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ヴァルターはフリンツを背負い、梯子に足をかけた。
鉄の棒は冷たく、二人分の重みで軋む。
金属音が通路に反響し、息遣いと衣擦れが重なった。
梯子をきしませながら、頭上に見えた鉄蓋の取っ手に手をかけ、力を込める。
「ギギ……」と金属が呻き、冷風が一気に流れ込んだ。
夜明け前の薄明かりが縦穴を照らし、灰色の光が二人の顔を照らす。
外の空気は凍りつくように冷たく、瓦礫の匂いと焦げた煙の臭気が混じっていた。
ヴァルターは蓋を押し上げ、わずかに開いた隙間から外を覗いた。
崩れた建物の影が長く伸び、空は鉛色に染まり始めている。
その静寂を破るように、廃墟の向こうから鋭い声が飛ぶ。
銃声が響き、梯子の縁に火花が散った。
ヴァルターは反射的に上体をひねり、出口の蓋を引き下ろした。
鉄板が「ガシャン」と閉じ、外光が遮られる。
だが、その衝撃と二人分の重みで、老朽化した梯子が悲鳴を上げた。
「ミシッ……」と嫌な音が響き、次の瞬間、鉄の棒が折れた。
ヴァルターとフリンツの身体は支えを失い、闇の中へと落下する。
背中に衝撃が走り、頭蓋に鈍い痛みが広がった。
最後に聞こえたのは、鉄片が崩れ落ちる音だけだった。
END




