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ヴァルターは銃を握りしめたまま、瓦礫の影に身を伏せた。
湿った石壁の冷たさが背中に伝わる。
闇の中、二人の呼吸音だけがやけに大きく響いた。
足音が次第に近づき、通路全体が緊張で張り詰める。
ロシア語が低く交わされ、灯りの揺らめきが瓦礫の隙間をかすめた。
ヴァルターは喉の奥が乾き、引き金にかけた指が震えるのを必死に抑える。
フリンツがそっと手を伸ばし、彼の腕を押さえた。
「動くな……」唇の動きだけでそう告げる。
数秒が永遠のように過ぎ、やがて足音は通り過ぎた。
声も遠ざかり、再び重苦しい静寂が訪れる。
ヴァルターはようやく息を吐き、額の汗を拭った。
フリンツも小さく頷き、瓦礫の影から身を起こす。
「……助かったな」
「まだ終わりじゃない。先を急ごう」
通路を抜けた先は、わずかに広がった空間だった。
天井の通気口から冷気が流れ込み、肺に刺さるような感覚を残す。
酸素は薄く、二人は歩みを止めざるを得なかった。
フリンツは壁際に腰を下ろし、血の滲む腕を布で押さえながら地図を広げる。
手回し式の電灯の光が、紙の上に揺れる影を落とした。
「……戦況はどうなっていると思う?」ヴァルターが低く問う。
フリンツはしばらく黙した後、かすかに笑った。
「包囲は狭まっている。だが、まだ道はある。俺たちが生きている限りな」
二人は短い沈黙を共有した。冷気と疲労が体の芯まで染み込んでいく。
休む場所を選ばなければならない。
- 床の通気口の傍で休む →P.32
- 壁際の配管の下で休む →P.25
- 通路の中央、瓦礫の陰で休む →P.34




