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灰の街を越えて *AI執筆  作者: gramgram


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108/131

p97

潜水艦の心臓部、バッテリー室に隣接する補機室。


反乱容疑の未決囚となったヴァルターの拘禁場所であり、微かなガス臭が漂う

この部屋に、工具箱を抱えた男が入ってきた。

短く刈った髪には灰色が混じり、無精ひげには油と金属の匂いが染みついている。

日を浴びない土気色の腕は太く、動きには無駄がなかった。


立つ監視員が、反対側へ視線を向けたのを確かめてから、男は手錠に繋がれた

ヴァルターの前にそっと工具箱を置く。


「……グレーベ伍長だな。機関長のリューディガーだ」


低い声に、ヴァルターは眉を寄せる。

「機関長……? なぜここに」


機関長は工具箱の蓋を開けながら、声を潜めた。


「艦長に“亡命案”を具申したのは、俺だ」


ヴァルターの胸がわずかに跳ねる。

「……あなたが?」


「そうだ。生き残る道を探すなら、艦を降りるしかない。

艦長も理解していたが、慎重すぎた」


配管の固定具に触れ、確かめるように指で押していく。

素人目には、ごく普通の点検動作にしか見えない。

「……伍長、出身は?」


ヴァルターは警戒を解かぬまま答えた。

「ベルリンです。機械工をしていました。

昨年の春に志願して……ロシアへ」


「地獄を見たな」

短く息を吐くと、太い腕を配管の裏に手を差し入れる。


「前の戦争も、工場で働くか、前線に送られるか、二つに一つだった。

結局海軍に回されて、気づけばこの有様だ」


淡々とした口調に、遠い記憶の重さが滲んでいた。

機関長は手を引き、工具箱の蓋を静かに閉じた。


「人生は思い通りにはいかん。

だが、死んだ人間に次は来ない」


機関長はヴァルターを見下ろし、声を低くする。

「ここまで来たんだ。今は生き延びることだけ考えろ」


そう言い残し、リューディガーは通路の闇へ消えた。





「シュタール中尉」


リューディガーは振り返った。


声の主――フリンツは微笑んでいたが、その目だけは冷たく濁り、何を考えているのか一切読めない。


「機関長は、こちらで何を?」

「通風管の点検だ。整備記録にも…」

「第三確通風管の圧力異常。確かに記録されていますね」


ゆっくりと伸びたフリンツの手が、リューディガーの工具箱の留め金を外した。

金属が擦れる乾いた音が、狭い通路に落ちる。


リューディガーは音に反応する様子もなく、ただ静かにフリンツを見返していた。


「素人の思い違いであれば、大変申し訳ないが……」


工具の並びを指先で軽くなぞりながら、フリンツの視線はどこか確信めいていた。


「圧力弁の調整に使うソケットが、どうも見当たらないようだ」


リューディガーは、平然とした声で答えた。

「忘れてきたんだ。ちょうど取りに戻るところでな」


フリンツはその言葉を遮るように一歩近づき、手にした紙片をリューディガーの目の前に差し出した。


「艦長室から見つかったものです」

紙は細かく裂かれたものを、裏から薄紙を貼ってつなぎ合わせている。


「潜水艦を沿岸で座礁させるだの何んだの、妙な事が書かれているのですが、よく似てましてね。あなたの書いた整備記録の筆跡と」


穏やかな声には、逃げ道を塞ぐような冷たさが滲んでいた。


→P.98

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