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建物の周りを回るうち、やがて壁際に勝手口らしき取っ手を見つける。
ゆっくりと開いた扉の向こうは、広い調理場になっていた。
中に入ったヴァルターたちが向かったのは、流し台だった。
蛇口をひねり、流れる水をしばらく見つめた後、1人目が手で受け、匂いをかぎ、そのまま口をつけた。
「どうだ」という問いかけにも答えず、兵士は水を飲み続ける。
それを見て、ヴァルターたちも各々水を口に運び始める。
人心地がつき、改めて周囲を見渡した。
壁際の棚や抽斗は湿気で歪み、煉瓦造りの土台には、重い蓋をのせた巨大なスープ釜が、使われなくなった浴槽のように並んでいる。
兵士たちは、手分けして厨房を探り始めた。
棚や抽斗の取っ手を引いて奥まで覗き込むが、埃をかぶった食器の他にめぼしいものは見当たらない。
やがて壁回りを見終えた一人が、スープ釜の蓋に手をかけた。
その時、隣の釜の蓋がわずかに持ち上がり、黒い銃口が覗く。
――轟音。
散弾銃から放たれた鉛の礫が、顔面を至近距離で粉砕した。
悲鳴を上げる暇もなく、崩れ落ちる躯。
「撃てッ!」
怒号と共に、激しい金属音が響き鉄蓋が跳ねる。
だが、影は壁際のダストシュートへ吸い込まれるように身を投げた。
3人目がシュートの投入口へ駆け寄り、暗がりに銃口を向けたまま動きを止める。
金属製の通路内には、鋭利に研ぎ出された鉄筋が、交差するように溶接されていた。
「……ここを、降りやがったのか?」
呟きが、赤黒く滑った通路に響いた。
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