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この状況では、敵はもちろん、味方も危険だ。
投降を決断した以上、まず周囲の安全を確保した方がいい。
ヴァルターはしゃがみ込み、兵士の体を肩に担ごうとした。
意識のない人間は、想像以上に重い。
力を抜いた四肢がだらりと垂れ、バランスが取れない。
一度体勢を整え、兵士の腕を自分の肩に回し、腰を落として背負い上げた。
兵士はぐったりとしたまま、声ひとつ発さない。
ヴァルターはゆっくりと立ち上がった。
足元の瓦礫を踏まぬよう、慎重に歩き出す。
建物の影を縫い、音を立てずに進む。
目指すのは、最初に潜んでいた地下室だ。
あそこなら、しばらくは隠れられる。
途中、何度か立ち止まり、耳を澄ませた。
銃声は遠く、足音もない。
風が吹き抜け、煙の匂いが鼻を刺す。
地下室のある建物が見えてきた。
あと少し。
そのときだった。
腰のあたりに、何かが沈み込むような感触があった。
痛みは無い。
ただ、異物が体内に入り込んだような、鈍い衝撃。
ヴァルターは一瞬立ち止まり、眉をひそめる。
背筋に冷たいものが走った。
彼は反射的に身をよじり、背中の兵士を放り出した。
兵士の体が地面に転がる。
その拍子に、手からナイフが滑り落ちた。
ヴァルターは自分の腹に手を当てた。
腰の横から腹部にかけて、べったりと濡れている。
手のひらが赤く染まっていた。
迂闊だった。
銃がないことに安心し、油断が過ぎた。
ヴァルターは膝をつき、崩れ落ちた。
視界が傾き、音が遠のいていく。
兵士は動かない。
再び意識を失ったのか、それとも……
何も確かめられないまま、彼は地面に沈んだ。
END




