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灰の街を越えて *AI執筆  作者: gramgram


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68/108

p64 完全日本語版

フリンツは軍医のあとを追いかけ、テントの中へ小走りに入っていった。

しばらくして、足音と共に戻ってくると、顔に安堵の色が浮かんでいた。

「二つ返事だった。相当切羽詰まってるらしいな」


フリンツが指差す方向へ歩くうち、ふいに空気が変わった。

粉雪に混じる湿った風が過ぎた後、すぐにすさまじい臭いが鼻腔を突き、

ヴァルターは顔をしかめた。

テントの脇に並んだ死体の列が目に入る。周囲に人影はなく、黒いハエだけが

まとわりつくように群れている。


「こいつから行こう」

フリンツは言うと、手前に転がる男の肩を掴んで持ち上げた。

布の感触が薄く、骨ばった肋の輪郭が手に伝わる。

ヴァルターは息を止め、目を半分閉じて足を踏み出した。


保管所、とは名ばかりのその廃墟は、テントから少し離れた場所にあった。

積み上げられた躯の山は外気にさらされ、放たれる異臭は強烈に鼻と喉を刺す。

蒸気のようにのぼる刺激に、何度も顔を背けながら、運んだ死体を下ろす。

その様子を、ガスマスクの係官が他人事のように見つめていた。


フリンツは足早に救護所の入口を抜け、奥の机に座る医官のもとへ歩み寄った。

「死体を一時的に野営地の外へ死体を移すことを提案します」

医官は聞こえていないように、無言でページをめくり、作業を続ける。


フリンツはためらわずに前に出て、静かに、だがはっきりと述べた。

「ここの処理能力は既に限界です。

このままでは、衛生所の機能が停止します」

「私の権限で、そんな勝手は認められない」

医官は、帳簿に目を落としたまま、冷たく告げる。


フリンツはヴァルターにちらりと視線を送り、さらに言葉を重ねた。

「万が一、重篤な感染症が発生した場合、責任者に防止策を提案したものの、

却下されたと証言せざるをえません」


作業を続ける医官の手が一瞬止まる。

フリンツは一歩踏み込み、まっすぐに視線を向けた。

「問題が起きれば、そちらは騙されたということにしてもらって構わない。

どうか、許可を」


医官はしばらく沈黙し、やがて机の引き出しを開けて書類を取り出した。



野営地と外を隔てる検問は、土嚢と角材の防塁と車止めが置かれ、機関銃のついた見張り台を備えていた。


死体を積んだ荷車に責任者らしき番兵は顔をしかめ、許可証を見ながら無線で

何度もやり取りしたあと、ようやく通過が許可される。


検問を出た荷車は、そこから少し離れた場所で止まった。

地面は凍った泥と雪が混じり、傾斜がわずかについている。

フリンツとヴァルターが荷台の留め具を外すと、横倒しに積まれていた死体が

ごろごろと滑り落ち、雪の上にできた暗い染みが、風に吹かれて広がっていく。


空の荷車を引きながら、検問まで戻ってきたヴァルターの腕を、番兵がつかむ。


「まさか、あのまま置きっ放しじゃないだろうな?」

「営内はどこも一杯なもんで。あくまで一時的な処理ということです」

うめく様に黙り込む番兵に、フリンツは続けた。

「トラックでもあれば、もう少し遠くへ移すこともできるんですが……」




積み込んだ死体を棄てた後、トラックは南西に向かってひた走った。

舗装のない雪道を揺られながら、フリンツがヴァルターの肩を叩き、二人は小さく笑い合った。日は傾き始めているが、この分なら数時間もしないうちに戦線付近

まで出られるはずだ。


ふいに、地面が微かに沈むような違和感を覚え、ヴァルターは窓から顔を出した。


瞬間、裂けるような爆発音が響き、衝撃が足もとを突き上げる。

車体が大きく弾かれ、シートごと全身が浮いた。

ガラスが一斉に砕け、金属と木材がきしむ断続音が重なる。


巨大な質量を跳ね上げた慣性が、息切れしたように手を離すと、車は真っ逆さまに地面へ叩きつけられた。衝撃が一瞬で内蔵を押し潰し、熱の余韻が鼻腔に焦げた

匂いを残す。


ほどなく、車内に静寂がおりた。

呼吸もなく、声もなく、二人の体は不自然に固まっている。

エンジンの唸りは途絶え、窓の裂け目から雪が舞い込み、

黒い煤と混ざりながら、あたりを覆っていた。


END

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