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ヴァルターはゆっくりと手を上げた。
「待て――」
その瞬間、銃声が響いた。
ヴァルターの体は弾かれたように、後ろへ倒れこむ。
背中から滑り落ち、床に転がった兵士に、迷わず引き金が引かれる。
カービンの銃口が火を噴き、ソ連兵の体が跳ねた。
室内は静まり返った。
灰が舞い、砲声の余韻が遠くで鳴っている。
ドイツ兵はゆっくりとヴァルターに近づいた。
銃を構えたまま、足先でコートの襟元をめくる。
灰緑色の布地に縫い付けられた、鷲の刺繍。
彼はそれを見て、首をかしげたが、銃口は下がらなかった。
乾いた音が、もう一度響いた。
END




