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窓の向こうに、負傷兵を乗せたトラックの列が見えた。
荷台には毛布にくるまれた兵士たちが横たわり、呻き声が冷たい風に流れていく。
護送の兵士たちは疲れ切った顔で銃を抱え、進んでいる。
「今だ」
フリンツは外套の襟を立て、ヴァルターとともに荷台の影へと身を滑り込ませた。
二人は毛布を引き寄せ、負傷兵の間に紛れ込む。
血と薬品の匂いが鼻を刺し、呻き声に混じって二人の呼吸もかき消された。
誰かが気に留めた様子はなかった。
遠くで鳴り響く砲音をよそに、ただただ後方へ向かおうとする兵士たちの流れに
身を委ね、荷台の揺れに体を沈める。
不意に一人の下士官が荷台をのぞき込んだ。
鋭い目が二人をとらえ、怪訝そうに眉をひそめる。
「Эй, вы двое! Покажите лицо」
「顔を見せろ、と言ってる。しゃべれないふりをしろ」
フリンツは小声で告げ、フードを外して顔を上げる。
額に血の滲んだ包帯を巻いていたが、下士官の視線は鋭さを増した。
「Имя? Подразделение?」
問い詰めるような声に、周囲の兵士たちの視線が集まる。
ヴァルターは外套の内ポケットから奪った軍隊手帳を差し出した。
下士官はそれを受け取り、ページをめくる。
数秒の沈黙ののち、彼の顔に冷たい笑みが浮かんだ。
「 Лю́бовь, да? Милое имя…」
次の瞬間、銃口が二人に向けられた。
兵士たちがざわめき、列は足を止める。
「 Постой! Это недоразумение, мы…」
フリンツの声は最後まで続かなかった。
乾いた銃声が響き、視界が揺れ、地面の冷たさが頬に伝わる。
兵士たちの怒声が遠ざると、やがて闇が覆いかぶさった。
END




