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7話 クラスの役員・委員決め

 部活動見学の一週間は様々な出来事がある。

 新入生の学力を図るテスト、クラス役員を決めて委員会の選出など、さまざまだ。それらイベントをこなす上でクラスに影響を与えるのは、綾乃が皐月をストーカー扱いしたその後であった。晴巳はすぐに葵と和俊にその事を報告していたのだが、二人がチャットを見たのは部活動見学の後だった。


『やべえよ、皐月ちゃんが葵のストーカーになってる』


 どういう事か聞いたら、佐々木綾乃がクラス中に聞こえるように言ったという。

 葵は頭を抱えた。だが、これで皐月も綾乃から距離を置いてくれるはず。問題は誤解してあるであろうクラスメイト達だ。


『休み時間に毎回さっちゃんと一緒にいたら誤解解けるかな』


『毎回はやめたとけ。誤解解けても佐山さんの女子友達がいなくなるんじゃね』


『女の子って難しいもんな。最初のグループが肝心じゃん』


 距離感が難しい。いつでも皐月と一緒に居たいのに、女子友達の事を考えないといけない。その最初が綾乃だったのが痛手だ。

 実は葵、このCoPeoのやりとりをしている間、ずっと佐々木綾乃から逃げ回っていたのだった。

 結局隣の駅まで歩き、そこから電車に乗る事になった。


 その翌日、翌々日の休み時間はほどほどに皐月に声をかけに行った。綾乃が駆けつける事もあったが完全に無視し、皐月を呼び出して廊下で些細を話す。それだけで皐月のクラスの女子からの印象が変わっていった。


「葵くんが話しかけてるなら、佐山さんストーカーじゃないね」


「いいなぁ、一級品のイケメンとあんな風に話せて」


「見せつけられてる気がして感じ悪い」


「佐々木さんと付き合ってるのに、取ろうとしてるのがちょっと……」


 賛否両論まであった。葵が目立つだけにどうして普通の皐月が一緒なのかと妬む声、ストーカーじゃないなら別に良い、そんな声も多々あった。

 ある休み時間、葵は皐月に委員会はどうするのか尋ねた。


「部活に集中したいけど、内申点は稼ぎたいから悩んでるの」


「俺も。バイトと被るといけないから考え中。明日までに決めないと」


「バイトは何してるの?」


 通りすがりの女子達が耳を傾けた。


「まだ決まってないよ。来週面接だから」


 さらなる女子達が耳を傾ける。


「どこ受けるの?」


 この回答に注目した女子達に気づいた葵は、「ごめん、続きはCoPeoで」と話を切った。

 そのタイミングで和俊が葵に声を掛ける。次は教室移動しての授業だからだ。筆記用具を含めた教科書などを用意しに慌てて教室内に戻った葵。その間、皐月と和俊が一緒になった。

 何か話さなくては。皐月は声をかけてみた。


「えっと、九十九くん、だよね」


「へえ、覚えてくれたんだ」


「珍しい苗字だから」


 和俊が頷いた後、ぱたっと止まる会話。共通の話題が葵しかない上に、何を話せば良いのか悩む。沈黙しか流れない中、葵が戻ってきた。


「悪い、行こう。さっちゃん、またね」


 手を振って別れた後、教室に戻った皐月はまっすぐ自席に戻った。ストーカー疑惑の後、皐月に声を掛ける女子がいなくなってしまったのだから。

 せめて同じ部活の子だけでも話してくれるかと思ったがそうでもない。その子はその子のグループが出来てしまった。ぽつんと一人でいる女子は、同じ月丘中学出身の相模だけ。メガネをかけた彼女はいつも本を読んでいる。葉子の話では中学の時も同じだったらしい。


(話しかけづらいなぁ。席替えもまだかな)


 とても気まずい。女子のグループはあっという間に出来てしまい、一度出来るとなかなか輪に入りにくくなる。皐月をストーカー扱いした綾乃は、別のグループにしれっと入っていた。


 授業の鐘が鳴った。担任の柳原が入ってくると、皆慌てて着席した。この時間はクラス役員と委員会の選出だ。

 まずはクラス委員。担任が黒板に書き出していく。会長、副会長しかないが、クラスの取りまとめという、実質仕事が少ないので二人で十分なのだ。

 立候補者は黒板に名前を書いていくのだが、誰一人として動こうとしない。クラスメイトの一人か質問した。


「せんせー、これって推薦もあり?」


「何でも良いぞ。決まったらこの後の委員会の選出を任せるからな」


 早速仕事だとクラス中に悲鳴が木霊する。


「喜ぶな喜ぶな」


 決して喜んではいない。

 委員会よりクラスの中の方が良いのか、しかしクラスメイトとろくに話せていないので控えたい。さて困った。

 そこで立ち上がった最初の一人は小林晴巳。早い者勝ちだと書いたのは、副会長。

 他に候補はいないので、先に決まった。アンテナを立てたのは綾乃だ。


(小林が立候補するなら葵くんもやる? 葵くんは運動が好きだから体育委員やりそうだけど。確か次決めるのよね、隣のクラス)


「会長は俺が推薦っつーか俺が決めるわ」


 言いながらじっと皐月を見つめる晴巳。皐月の頭に疑問符が湧きながら予感がしていた。彼はにこっと笑って「皐月ちゃんで」と声を大にする。やはりご指名であった。

 そこで綾乃が慌てて立ち上がった。


「待って! 私が会長やるわ」


「だったら俺、副会長辞退するわ」と、真顔で黒板を消す。


 眉間に皺を寄せて一瞬でもムッとする綾乃と、彼女を見下すような視線の晴巳。

 よし、と彼は多数決を提案した。クラスの半数以上で皐月と晴巳コンビか、綾乃とその他かで決める。選択肢の中に晴巳と綾乃のコンビはなく、入れるつもりもない。


「いいよね、皐月ちゃん」


 会長をやるかどうかも悩んでいた皐月。どのみち綾乃に反発されるならば何もしても一緒だろう。


「うん、わかった」


 早速取った多数決の結果は、皐月と晴巳コンビはほぼ男子陣と女子数名で過半数超、綾乃とその他は過半数にも満たなかった。

 それでも半数近くが綾乃を推している事が気になる。皐月をまだストーカーだと思い込んでいるのだろう。


「はい決まり〜。皐月ちゃん、早速委員会決めよ」


 前に出るよう手招きする晴巳。離席して前に出るだけで緊張する。まだクラス全員の顔と名前を覚えていないうえに、女子の視線が痛いような気がした。

 晴巳は皐月をフォローする形で、仕切って取りまとめるのは皐月だ。決める委員は風紀、体育、図書であり、その他生徒会もある。各委員会、一名ずつの選出。黒板に書き出して、再び名前を書いていく方式にした。

 意外にもこちらは食いつきが良く、真っ先に名前を書きに行ったのは皐月と同じ中学出身の相模だ。彼女は図書委員を希望した。


(そういえば相模さん、月丘で図書委員長やってたっけ)


 大人しい彼女は休み時間になると本を読んでおり、図書委員の仕事でもお薦めの本を並べる程本が好きだと聞いたことがある。

 図書委員は他の立候補がいない為、すんなりと決まった。

 残りは風紀、体育、生徒会だが、偏りがある。体育は人数が多く、風紀と生徒会は立候補者がいない。

 体育は男女一名ずつになるように、じゃんけんをして決めてもらったが、問題は風紀と生徒会だ。


「誰かやりたい人いませんか?」


 皐月が声をかけても、女子の殆どは無視をしている。皆、内申点を気にしていないのだろうか。勉強が苦手だとしても、委員や生徒会の仕事をすれば点数は稼げるというのに。


「誰も手を挙げないなら、俺が勝手に決めちゃうよ。いいの?」


 強硬手段、と言わんばかりに満面の笑みを浮かべる晴巳。クラス中は晴巳へのブーイングの嵐だ。


「よーく考えてみろよ! 少しでも点数を稼いで大学へ推薦貰う手もあるだろ。ねっ、先生」


 くるっと柳原へ向く晴巳に「考慮はするが、選考の一つでしかないけどな」と必ずではない事実を突きつけた。


「やった方がいいってことで! えーと、生徒会は学校運営で、風紀はそのまま規律を守ろうってこと。ここで実績作れば、推進も選考されんじゃね?」


 下心満載でいいと晴巳がほほ笑む。少しずつ、クラスの中で手を挙げる人が出てきた。

 皐月はそんな晴巳がすごいと尊敬の眼差しをむける。さらにその後、あっさり難航した委員が決まったのだから。


「決まり~。じゃ、これで委員も決定! 早速来月、レクがあるみたいだから、体育委員の出番かもな」


 皐月は自分より晴巳の方が会長に向いているのではと思いつつも、決まった事で安堵した。

 綾乃の痛い視線が突き刺さる気がしたものの、気にしないようにしながら晴巳に感謝の意を伝えた。

 クラスの会長と副会長はそこまでやる事がない。基本は教師の手足のような雑用が多い。クラス中のプリントの提出、事前の宿題運び等だ。

 決まった直後の休み時間、そんなことを晴巳と一緒にやる事になったと皐月から聞いて知った葵は、そっぽを向いた。


「ご、ごめん、部活もクラス委員もやってると葵君と話す時間も減っちゃうよね」


「違うよ。そうじゃなくて、晴巳がさっちゃんと一緒ってのがさ……」


 これはもしや、葵が妬いているのだろうか。これが俗にいうヤキモチなのか。いやいや、自意識過剰だと皐月は首を横に振った。明らかに不機嫌だからヤキモチではないだろう。勝手に決めたから怒ったのかもしれない。

 そんな事を考えていると、不気味な笑みを浮かべた晴巳が葵の肩を組んで合流した。


「葵きゅ~ん、俺が皐月ちゃんとペアでヤキモチ? 可愛いじゃねーの!」


「可愛い言うな! 複雑なんだよ、俺は!」


「妬いてんじゃねーかよ」と和俊も合流した。


「妬いてなんか……!」


 皐月の顔をみて言葉を止めると同時に赤くなる葵。ぼそっと「妬いてない」と呟いた。

 次は葵たちのクラスの役員と委員決め。先に情報を仕入れた結果、その作業ならバイトにも支障なさそうだと判断し、和俊と葵が手を上げようかと話合いだした。

 体育委員になると思っていたが、五月のレクリエーションを考えるとバイトに支障がでそうなので断念することにした。


「さっちゃんが会長なら俺も立候補しようかな」


「どうしてもそうなるだろ。お前クラス中の人気異常だぞ」


「それなら和俊でいいよ」


「やだよ。妬まれたくねえよ」


 改めて伺える葵人気。それにしても異常とは一体どういう事かと思っていたら、ちょっとしたファンクラブが出来ているらしい。尊い存在として扱われ、抜け駆け禁止らしい。


「和俊もセットだよ」


 しれっと話す晴巳は除外対象らしい。葵と和俊のツートップによるBLも検討されているとかなんとか。

 内申点を取るかメンタルを取るか、天秤にかけたのだが皐月の一言で決まった。


「葵君と一緒だと嬉しいけど」


「やるぞ和俊。俺さっちゃんと同じがいい」


 嫌がる和俊を巻き込むことになった。慌てて否定する皐月。


「待って待って、違うの! そりゃ嬉しいけど、いろいろあるみたいだから無理しないでほしいなって」


 心配してくれている皐月が可愛くてたまらない葵は、視線で和俊に訴えている。

 共にやろう、乗り越えようと。燃える視線にため息を付いた和俊と晴巳。このタイミングで次の始業の鐘が鳴った。

 授業が始まり、五分少々経った頃に皐月の隣のクラス、葵たちの教室で黄色い悲鳴が聞こえたのは言うまでもない。





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