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包帯を巻き終えたころには、指先がかすかに震えていた。
消毒代わりのウォッカの匂いが袖に残り、腕はまだ熱を帯びている。
それでも、さっきまでの鋭い痛みはわずかに和らいでいた。
(……今なら動ける。ここを離れないと)
ヴァルターは壁に手をつき、ゆっくりと立ち上がる。
ソ連兵の肩を借り、互いに支え合うようにして歩き出した。
家を出ると、冷たい外気が火照った頬を撫でた。
夜気が肺に入り、頭が少しだけ冴える。
だが、数十歩を過ぎたあたりで、左腕の奥に鈍い痛みが戻り始めた。
歩くたび、脈打つように熱が広がる。
さらに進むと、包帯の内側がじわりと湿る気配があった。
指先でそっと触れると、布越しに温かさが伝わる。
(傷が……開いたか)
どうにか建物の影までたどり着き、壁にもたれ込むように座り込むと、ソ連兵も
限界だったのか、隣で静かに横になる。
服を脱いで傷を確かめようとしたが、左腕が思うように動かない。
肩を引き上げた瞬間、鋭い痛みが走り、身体が勝手に前へ倒れ込んだ。
地面についた手に、力が入らない。
起き上がろうとしても、腕が震えるだけで身体が持ち上がらなかった。
(……ここまで消耗していたのか)
呼吸が浅くなり鼓動の音が遠のいていく。
瞼が重い。
閉じるな、と命じても、
視界はゆっくりと暗く沈んでいく。
そして闇が、静かにすべてを包んだ。
END




