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灰の街を越えて *AI執筆  作者: gramgram


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106/131

p95

艦長は、しばし海図の一点を見つめたまま、深く息を吐いた。

その吐息には、諦念とも、決意ともつかない重さがあった。

低くつぶやくように言い、ようやく顔を上げた。


「……確かに、魅力的な提案にも聞こえる。

だがな、ヴァルター。トルコは我々のような潜水艦の運用体制を持っていない。

引き渡したところで、修理も運用もできず、かといって他所へ気軽に引き渡す

わけにもいかん。

どちらの陣営にも肩入れしたくない国にとっては、扱いに困る代物だ」


艦長は海図を閉じ、静かに立ち上がる。

「だがまあ、本題はそこじゃない」

ヴァルターは、艦長の声の調子が変わったのを感じた。


「他の奴らがそんな理屈で納得すると思うか? ここにいるのは、“艦を売って

生き延びる”などと聞けば、血相を変える連中が大半だ。

お前は潜水艦乗りを理解していない」


口を開きかけたヴァルターを、艦長は手を上げて制し、伝声管の受話器を取った。

「当直、艦長だ。司令室へ。」


金属の反響音が狭い室内に広がり、やがてハッチの向こうで足音が止まる。

ノックの後、扉を開けた士官が敬礼すると、艦長は短く命じた。


「ヴァルターを隔離しろ。ただし、手荒な真似はするな」


「な……何を?」

ヴァルターは思わず声を上げた。

「こんな話を持ち掛けた人間を、放免しておくわけにはいかないだろう」


艦長は最後に一度だけ、ヴァルターを見た。

「当面は倉庫で大人しくしていろ。お互いのためにな」

その目には、わずかな哀惜と、指揮官としての冷徹さが同居していた。




下士官によって手荒に引きずり出されたヴァルターは、艦の後部、予備の魚雷や

物資が詰め込まれた狭い区画に押し込められた。

乱暴に鍵がかけられ、重厚な金属の扉が閉まる。


そこは明かりもなく、時計もない、文字通りの闇の中だった。

ヴァルターは冷たい隔壁に背を預け、聞こえてくるエンジンの微かな振動音だけを頼りに、時間の経過を推測しようとした。

しかし、単調な振動は感覚を麻痺させ、数時間が経ったのか、それともまだ数分

なのかさえ定かではなくなっていく。


不意に、鉄の壁を伝って奇妙な音が響いた。


金属が激しくぶつかり合うような音。続いて、くぐもった叫び声。


さらには、艦内の鉄の構造物に反響して正体の掴めない、乾いた硬い音が数回、

倉庫の扉越しに伝わってきた。


(何が起きている……?)


ヴァルターは扉に駆け寄り、冷たい鉄に耳を押し当てた。

だが、厚い扉の向こう側で起きている騒動の正体を、暗闇の中では判別できない。


やがて、騒音はふっつりと途絶えた。


耳が痛くなるほどの静寂が戻り、ヴァルターが安堵しかけたその時だ。

「……っ、げほっ……!」


突如として、鼻の奥を焼くような強烈な刺激臭が立ち込めた。


暗闇の中で、目と喉に激痛が走る。経験したことのない異臭――

それは、目に見えない鋭い刃となって彼の呼吸器を切り刻み始めた。


何が起きたのか。ヴァルターには知る由もなかった。


彼は逃げ場のない鉄の箱の中で、かきむしるように喉を抑えてのたうち回った。

肺が焼け、視界が急速に濁っていく。意識の輪郭が崩れ、暗闇よりも深い混濁が

彼を飲み込んでいった。


END

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