惜しそうに敬礼し、仲間のもとへと駆けていった。

雪を踏む足音が、まだ遠くで鳴る銃声にかき消されていく。


ヴァルター達はそのまま村の出口へ歩き出す。建物の窓や戸口から兵士たちが次々と顔を出し、前線の方角を指差す者もいれば、帽子を脱いで天を仰ぐ者もいた。


雪は止んでいたが、空はまだ鉛色に曇り、風が頬を刺すように冷たい。

道端には砲撃でえぐれた地面が凍りつき、壊れた荷車が傾いていた。


指揮所の煉瓦壁の陰、砲撃で潰れかけた厩舎の前で、フリンツが立ち止まる。

屋根は中央から折れ、梁が斜めに突き出し、壁の一部は吹き飛んでいた。

黒ずんだ干し草や土嚢が散乱し、兵士たちは負傷者の手当てに追われていた。


入り口には数頭の馬が折り重なって倒れ、すぐそばに脚を引きずり、白い息を吐きながら、苦しげに首を振っている。一方、奥の柱に繋がれていた二頭は慌ただしく鼻を鳴らしていた。

毛並みは泥と雪に(まみ)れ、筋肉は震えているが、四肢はかろうじて健やかに見えた。


フリンツは足元の瓦礫を踏み越え、慎重に近づいた。

鼻面に手を伸ばすと、栗毛の方が短く息を鳴らしたが、逃げようとはしなかった。


「こっちの二頭はいける」

フリンツは、柱の手綱を解きながら言った。

「南の林を抜ければ、増援部隊の進路に出られる。今ならまだ間に合う」


ヴァルターは馬小屋の扉に手をかけたまま、外に視線を向ける。

膝をついて止血帯を巻く者、担架を探して走る者、呻き声に顔をしかめる者。

誰もこちらに注意を払う余裕はないようだ。

風が吹き抜け、馬のたてがみが揺れた。


- フリンツに賛同する→P.76

-合流はあきらめ、馬でこの場から逃げるよう説得する→P.77

-隠した自動車のところまで戻ろうと言う→P.78

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