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灰の街を越えて *AI執筆  作者: gramgram


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107/131

p96

「暗号表を渡す。……エニグマの心臓部、その最新の設定をです」


ハルトマンはヴァルターの言葉に、やがて喉からせり上がるような低い笑いを漏らした。自嘲でも狂気でもなく、どこか憑き物が落ちたような、乾いた笑いだった。


「…… まさか、同じことを考える奴がいるとはな」


艦長は目元を拭い、ヴァルターを射抜くような鋭い視線に戻った。


「実はな、艦内にも似たような提案を具申した連中がいる。

私もこの状況で、賛同するのにやぶさかではないが……問題は下士官たちだ。

兵学校を出たばかりの若造や、いまだに総統ベルクホーフへの忠誠を捨てきれん石頭が

混じっている。強引に舵を切れば、どうなるかわかったものではない」


艦長はヴァルターに歩み寄る。


「慎重に運ぶ必要がある。針路を変えるための大義名分と、反対派を黙らせるだけの舞台装置がな。……ヴァルター、知恵があれば貸してくれ。貴様のような男の

知恵をな」


「……善処します」

短く答えて敬礼し、ヴァルターは艦長室を後にした。

重い防水扉を閉め、狭い通路に足を踏み出した瞬間、血の気が引いた。


目の前に、フリンツが立っていた。


「……どうしたんだ、こんなところで?」


ヴァルターはかろうじて、声を絞り出した。

胸の奥で跳ねまわる動揺を押し殺し、平静を装うように表情を固める。


「もちろん、艦長に用がある。お前こそどうした? 顔色が悪いぞ」


フリンツの声は平坦だった。

知っているのか、いないのか――判断に踏み込むことすら、今の自分には危うい。

相手の瞳に映るのは、強張った自分の顔ばかりで、奥にあるはずの本心を読み取る余裕など、ヴァルターには欠片も残っていなかった。


「……いや、大丈夫だ」


フリンツは肩をすくめると、ヴァルターの脇をすり抜けて艦長室のノブに手をかける。扉が閉まる音を聞きながら、一瞬のざわつきが胸をよぎった。


何だ……?

落ち着き始めた思考が次第に形を結び、明確な違和感に変わる。



――ノックの音がしていない。



乾いた破裂音が響き、反射的に動いた体が扉を押し開ける。


室内には、背もたれに沈む艦長と、その傍らに立つフリンツ。

銃を握ったまま、こちらへゆっくりと振り返る。


声が喉に貼りつき、かすれた音しか出ない。

フリンツの腕が上がり、銃口がヴァルターを向く。


そのとき、通路の奥から複数の足音が響き、数名の兵士が駆け込んでくる。


「副長殿」

フリンツは銃を構えたまま、中尉の階級章を付けた痩せぎすの男に淡々と告げた。

「ヴァルター・グレーベ伍長は、艦長に対し中立国への亡命を迫り、拒否した艦長を射殺した」


「馬鹿な――!」

否定の言葉より早く副長が手首を振ると、一斉に動いた兵士たちが、ヴァルターの両腕を(ひね)り上げる。抵抗する間もなく、身体は床へ押しつけられた。


→P.97

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