page.8『ひと夏の出来事と、代償。』
それは、一昨年の夏でのこと――。
少年はその日、実の姉に荷物持ちとして連れられて、多くの人で賑わうショッピングモールやデパートの類で栄えた、駅前の街に足を運んだ。
姉に連れられるがままに、少年は姉がお目当てとする店を転々とした。レディースものが多く並ぶ洋服店に雑貨店、コスメショップなどを。
購入した商品の袋は店を出るのと同時に、姉の手から少年の手にそれがあたかも当然のように受け渡された。
おかけで、姉の両手は身軽なのに反して、少年の両手はあらゆる店の袋でいっぱいだ。
自宅を出たのが午後十二時前。そして、ようやく姉の用事が済んだのが午後十四時過ぎ。それから少年と姉のふたりは駅前の店で腹ごしらえを済ませたあとで駅前を離れた。
その帰り道。
道中で、
少年たちは偶然にも出くわしたのだ。
目の前の道路で、小さな女の子が走行中の車と衝突しそうな状況に……。
クラクションを鳴らして危険を知らせる車に、女の子は足がすくんでその場から動けそうにはなかった。
そんな中で、少年は咄嗟にその女の子を助けようと、
「あぶない‼」
と、叫んで呼びかけながら女の子のもとまで進み出ると、そのまま女の子のことを軽く突き飛ばした。
結果的に、少年の咄嗟の行動のおかげで、女の子は車と衝突することはなく、少年に突き飛ばされたことによるほんの僅かに及ぶ掠り傷だけで済んだ。
しかし、女の子が突き飛ばされたのに続くようにして、少年の背後からは、少年の名前を叫ぶ女性の声が聞こえた。かと思うと、車の車体と人が衝突したかのようくぐもった音がそこには響き渡った。
女の子を助けに出た少年が、そのまま車と衝突してしまったのだ……。
少年は車に跳ね飛ばされたことで、数メートルほど離れた先の道路の上にうつ伏せの状態で倒れ込み、微動だにしないまま起き上がる様子などもない。
その光景を前にした少年の姉は、少年の名前を呼びながら少年のもとまで駆けよると、何度も何度も少年の名前を叫ぶように呼び続けた。けれど、少年からの返答はない。意識すらないようだった。
それから少年はあのままその場で目を覚ますことはなく、女の子の両親が呼んでくれた救急車で病院まで無事に搬送された。
車との衝突で少年は一時的に意識を失うことになってしまったものの、幸い、衝突の間際に運転手がぎりぎりでブレーキを踏み込めたことで大事には至らずに済んだ。最悪の結果も免れれた。
しかし……。
『記憶喪失』
目を覚ました少年と、その少年の姉を含めた家族らには、医師からそんな説明を聞かされた。