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第8話 生活魔法

だいぶ書くのに慣れてきました。


なろうっぽくなってきた気がします。

ふぅ、と長いため息をつきながら、ヒディは額を押さえた。セックの話を聞いていると、とにかく情報量が多い。理解しようとすればするほど、頭がパンクしそうになるのだ。


「セックさん、なんとかお話の内容は理解できたつもりですけど……正直、脳が湯気を吹いてる気がしますよ。」


そう言って、手で頭をポンポンと叩いてみる。少しは冷えた気がした。


ふと横を見ると、ジョンが地面に寝転んで、のんきに眠っていた。柔らかな草の上で、彼は気持ちよさそうに寝息を立てている。


「おい、ジョン。寝てたのかよ!お前が寝てる間、俺は頭をひねってるんだけどなぁ……羨ましいぞ、このマイペース加減。」


文句を言いながら視線をずらすと、ルミナスがニコニコしながらジョンに寄り添って、これまた幸せそうに眠り始めていた。その姿が愛らしく、ヒディは思わず肩をすくめた。


「ルミナス、お前もか。まあ、可愛いからいいけどさ……。」


そんな二人の様子にため息をつく間もなく、セックの明るい声が響いてきた。


「いや~ヒディさん、真剣に話を聞いてくれてるのはありがたいんですけど、せっかくですし、もう少し話しましょう?」


セックの軽い口調に、ヒディは思わず苦笑する。


「雑談ですか?まあ、それもいいでしょう。……そういえばセックさんは物知りですよね。それって元々の性格ですか?」


「おお、それ聞きますか!いやいや~実はですね、世界の管理者になった時にアカシックレコードってやつへのアクセス権を手に入れたんですよ!」


「アカシックレコード……何でも知ってるというあれですか。じゃあ、すべて理解できるんですか?」


「いや~それがねぇ、情報量が多すぎて追いつかないんですよ。それに、理解するには多次元的な感覚が必要だったりして。正直パンクしそうです!」


セックが軽快に笑うのを聞いて、ヒディも小さく笑った。「大変そうですね……でも、それを使いこなせるのはすごいと思いますよ。」



セックの明るい声がそんな微妙な空気を打ち破る。

「せっかくなのでGMについてもお話しましょう!」


「GMの話?それって、重要そうですね。どうぞ。」


セックは得意げに頷きながら続ける。

「はい!この世界には5人のGMが存在していて、それぞれが特別な力を持っています。そのうちの1人は幼児のルミナス、もう1人がこの私。

そして、2番目に力が強いGMが今行方不明なんです。」


「行方不明?そんな重要な存在が消えるなんて、どうしてです?」


「彼は世界を維持する方法について他のGMたちと意見が対立していたんです。その計画があまりにも過激すぎて、私たちは賛同することができませんでした。」


「過激な計画って具体的には?」


セックは少し迷うような仕草をしつつ答える。

「まあ……世界を完全に安定させるために、弱い存在を淘汰するという方法ですね。すべての歪みを強引に取り除くというか……正直、犠牲が大きすぎるんですよ。」


ヒディは思わず息を呑む。

「それは確かに過激すぎますね……でも彼はその計画をまだ諦めていない、と?」


セックはゆっくりと頷いた。

「そうです。彼は去ったものの、その野心を捨てることはありません。今もどこかで、自分の計画を実現するための方法を探しているはずです。」


「でも、行方不明のGMがいない今、この世界は問題なく回っているんですね。」


「ええ、今のところは彼がいなくても維持できています。ただ、彼の力がないと解決できない歪みがあるのも事実です。いずれ、それが大きな問題になるかもしれません。」


「まぁ長い時間をかけてじっくり修正すればなんとかなるでしょう。いままでもそうしてきましたから」


「この世界でGMやりだしたのって何年前くらい?」


「ざっと、3000年くらいですかね。まあ、この世界が安定するにはあと何万年かかるか分かりませんけど。」


「……3000年!? セックさん、それはすごい……!でも、それだけの期間を支えるって並大抵のことじゃないですよ。」


「いやいや~不死身だからできる芸当ですよ。大変なのは慣れです!ハハハ!」





その間も、ルミナスはジョンに寄り添い、幸せそうな寝顔を見せていた。そんな二人の姿にヒディは微笑み、軽く肩をすくめた。


「ルミナス、ほんと癒されるな……さて、夕方になるし、そろそろここで野営するのがいいかな。」


「それがいいですね!ここなら安全ですよ。この5体の像の結界のおかげで、誰も入れませんから。」


セックの言葉に、ヒディは頷いた。「結界があるんですか。それなら安心ですね。では、ここでお世話になります。」





通信が終わりに近づくと、セックが改めてヒディに話しかけてきた。



「さて、最後に3つのアドバイスをお伝えしますね!」と、セックがどこか楽しそうな声を上げる。


ヒディはすでに情報量に疲れていたが、どうやらセックはまだ続ける気らしい。仕方なく、彼は「聞いていますよ」と言いながら腰を下ろした。

横を見ると、ジョンが寝たまま幸せそうに鼻を鳴らしている。ルミナスは相変わらずジョンにぴったりとくっついて、すやすやと夢の世界だ。


……ほんとに、お前たちは自由だな。


ヒディは軽くため息をつき、セックの話に耳を傾けることにした。


「まず1つ目!ヒディさん、あなたは世界に愛されているんです!」


「はあ?」

聞き慣れない話に、思わず聞き返す。


「ほら、光の粒子が見えるでしょう?あれ、ヒディさんの周りにだけ集まってるんですよ。精霊たちが常に寄り添っているってことですね!」


「……あれって森全体の現象じゃないんですか?」


「違います!ヒディさん限定です!」


「ええ……」

ヒディは今まで森に入るたびに目にしていた光の粒子を思い出しながら呟いた。今まで特に気にも留めていなかったが、まさか自分だけだったとは……。

いやいや、それならもっと早く言ってくれ。なんかすごいことっぽいけど、実感がないぞ?


「まあ、精霊に頼めば気配を消すこともできますよ。集まりすぎて目立っちゃうこともありますし!」


「精霊の方々が便利なのは理解しましたが、こんな形で目立つのはどうかと思いますね……。」


ヒディは肩をすくめながら、己の周りにふわふわと漂う光の粒子を見つめる。……確かに、今もなんか舞っている。


これは気にしないことにした。後で誰にも見えないようにしてもらおう。


---


「さて、2つ目のアドバイス!今の世界では、魔法に原理や理屈があります!」


「ほう、やっと魔法の話ですね。ゲームのときの仕様とは違うんですか?」


「ええ!ゲーム時代の魔法も使えますが、それ以外の魔法も使えます!ヒディさんが望めば、多少世界を変えることもできますよ!」


「そんな、簡単に世界を変えられても困りますけど……。」


「まあまあ!ヒディさんの場合、精霊が手助けしてくれるので、ちょっとした願いなら影響が出るかもしれませんね!」


「はぁ……。もう、なんかわかんないですけど、正直ピンとこないです。」


ヒディはまたしても肩をすくめた。なぜか世界に愛され、精霊が寄ってきて、ちょっとしたことなら願いが叶うかも、と言われると、なんだかスーパーマンにでもなった気がする。

しかし、本人の感覚はただの疲れた中年男性だ。


「ああ、それと3つ目!生活魔法についてもお伝えしておきますね!」


「生活魔法?」


「はい!この世界では、人々の生活を安定させるために、誰でも使える基本的な魔法を広めています!その中でも特に便利なのが――『クリーン』『アイテムボックス』『チャッカー』の3つです!」


「……それは、どんな魔法なんですか?」


---


**『クリーン』**

「簡単に言うと、なんでもキレイにする魔法ですね!」


「ふむ、洗浄魔法みたいなものですか?」


「そうです!汚れた服や体も、一瞬でキレイになりますよ!」


「……いや、それってただの風呂いらず魔法じゃないですか。」


「まさにその通り!」


ヒディはなんとも言えない顔をした。確かに便利ではあるが、魔法という壮大な響きに対して、ただの掃除能力なのはいかがなものか。


「ただし、完璧ではないです!汚れは落ちますが、完全に新品になるわけではありませんからね!」


「結局、ちゃんとメンテナンスしないとダメってことですね……。」


---


**『アイテムボックス』**

「これはですね!手荷物くらいのスペースなら異空間に収納できる魔法です!」


「はぁ……小型収納魔法?」


「そうです!ちょっとした荷物を持ち運ぶのに便利ですよ!」


「……それって、ポケットと何が違うんですか?」


「ふふふ、ポケットよりは広いですよ!あと、重さも消えます!」


「つまり、便利なカバンの代わりですね……なんか、魔法って言われるとすごそうなのに、ただの収納機能にしか聞こえませんが。」


「まあまあ!便利ですよ!」


ヒディは、「まあ、悪くはないか……」と呟きながら納得しておいた。魔法とはいえ、たいそうな能力ではない。


---


**『チャッカー』**

「そして最後!『チャッカー』!」


「なんです、それ?」


「種火程度の日をつけられる魔法です!焚き火するなら一瞬!」


「……それ、つまりライターですよね?」


「まぁ、そうですね!」


ヒディはその瞬間、がっくりと項垂れた。


「いや、ちょっと待ってくださいよ。俺が苦労して習得した、原始的な着火方法はどうなるんですか?木をこすり合わせたり、石をぶつけたりして……!」


「ふふふ、もうそんな苦労は不要です!」


「いや、不要って言われても……俺の努力はどこへ行ったんですか……。」


通信の向こうでセックは楽しそうに笑っていた。


「じゃあ通信はこれで終わりますね!ヒディさん、野営楽しんでください!」


---


通信が途切れた後、ヒディはため息をつきながら指先を突き出して呟いた。「……チャッカー。」


指先にライターのような火が灯る。


「俺の苦労、完全に意味なくなったじゃないか……。」


しょんぼりとしながら、彼はきれいな夕方の空の下で黙々と野営の準備を進めるのだった。







焚き火がパチパチと音を立てながら、じわじわと肉を焼き上げていく。炎の揺らぎに照らされながら、ヒディは長いため息をついた。


「……セックさんに塩のことも頼めばよかったな。」


そう呟くと、じわりと広がる肉の香ばしい匂いが、より一層その後悔を際立たせた。毎日肉ばかりの食事が続くと、さすがに飽きてくる。それでも今日は少しだけ特別だった。


珍しい果実――**「メイロ」**を手に入れたのだ。

見た目はリンゴに似ているが、皮はほんのり青みがかかり、果肉は少し黄色っぽい。味は甘酸っぱく、火を通すとさらにコクが増すらしい。

しかし、正式名称を知らないヒディは、ただ「青リンゴみたいなやつ」と呼んでいた。後に街の住民に「メイロ」と聞かされ、それがこの世界での名称だと知ることになる。


「まあ、いつもの肉にちょっと変化があるだけマシか。」


ぶつぶつ言いながら串を返す。脂が滴り落ち、炎が一瞬勢いを増したその時だった。


---


ジョンがゴロンと体を起こし、鼻をひくつかせた。


「……やっぱり、肉の匂いには勝てないか。」


ヒディが苦笑しながらその様子を眺めていると、ジョンがムクムクと立ち上がり、大きく伸びをする。その振動に巻き込まれたルミナスも、ぴょこっと頭を持ち上げて、目をこする。


「うー……?」


まだ寝ぼけているらしい。しかし、次の瞬間、焚き火の香ばしい匂いに気づいたルミナスの目がぱっと輝いた。


「おにくー!」


「はいはい、待ってろよ。」


ヒディは串を取り上げると、一つの肉をジョンに差し出した。彼は最初はじっと見つめていたが、次の瞬間、ペロっと舌を出して焼けた表面をひと舐め。


そして、ヒディは気づいた。


「……そういえば、ジョンにはずっと生肉食わせてたな。でも、焼いた方がいいのか?」


ジョンは満足げに肉を咀嚼しながら、尻尾をゆっくりと振る。これはつまり、「こっちの方がいい」と言っているようなものだ。


「……おい、今まで生肉を黙って食ってたのかよ……。」


ヒディは思わず額に手を当てた。どうやら気づかぬうちに、ジョンにとんでもない食生活を強いていたらしい。


「悪かったな。明日からちゃんと焼くわ。」


ジョンはそれを聞いて、嬉しそうに鼻を鳴らした。




食事はゆっくりと、和気あいあいと進んでいく。


「やっぱり焼くと香ばしくなっていいな。」


ヒディがそう呟くと、ルミナスが元気よく頷いた。


「おいしい!おいしい!」


「気に入ってもらえて何よりだ。」


ルミナスは手をバタバタとしながら、メイロの果実を器用に口に運ぶ。甘酸っぱい果汁が口の中で広がり、満足そうな顔をする。ジョンもそれを見ながら口をモグモグと動かしていた。


「しかし……お前ら、本当に食うのが好きだな。」


ヒディはそれを見ながら肩をすくめた。だが、こうして誰かと食卓を囲むのも悪くない。

焚き火の温もりと食事の楽しさが、いつもより少しだけ気持ちを軽くしてくれた。




食事を終えると、ヒディは聖水を鍋に注ぎ、ゆっくりと温める。


「あ~塩もだけど、お茶も頼めばよかった……」


「ルミナス、お湯が飲めるぞ。」


「はーい!」


彼は嬉しそうにヒディが渡した温かい水を口に運ぶ。ふぅ、と息を漏らしながら、落ち着いた表情を見せる。


ジョンにはそのまま聖水を飲ませる。体を整える効果があるため、彼も落ち着いた顔でゴクゴクと飲み干した。


「これで体調も問題ないだろう。」


ヒディは聖水のカップを持ったまま、ふと夜空を見上げる。


そこには、青く輝く惑星――この世界の衛星である**「シリウス」**が浮かび、その周囲には美しい輪が広がっていた。


「……綺麗だな。」


青い月のような惑星と、環を描く輪。静寂の中、その景色は不思議な安らぎをもたらしてくれる。


ルミナスはウトウトとしながら、ヒディの腕に寄りかかる。


「眠い……」


「そろそろ寝床の準備だな。」


ヒディは立ち上がると、テントの中に毛皮を敷き詰め、ルミナスを寝かせた。彼はすぐにふわっと丸くなり、まどろんでいく。


そしてヒディもその横に寄り添いながら、そっと腕を回す。


ジョンは背中にピッタリと引っ付いてきて、そのまま寝息を立て始めた。


「……今日は色々ありすぎたな。」


そう呟くと、あっという間に眠気が押し寄せてきた。


何も考える間もなく、ヒディはそのまま深い眠りへと落ちていった。







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