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丘の斜面に踏み出した瞬間、炸裂した榴弾が泥と黒土を空高く吹き上げた。
爆風が横から叩きつけ、隊列は一瞬で乱れる。
ヴァルターは反射的に身を伏せ、足元に口を開けた浅い穴へと転がり込んだ。
砲撃で抉られた黒土が胸に押しつけられ、冷たい湿気が肺に入る。
頭上を掠める弾丸の音が遠のいた気がした。
(……長くはもたないな)
そう思った矢先。
穴の底に沈んだ視界の中で、ヴァルターは気づいた。
黒土が外側へ向かって扇状に盛り上がり、金属片が一定方向へ飛び散っている。
(……地雷だ)
地雷は一度爆発すれば、同じ場所で二度は爆発しない。
つまり――
穴の縁に散らばる破片と、土の盛り上がりをじっと見つめる。
破片が外へ向かっていれば、すでに地雷が吹き飛んだ跡。
そこを縫うように進めば――
ヴァルターは、泥にまみれた銃身を支えにして立ち上がった。
穴から這い出ると、破片の向きが示す“痕跡”を慎重にたどる。
怒号が響き、兵士が吹き飛び、機関銃の火花が散るなか、ヴァルターはそのか細い綱の上を、黙々と進み続けた。
数日の間、丘陵地帯は砲撃と反撃と再突撃が繰り返され、地形そのものが幾度も書き換えられた。
泥と血が混じり合い、昼夜の区別も曖昧な戦場を、ヴァルターは生き延びるために這いまわった。
飢え、寒さ、疲労。
”同志たち”は次々と倒れ、督戦隊の銃声が背後で短く響くたび、列はさらに細く削られていった。
自然は弱者を排除し、強者のみを前進させる――
国民受信機から流れていた声が、ヴァルターの中に、ゆっくりと沈殿していった。
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