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割れた窓から、冷たい風が部屋に吹き込んでいた。
見張りの兵士は、肩をすくめながら身を縮め、寒さに顔をしかめる。
それを見ていたソ連兵が、何ごとか話しかけた。
見張りはちらりとこちらを見たが、特に警戒する様子もなくうなずいた。
ソ連兵はゆっくりと立ち上がり、暖炉の方へ向かう。
その瞬間を、ヴァルターは逃さなかった。
懐から発煙筒を抜き取り、手早くキャップを外す。
摩擦板に親指をかけ、息を殺して一気に引いた。
「シュッ」と乾いた音がして、筒の先端が赤く光る。
(頼む、気づかれるな……)
窓際に身を寄せ、風の音に紛れるようにして、
発煙筒を外へ放った。
だが――
「ボンッ!」
思いのほか大きな破裂音が、静まり返った朝の空気を裂いた。
赤い煙が、瞬く間に窓の外へ立ちのぼる。
見張りが振り返り、銃口がこちらに向けられる。
発砲音が、部屋の空気を引き裂いた。
ヴァルターの身体が、ベッドの上で跳ねた。
視界が一瞬、白く弾ける。
何も感じなかった。
ただ、遠ざかるように音が消えていく。
最後に見えたのは、
暖炉の前で立ち尽くすソ連兵と、窓の外に立ちのぼる、赤い煙だった。
――すべてが、静かに途切れた。




