表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
2/13

1話 よろしく彼女さん

短編の文通〜九年の想い〜の続編です。

最初に短編を見ていただくのをお勧めします。

https://ncode.syosetu.com/n0534eo/

 佐山皐月、十五歳。本日をもって秋山高校の一年生になった。そう、入学式。新しい制服と新しい校舎、新しい教室。彼女の中学の親友二人とは別々の学校なったが、きっといい友達も見つかるはず。中二から文通してた幼馴染と再会したのがその前兆に感じる。

 幼馴染の名前は和久井葵。このひょんな事から葵から届いた手紙をきっかけに文通を開始。お互い気づかぬうちに受験日に再会し、気付いたのは合格発表の日。その日は驚いて逃げ出してしまったが、実は教室に来る前のつい先程、葵と手紙を交換した。今思えば恥ずかしい以上に恥ずかしすぎる事を事を書いている事に気づいた。


『全国大会行けなくて返事しなかった。ごめんなさい。葵くんが好きです』


 合格発表の日、葵の友達が、子供の頃から好きって言っていたから、聞き間違いでなければ両想いのはず……と、親友二人が察知した。

 葵はいつ皐月の手紙を見るのだろう。振られたら入学式から気まずい高校生活が始まる。何故あんな事書いたのか、頭の整理が追いつかずぐるぐるしている皐月である。

 その葵からの手紙をいつ読もうか悩む。緊張して開けない。

 なんて悩んでいるより先に、葵のいない新しいクラスに馴染むのが先決のばす。葵からの手紙は鞄に入れた。

 見渡すと同じ中学の子は数人いるけど、話した事のない人達ばかりで困った。

 とりあえず先に座ると、目の前の人が皐月に話しかける。


「佐々木綾乃よ。よろしくね」


 綺麗なウェーブで長い髪の子。二重で目もぱっちりした美人。なんか得した気分だ。


「私、佐山皐月。こちらこそよろしくね。えっと、何で呼べばいいかな?」


「うーん、綾乃でいいよ」


 いきなり呼び捨ては失礼と考え、さん、ちゃん、何で呼ぼうか悩む前に言葉が出ていた。


「綾乃ちゃんね。私のことは気軽に皐月って呼んで」


「皐月はどこの中学だったの? 何か部活やってた?」


 これなら綾乃と呼び捨てにすれば良かっただろうか。


「月丘中学で吹奏楽やってた」


 この回答をした一瞬、綾乃の顔が強張ったような気がする。気のせいだろうか。


「綾乃ちゃんは?」と聞いてみると、「泉河中学。部活はやってないよ」と答えた。

 泉河中学なら葵と同じ学校。ついつい中学の時の葵のことを知りたくなったけど、我慢しなくては。言葉をごくりと飲み込んだところで、黄色い歓声が聞こえた。


「ちょっとヤバイよ! 隣のクラスに超イケメンがいる!」


「名前は?」


「和久井葵くんだって!」


 早速注目を浴びている葵は、確かに初対面でも乙女ゲームに出てくるようなザ・イケメン。身長も高く短髪ツーブロックで二重の吸い込まれそうな綺麗な瞳。目立ってもおかしくない容姿なのだ。

 クラスの女子たちは我先にと隣のクラスへ向かっているが、見たい人で溢れている様子。


「相変わらず葵くん、モテるのね」


 そういえば葵は泉河中学の出身。綾乃と同じ学校だったのだ。


「そんなにモテるの?」


「一年のバレンタインは両手の袋いっぱいにチョコ。二年から一切受け取らなくなったけどね。あとは、毎月誰かしらに告白されて、その度に断って。噂じゃ和俊くんと出来てるとか……」


 どうやら女性は恋愛対象外という話らしい。

 でも私は知っている。葵は月丘中学の吹奏楽部だった子が好きって事を。だからこそ貰った手紙を開ける勇気がない事を。


「だからね皐月。葵くんを見ても好きにならないでね。無駄だし、彼には中学から付き合ってる彼女がいるから」


 耳を疑った。葵に彼女がいるとは。ならば合格発表の時の皐月を好きという、友達の言葉は嘘だったのか。思い起こせば口を滑らせると同時に葵は友達の口を塞いでいた。

 にこっと笑う綾乃をただ、呆然と見つめるしかなった。


 ガラガラ、と音がすると担任が教室に入ってきた。三十後半だろうか。坊主のややふくよかな男性だ。

 黄色い歓声を上げていた人も、話していた人も着席する。


「皆さん、入学おめでとう。このクラスの担任になりました柳原夏雄です。どうぞよろしく」


 ぱちっと目が合った。この先生、知っている。

 秋山高校の吹奏楽部顧問なのだから。そして指揮者もすれば、ユーフォニアム奏者でもある。秋山高校の定期演奏会で、開場から演奏開始前の二十五分間、それはもう上手い、素晴らしい演奏をしてくれるのだから。


「えー、まずは入学式をーー」


 よりによって担任が入る部活の顧問だとは思いもしなかった。

 一通りHRが終わると、いよいよ入学式。

 名簿順に並んでいるところを一通り見渡した。果たしてこのクラスでやっていけるのだろうか。不安になる。

 すると、唐突に担任が声をかけてきた。


「去年の夏のコンクール、ソロやってた佐山だな」


「は、はい」


「よかったぞ。実は楽しみにしてたんだ。吹奏楽に入ってくれるよな」


 まさか自分のソロと名前を覚えていてくれていたとは思いもしなかった。

 確かに吹奏楽部の教師とコーチは横のつながりがある。もしかすると話を聞いていたのかもしれない。


「ありがとうございます! 私、この学校には吹奏楽をやりたくて入ったんです」


「頼りにしてるぞ」


「ありがとうございます!」


 なんて嬉しい言葉なんだろう。すぐにでも部活を、楽器を吹きたくてたまらない。同じ月丘中学出身の先輩から、秋山高校に入って良かったという前情報を聞いている。楽しみが増した。

 すると、その様子を見ていたのか、対角線にいる葵と目が合った。まだ手紙を見ていないだけに、どんな反応をすればいいか分からないがーーほんのり頬を桃色に染めながらにこっと微笑んだ彼の表情に心臓を貫かれた。


(葵くん、まさか私の手紙もう読んだの!?)


 そうでなければそんな反応はしないと思い込んで、パッと視線を逸らした。

 周囲はそれだけでヤバイヤバイヤバイを連呼し、柳原先生が静かにするよう呼びかけていた。


「今の彼が葵くんよ。かっこいいでしょ」


「うん……」


 知っている。手紙を読むのは、家に帰ってからにしよう、そう決めた。


 入学式の入場では、入部する吹奏楽部が演奏をしていた。入退場はもちろん、合唱の曲も全て。体育館いっぱいに響き、ピッチも合っている。そして決して煩くない。指揮者は先輩になる生徒がやっていた。


 ようやく終わった入学式。校長の話、新入生代表挨拶は眠くなりそうだったが、少し辛抱すれば良かっただけ。

 入学式が終わると簡単なHRをやって解散になったのだが、しばらく部活がない。楽器を吹きたくてたまらない皐月にとって由々しき事態である。

 部活動は翌日のオリエンテーションからはじまり、入部は一週間後だ。しかし皐月の吹奏楽部入部は確定しているようなもの。翌日早速楽器を持ってくるぞと決意し、泣く泣く帰宅することにした。


「皐月、CoPeoコペオ交換しない?」


「佐山さん、私も!」


 CoPeoーコペオーとは、チャットスタイルの連絡アプリだ。

 中学を卒業するときに変えてもらったスマホにインストールし、親友たちとも交換している。

 IDを交換するために開くと、通知が三件入っていた。親友の杏と葉子、母の三人から。葵もインストールっしていると思うけど、その前に手紙を読まないといけない。


「うん、しよ」


 入学式その後、HR終了後にクラスの何人かと交換し、いつの間にかクラスのグループCoPeoが出来ていた。ものすごい勢いで挨拶チャットが飛んでくるので驚いた。

 通知が届いていた三件はこういったもの。まずは親友グループの杏から。


『みんな一緒に入学おめでとう。皐月は葵くんに逢えた?』


『おめー! ほんとそれ、早く聞かせて! てことでこの後、約束通り私の家に集合ね』


 葉子が楽しみにしてる。それはそうだ。何故なら入学式終わったら制服見せあいしようと約束していたのだから。そして二人揃ってニヤニヤしている顔文字を使っている。

 あとは母からはなんて来ているのだろう。


『葵くんのお母さんとファミレスでおしゃべり中。皐月もおいで、葵くんと一緒に』


 えええええええええええええええええええええええええええ。

 何故ハードルの高い指令を、可愛らしいニコニコした顔文字を使って下すのだ母よ。葵の手紙すら見ていない私にとってハードルが高く、実は振られているかもしれない危機感もあるというのに。


「よかったら一緒に帰らない?」


「ごめん、お母さんがファミレスで待っているみたいで」


 綾乃の誘いを断り、急いで下校の準備をするときに鞄に入れていた葵からの手紙を見つけた。

 これから葵を誘ってファミレスに向かわないといけない。その葵は隣のクラスでおそらく黄色い悲鳴に包まれていることだろう。その中に飛び込むのは危険な気がする。

 それに中学から付き合っている彼女がいるというなら、余計に飛びこめない。


「玄関まで一緒にいこ」


 と、教室を出た時だった。目の前に男子生徒胸と顔がぶつかった。地味に鼻が痛くて咄嗟に手で押さえる。謝りかけて見上げると、ツーブロック短髪のザ・イケメンの葵がいた。彼の胸板に当たったらしい。


「ごめん、さっちゃん。鼻ぶつけた? 痛むよね」


「大丈夫」


 肩から鞄を下げ、左手をポケットに入れている。周りの女子の妬み声ちらほら聞こえるが、鼻の方が地味に痛くて涙目になった。


「……さっちゃんって? 皐月、葵くんと知り合いだったの?」


 綾乃の声がやや低めに聞こえた。


「うん、子供の頃お隣さんだったから」


 出てきた涙を擦ると、綾乃は「そう」とほほ笑む。そしてすぐに顔を葵へ向けた。何とも嬉しそうな表情で。――もしかして綾乃が葵の彼女なのだろうか。胸のあたりがもやもやする。

 当の葵は「さっちゃん、早く行こう。母さんたちに呼ばれてるだろ」と皐月を誘導した。

 そんな葵は皐月の同級生に肩を組まれた。


「よお、葵。今度は逃げられないようにな」


「あれはお前のせいだろ」と皐月の同級生。マッシュパーマで葵までではないが長身である。


「あとから聞いたけど、晴巳が悪い」と、こちらは葵の同級生がひょっこり出来てきた。刈り上げマッシュのヘアスタイルで、晴巳よりはやや低めの身長だ。

 みんな泉河中学の同級生だったんだろうか。晴巳が皐月に声を掛けた。


「皐月ちゃん、俺の事覚えてる? 合格発表の時に葵と一緒に居たんだけど」


 全く覚えていない。誰かが葵が皐月のことを好きだと言っていた覚えはあるが、誰かまでは覚えていない。首を横に振ると、唇を尖らせてぶーぶーと言っていた。


「俺そんなに印象ない? せっかく皐月ちゃんと同じクラスになったのにぃ」


 成り行きで玄関まで五人で行くことになった。

 葵の友達は、小林晴巳と九十九(つくも)和俊。二人とも泉河中学のバスケ部で、小学校からの仲らしい。たまたま進路まで同じで小中校の腐れ縁だとか。

 晴巳はムードメーカーで、和俊はクールな印象を受けた。それより皐月が気にしたのは――終始無言の綾乃。なんだか機嫌が悪いように見える。それに同じ中学だというのに、葵たち三人揃って綾乃に声を掛けない。別のクラスだったのだろうか。

 玄関に着くとスマホを見た葵が、靴を下駄箱から入れ替えながら言った。


「さっちゃん、早く来いってさ。一緒に行こう」


 一緒に、とほほ笑みながら言う言葉に心を揺さぶられる。が、誰か知らない彼女に怒られそうな気がしてならない。考えても仕方ないので綾乃に別れを告げて、葵とファミレスに向かうことにした。

 その背後では、綾乃が皐月を睨みつけていたとも知らずに――。


 ファミレスへ向かう道中、緊張して葵と話せない。それは葵も同じようで照れくさそうにしている。最初に口を開いたのは葵だった。


「あの、さっちゃん。俺の手紙読んだ?」


 言えない。読んでないなんて言えない。


「そういう葵くんはどうなの?」


 口元に手を当てて、ほんの少し頬を赤らめると「まだ」と小さく呟いた。それが可愛い。身長はあるのに照れてる様子が可愛い。心臓をハートの矢で貫かれた気分だ。


「私も、まだ」


 視線を泳がせた私たちは、やっと顔を合わせるとまた背け、ようやく顔を見合わせた。

 緊張と沈黙の間に、葉っぱが舞い落ちる。


「今見ない? 互いの手紙」


「い、今!?」


 彼女がいるからごめんなさいと書かれていたら、合格発表の日の事は友達の嘘だったと書かれていたら、最悪な事ばかりが頭を過る。それなのに葵に好きだという告白の手紙を書いたらこの後どうすればいいのか。そんな事を考えると、心臓がうるさい。


「……だめ?」


 まるで子犬のようにおねだりする葵に負けてしまった。首を横に振りながら「いいよ」と答えた。

 互いに鞄から手紙を取り出し、互いに深呼吸してからいざ開封。書かれていた言葉に、私は湯気が上がるほど真っ赤になった。


『さっちゃんの事が子供の頃から好きです。付き合って下さい』


 嬉しさで何も考えられない。子供の頃からと言うと、十年間、いやその前からずっと想ってくれていたのだ。止まれ心臓、止まったら死んじゃうから落ち着け心臓。念仏のように心の中で唱えていると、葵が脱力してしゃがみ込んだ。


「やっべこれ……マジかよ。すげえ嬉しい……」


 耳まで真っ赤になっている葵が可愛く見える。これはつまり、そういう事ですよね、と皐月の頭はぐーるぐる。

 立ち上がった葵が照れるようにはにかんで、こう言った。


「よろしくお願いします。彼女さん」


 佐山皐月、高校生になると同時に初彼氏が出来ました。

 ところで中学から付き合っている彼女とはどういう事であるのか。今だけ、幸せな空気を壊したくない皐月であった。




評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ