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「……トルコへ向かいましょう」
ヴァルターは、ためらいがちに言葉を継いだ。
「中立国なら、抑留はされても命の保証は得られますし、敵軍に引き渡される危険もほとんどありません」
艦長は顔を上げず、しかし横目だけでヴァルターを一度だけ確かめる。
「どうやって領海に入る? 亡命申請でもするか?」
淡々とした声に、単なる皮肉ではない静かな圧があった。
「自分は門外漢なので、あくまで大枠の話になりますが――例えば、夜のうちに
浮上して、沿岸の浅瀬へゆっくり近づく。舵が利かず、潮に流されてきたように
見せるんです。座礁する手前で止まって、そこで救難信号を出す。
“潜れない、動けない、浸水の危険がある”と訴えれば、相手は国際法上助けざる
を得ないはずです。もちろん、疑われないよう“壊れた跡”を残しておく必要はあるでしょうが」
艦長はしばらく黙っていた。海図の上に置かれた手が、わずかに震えたようにも
見えたとき、「ヴァルター」と低い声が落ちた。
「仮に救助され、抑留されたとしてだ。トルコ側に我々を匿う義理はない。
ドイツに送り返されれば、無意味どころか、最悪軍法会議だ。
そうならないための“保険”はあるのか?」
ヴァルターは静かに答えた。
-現在の戦況に関する情報を引き渡す→P.93
-潜水艦そのものを引き渡す→P.95
-暗号表を渡す→P.96




