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第6話 遺跡の中の幼児とGM

焚き火を囲むハンターたちは、どこか落ち着かない様子だった。

休憩中とはいえ、心の片隅では時間が迫っていることを感じているようだった。

レオヴィンが立ち上がり、仲間たちに鋭い視線を送る。


「そろそろ動くぞ。」


ゴルダンが肩をゆっくりと動かし、腕の具合を確認しながら低くつぶやく。


「俺が怪我なんかしなければ、もっと早く動けてたんだがな……」


話を聞いているうちに、状況が見えてきた。

ゴルダンは先日、討伐対象であるネームドオーク「ブロークスカー」と遭遇していたらしい。

森の奥で罠を仕掛けようとしたところ、ブロークスカーに気付かれて反撃を受けたのだという。

その時はなんとか逃げ切ることができたが、深手を負ってしまった。それでも彼は仲間に迷惑をかけまいと黙っていたようだ。


「怪我が治らなければ、一旦街に引き返して治療を受けるしかなかった。

ポーションが効かなかったら、本気で任務失敗だっただろうな」とゴルダンは苦笑いを浮かべる。


「ネームドオークは一瞬の油断も許されない相手だものね。

あなたの体が動かなければ、今回は街そのものが危険にさらされる可能性もあるわ」とマリアが鋭い眼差しを向ける。


「まあ、ポーションのおかげでなんとかなりそうだが……正直、助かった。」

ゴルダンは腕を回して試しながら、安堵のため息を漏らす。



しかし、彼らが焦っているのは怪我だけではないらしい。話を聞いてみると、ネームドオークの討伐任務について、

騎士団と「猟撃の絆」がそれぞれ別の依頼主の指示で動いていることが分かった。統治機構の複雑さが原因で、騎士団とハンターが連携せずに別行動を取っているのだ。


レオヴィンが説明を始めた。


「ヴァルムレイス辺境伯領の街には二つの警備組織がある。一つは領主直轄の騎士団だ。領土防衛を主な任務にしている。

もう一つは『公選保安隊』だ。街ごとに選挙で選ばれる保安官が率いる組織で、領主が形式的に任命しているが、街の独立性が強い。」


「選挙で選ばれるってことは、市民の安全に特化しているってことか?」


「その通りだ。ただし、騎士団は領主の指揮下にあるが、公選保安隊は街の選挙による指導を受ける。

結果として依頼主が違えば、同じ獲物を狩るのに別々の行動を取ることになるんだ。」


「つまり、騎士団は領主から、猟撃の絆は公選保安隊から依頼を受けている……そのせいでブロークスカーを別々に追っているのか。」


エルヴィスが苦笑しながら続ける。


「その通りだ。協力すればいいのに、組織の違いがあるから連携はしづらい。だから俺たちと騎士団は別行動してるってわけ。」


「騎士団と鉢合わせする可能性はないのか?」と尋ねると、ゴルダンが肩をすくめながら答える。


「向こうは向こうで、俺たちは俺たちで、仕留めるだけだ。どっちが先にやるかの話だな。」


レオヴィンが剣の柄に手をかけながら、部下たちに視線を送る。


「ともかく、ブロークスカーは移動が速い。早く行動を起こさなければ、手遅れになるかもしれない。」


「気をつけてくださいね」と声をかけると、エルヴィスが軽く笑いながら肩を叩いてきた。「お前もな、ヒディ。何かあったら頼れよ。」


「私達が街に戻るまで、貴女がまだいてくれてたら嬉しいわ。話したいこととかあるから」と熱のこもった目でマリアが言った。告白でもしてくれるのだろうか?


「では、また会う機会があることを願おう」とレオヴィンが言い、ハンターたちは焚き火を後にして討伐へ向かった。





騎士団と別れた後、ジョンとともに再び街道へ戻る。歩きながら、先ほどのやり取りを振り返る。


「今どきのゲームってリアルすぎないか?警察機構がアメリカみたいだなおい」

保安官と市警の対立のようだな、と思う。


まあ、こういう対立って、ゲーム内でもよく見たシチュエーションではあるけど。

こっちの世界でも、ああいう組織がこんなに複雑に絡んでるのか?

まあ、ゲームみたいに「ボス倒せば終わり」なんてわけでもないし、こんな現実感のある世界なら、各組織の事情とかも絡んでくるのも当然か。面倒くさいな。


でも、あのエルフのマリア、なんか気になるな。

珍しいって言われても、エルフが珍しいのか?そもそも私はダークエルフの一種だけど、エルフ同士でこんなに反応が違うのか。まあ、どっちでもいいけど。とりあえず、気にしすぎないでおこう。


「ジョン、次どうする?」


ジョンは何も言わずに首をかしげる。

まあ、こっちに聞かれても返事はできないだろうけど、そんなジョンの反応もまた愛おしい。


「とりあえず、街を目指すしかないか」


なんとなく、軽く息を吐きながら歩き続ける。


ジョンを撫でながら歩みを進める。

目の前には滝が流れ、広がる自然の花畑が風に揺れる。どこか懐かしさを感じさせる風景だ。

道端には、かつてのゲームの名残のようなものがちらほらと残っている。例えば、朽ちた石碑や建物があったであろう基礎の名残。

記憶の中の景色と微妙に違うが、それがかえってこの世界の不思議さを際立たせる。


ああ、こんな景色、ゲームでも見たな。

でも、現実にこうして自分の足で歩いていると、まるで自分がゲームの中に取り込まれているみたいな気分になる。

こっちの世界では、あの時の「ただの背景」だった風景が、今こうしてリアルに目の前に広がっているんだと思うと、少しゾクっとする。


ジョンは尻尾を振りながら、まるで肯定するかのように顔を上げて歩みを進める。お前も結構楽しんでるんだろうな。


滝の音が心地よく響く。ふと、昔、ゲームで遊んでいたときに思い描いていた「異世界感」とはまた少し違う、現実感のある美しさが広がっている。

どこか、懐かしく、そして新しい。

あまりにスムーズに世界が進んでいくから、ちょっと心の中で「これは現実じゃないのか?」って思いたくなるけど、それを考え始めるとまた面倒くさくなりそうだから、考えないことにしよう。


ジョンが何度も道端の草を嗅ぎながら歩く様子を見守りつつ、なんとなく今はのんびり進んでいけばいいかな、と思う。


歩き続けるうちに、小高い丘の上に5体の像が見えてきた。ゲームの記憶では、そこには3体の像しかなかったはずだ。

しかも造形が異なる。あの場所は、キャラクターが上位ジョブに転職するためのクエストで訪れる場所だった。

しかし、今は廃墟のように荒れ果てている。


「懐かしいな……でも、なんで像が増えてるんだ?」と呟きながら、ジョンとともに丘へ向かうことにした。


丘に近づくと、5体の像に囲まれた中心に幼児がポツンと座っているのが見えた。

2歳か3歳くらいだろうか。幼児は舞っている光の粒子と遊んでいるようで、それでいて誰かを待っているような雰囲気を漂わせている。

その場所全体が神聖な空気に包まれているように感じられた。


「おいおい、これは……なんだ?」

思わず声が出そうになるが、自然と声を呑み込む。

まるでこの場所が、何かしらの「意味」を持っているような気がして、足が勝手に止まった。


ジョンが前足を踏みしめ、じっとその幼児を見つめている。

その様子からも、何かを感じ取っているのだろう。


「こっち来てくれよ、ジョン」と静かに呼びかけると、ジョンはゆっくりと歩き始め、俺の後ろにピタリと寄り添った。

その姿勢に少し安心するが、それと同時に何か得体の知れない不安が胸に広がっていく。




そうこうしているうちに、幼児がこちらに気づいた。満面の笑みを浮かべ、幼児特有の語彙力のないカタコトで喜び泣きながら手を伸ばしてくる。


「きた!きた!あそぶ!あそぶ!」 幼児は嬉しそうに手を振りながら、こちらに向かって小さな足でよちよちと歩いてくる。


「えっ、どうしたの?」と戸惑いながらも、どこか母性本能をくすぐられるような感覚に襲われる。

思わず幼児を抱き上げてあやしている自分に気づく。


「だっこ!だっこ!だいすき!」 幼児は満面の笑みを浮かべながら、こちらの首にしがみついてくる。

その無邪気な笑顔に、怒りや憤りが少しずつ和らいでいく。


ジョンも幼児をあやそうと、鼻を鳴らしながら近づいていく。幼児はジョンを見てさらに喜び、

「わんわん!わんわん!」と手を伸ばして触ろうとする。


「どうしよう……この子、どうすればいいんだ?」と途方に暮れていると、突然耳でコール音が鳴り響いた。

あっ、GMか。今かよ!まあいいけど。手が離せない時に限ってもう!ぶつくさ言いながら幼児を下ろす。幼児も不満そうだ。


コントロールパネルを出し、GMアイコンをタッチする。


「え~おまたせしました。全部把握しました。そこでアレなんですが。良いお知らせと悪いお知らせがあります。」


なんかこいつ持って回った言い方してきたなと思った。それが予想外で衝撃的な事とは知らずに。






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