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蒸気の噴き出す裂け目から少し離れた場所に、二人は身を伏せた。
外套を濡らして顔を覆い、熱気と霧をやり過ごす。
蒸気の白い幕が視界を遮り、近づいても姿は見えそうにない。
やがて、光が霧を切り裂いた。
懐中電灯の輪が揺れ、兵士の影が通路に浮かぶ。
蒸気管の切れ目から、かすかな光と暖かい湯気がわずかに流れ込む。
その脇、濡れたコンクリート床と窒息しそうな湿気のなかで息を殺し待つ。
壁を伝い、ナイフのグリップを確認する。
耳を澄ますと、向こうからソ連兵の足音とこすれ合う装備の鈍い金属音が、
狭い通路を近づいてくる。
“今だ”。
物音ひとつ立てず影から跳びかかる。
ナイフで脇下から刃を深く差し込み、左手で口元を覆いながら、体重をかける。
相手は反射的に動こうとするが、喉を締めあげられ、声は壁に吸い込まれる。
数秒だけ冷たいもがきが続き、その体が弛緩し床に沈む。
脈を確かめてから、装備を引き剝がす。
毛皮コートは想像以上に重いが、裏地の羊毛の感触が冷え切った胸元に驚くほど
効いてくる。
呻き声に振り返ると、フリンツの肩口から血が流れていた。
「動いた拍子に……」
言いながら袖口でナイフを拭う。
「傷口が開いただけだ。まだ動ける」
ヴァルターは頷き、フリンツの肩に手を伸ばした。
「動くな」
濡れた布で血を拭い、手早く包帯を巻き直す。
裂けた箇所を締め上げると、フリンツは小さく呻いたが、顔をしかめただけで
声は出さなかった。
「これで持つ。行けるか」
「ああ」
蒸気の残る通路は薄暗く、足元には濡れた配管と瓦礫が散らばっている。
二人は互いの気配を確かめながら、慎重に通路を進んだ。
暗闇を押し分けるように奥へと進んでいたその時──
乾いた音とともに、回していた電灯のハンドルが折れた。
光は一瞬揺らぎ、次の瞬間には完全に消え失せた。
闇が押し寄せ、鼻を刺すようなガスの匂いが濃くなる。
呼吸をするたびに喉が焼け、胸が重くなる。
ヴァルターは咳き込みながら壁に手をついた。
フリンツも顔をしかめ、低く呟く。
「……このまま進めば迷う。光がなければ出口は探せん」
通路は複雑に折れ曲がり、番号も矢印も見当たらない。
壁際には崩れかけた瓦礫が積み上がり、触れれば崩れそうな気配がある。
-匍匐前進で進む→P.48
-壁に手を置いて進む→P.51




