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ワイヤーを配管に二重に巻き付け、端同士をペンチでねじり合わせる。
金具の代わりに、細い金属の帯が配管を抱え込む形になった。
ねじり部を折り返して寝かせると、応急処置としては十分なはずだ。
ヴァルターは外した台座を元の位置に戻した。
ナットを切断してしまったため、台座は壁に寄りかかるだけで、ガタついて
安定しない。
(……仕方ない)
ヴァルターは通路側へ身を寄せ、若い兵士に小さく合図を送った。
その瞬間、艦内スピーカーが甲高く鳴り響く。
「敵艦接近――全乗員、急速潜航準備!」
若い兵士は、すぐに駆け足で持ち場へ戻っていった。
ヴァルターも補機室へ戻り、扉を閉めると、自分の手首に手錠をかけた。
金属の輪が冷たく締まり、まるでずっとここにいたかのように見える。
艦が沈み込むように揺れ、船体全体が深海へ滑り込むように傾いた。
機関の唸りが低く響き、水圧が増していくのが壁越しに伝わる。
(……大丈夫だ。何も起きていない)
しばらくの間、艦は一定の振動を保ったまま進んだ。
異音もなく、補機室の空気も静かだ。
さっきの作業が影響している気配はまったくない。
時間だけがゆっくりと過ぎていく。
敵艦の追跡を振り切ったのか、艦内の緊張も少しずつ緩んでいくように感じた。
だが――
突然、艦全体がわずかに震えた。
続いて、
「ゴウン……」
と低い音が響き、推進音がふっと弱まる。
ヴァルターは顔を上げた。
(……止まった?)
艦はまるで海中で足を止めるように、ゆっくりと動きを失っていった。
補機室の空気が、静寂と不安で満たされていく。
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