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ヴァルターは上り坂の通路を選んだ。
足元の傾斜は緩やかだが、滑りやすい。
壁の内側に手を添えながら、慎重に進む。
電灯の光が、濡れたコンクリートに鈍く反射していた。
数分も進まないうちに、通路の空気が変わった。
湿気が薄れ、代わりに埃っぽい匂いが鼻をつく。
天井はさらに低くなり、配管の間をかいくぐるようにして進まねばならない。
時折、頭上から水滴が落ち、肩を打った。
やがて、前方に瓦礫の山が現れた。
通路の一部が崩落している。
鉄骨がねじれ、コンクリートの破片が積み重なっていた。
その奥から、かすかな呻き声が聞こえた。
ヴァルターは身を低くし、慎重に近づいた。
瓦礫の隙間に、人影があった。
煤にまみれた顔。片膝を立てて座り込み、肩で息をしている。
その手が、反射的に銃をこちらに向けた。
ヴァルターも即座に銃を構える。
互いに動かず、数秒が過ぎた。
「……誰だ」
かすれた声が闇の中から返ってきた。
「歩兵第305連隊、ヴァルター・グレーベ伍長」
「……情報部のフリンツ・ヴェーバー曹長だ」
銃口がわずかに下がる。ヴァルターも応じて銃を下ろした。
「地下から西へ抜けようとして、このざまだ。怪我は大したことないが……
背嚢が瓦礫の下だ。中に地図がある。手を貸してくれ」
ヴァルターは周囲を見渡し、瓦礫の隙間に手をかけた。
「分かった。すぐに出す」
その言葉にフリンツはわずかに頷いたが、次の瞬間、鋭く手を上げて制した。
口元に指を当て、静かにするよう合図する。
通路の奥から、かすかな足音が響いてきた。
湿った石壁に反響し、複数人の気配が近づいてくる。
低く交わされる声──ロシア語だった。
二人は灯を消し、闇に身を沈めた。
瓦礫の影に潜む緊張が、鼓動の音をさらに大きく感じさせる。
-その場に伏せ、足音が通り過ぎるのを待つ →P.27
-銃を構えて待ち伏せし、先に撃つ →P.22
-自分が囮として、別方向へ走って逃げる →P.24




