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迷路のように入り組んだ地下通路の突き当たりに、重厚な鉄扉が鎮座していた。
建物全体を支配する臭いとは別質の、湿気と脂の混じった異臭が、扉の隙間から
溢れ出している。
4人目の兵士が銃を向け、3人目が錆びついた取っ手を押した。
天井近くまでうず高く積まれた外套、シャツ、寝間着、靴。
山のような衣類が整理される間もなく、土砂のように床を埋め尽くしている。
その異様な光景に圧倒されながらも、兵士たちは奥にある机に目を留めた。
埃を被った作業机が、電灯の光にきらきらと輝いている。
警戒しつつも近寄ってみると、机にはオニキスの指輪に象牙の櫛、スイス時計、
ルビーのブローチなどの品々が、取り残されたように散らばっていた。
「おい、これ……」
3人目が、机に置かれた透明なプラスチックの箱をとり、中に詰まった鈍い光を
放つ粒を手のひらにこぼした。
「本物だぞ。これだけあれば……」
ざらざらと、乾いた音を立てて金の大粒が指の隙間から流れ落ちる。
だが、手のひらに残った一つを見て、動きが止まる。
独特のくびれと溝。
乾燥しタールのように変色し、こびりついた肉片。
人間の歯。
沈黙のなか、3人目の足元に音もなくナイフがはしった。
「あ、がっ……!」
アキレス腱を裂かれる激痛に、肌着の山へ倒れる兵士。
間髪入れず、這い出した影がその身体に覆いかぶさる。
狂気の充満した眼光。
男は躊躇なく、首筋に刃を突き立て、横に薙いだ。
「ああああああああああ」
噴き出す鮮血に、4人目の兵士が引き金を絞る。
銃弾は二人の身体をズタズタに引き裂き、血肉と布の破片を舞わせた。
弾倉が空になり、ガチリと空打ちの音が響く。
静寂が戻った部屋には、硝煙とぶちまけられた血の臭いが充満していた。
ヴァルターは返り血を拭い、死体の袖を捲り上げた。
白く痩せさらばえた腕の内側に、青黒いインクで数字が刻まれている。
振り返えったヴァルターの目に、抜いたルガーを咥え込む4人目の姿が映る。
「おい、」
短い銃声が響き、脳漿が壁を万華鏡に染めた。
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