カンテ結晶石のその後
ある昼下がり、ああでもない、こうでもない、と専属になった使用人たちときゃっきゃしているとカイルが交ぜてもらいたそうにやってきた。
「なにをしている?」
「あら、カイル。そろそろカンテ結晶石を装身具に加工しようと思って装飾を考えていたところなの」
ヒロインに渡す予定だったけれど、カイルは私を選んでくれて、そして私もカイルと生きていくことを決めた。ならば、使ってもいいだろうと――いいえ、使うべきだと判断したのだ。
ただ、この巨大な石をそのまま首からぶらさげるわけにも行かないから、装身具一式のデザインと、あと残りの部分をどうしようかと考えて、今までわたしに協力して頑張ってくれていた彼女たちへのご褒美として小さな髪留めにしようと決め、そちらのデザインも一緒に考えていたところだった。
自分へ贈られるものなのだから、彼女たちも気合いが入るというもの。それぞれが一押しのデザインを披露しては、さらなる改善策を提案し、自分たちの髪に飾るのを楽しみにしていた。
「カンテ結晶石……?」
カイルはテーブルの上にでんと置かれている、美しい輝きを放ちながらも武骨な塊の石に訝し気に目をやる。たぶん、昔に自分が贈ったことも忘れてしまっているのだろう。
「わざわざそのようなものを使わずとも、俺がいくらでも――」
「これがいいの。私がカイルからもらった、公式ではない初めての贈り物よ」
私の説明にようやく思いだしたらしい。
「初めてが、それ……!?」
カイルは突然殴りつけられたかのようによろめき、テーブルに手をついた。なぜだか非常にショックを受けているらしい。
そして、顔をあげるとすぐさま、
「贈り直す」
「はい?」
「贈り直す。返してくれ」
「いやよ。貰ったのだから、私のものよ」
「だめだ。初めてがそれはいやだ」
「言っている意味がわからないわ。貰った側の私がいいと言っているのだから、いいのよ」
「だめだ。あ、あれがティアへの俺の初めてなどと……」
ぷるぷると震わせながら、カンテ石を指さす。さすがにそこまで言われると、カンテ結晶石のほうがかわいそうになってくる。
「そこまで悪いものではないと思うわよ? 大きいし」
「大きさだけが価値じゃない」
「宝石の場合、大きさは重要だと思うわよ」
「あれはただの石だ」
「あのね、宝石はもとから石なのよ」
「ティア……」
私がその顔に弱いのをわかっていてのことなのか、天然なのか。
使用人の彼女たちも最初こそ驚いていたけれど、もう慣れたもので、私たちの会話がはじまると同時にいそいそと距離を取り、さりげなく調度品の埃を払うなど自分たちの仕事に戻ったふりをしてくれている。
「カイル、私もうみんなに贈るって約束しているのよ。約束を破るわけにはいかないわ」
「俺が責任をもってティアの代わりに、いや、それ以上のものをみなに贈ると誓う!」
そんな拳を握りしめて言われても……。
どうしたものかとこっそり周囲に視線をおくれば、みんなそれでよいと静かに、しかしはっきりとうなずいていた。まぁ、なくなるならばともかくカイルが代替品はさらに格上げすると公言したのだから、彼女たちに不満などあるわけがないのだ。
……それだけじゃないわ。今後のことを考えても、カイルが彼女たちの歓心を買うのはけっして悪いことにならないはず。今の王家が忠誠心だけで——そこまで考えて、思考を振り払う。すぐに人のこころを操ろうとするのは私の悪い癖だ。
カイルの様子をうかがう。私の返答をすこしだけ不安そうに待っている、彼の顔を。
素直になるべきだわ。策ではなくて、大事なのは私の気持ちよ。
もちろん、幼い頃のそっけなかった過去をいまからでもいいものに塗りかえたい、という彼の想いが嬉しくないわけがない。
率直に気持ちを伝えると、カイルはそれはもう嬉しそうな顔をした。
「ティアへの初めては絶対に最高のものにしてみせるから、楽しみに待っていてくれ!!」
そう力強く宣言すると、誰かに命じればいいのにみずから結晶石を抱え、弾むような足取りで扉の向こうへと消えていった。
これがのちに、“大陸の流行はオシュタインから生まれる”と言わしめるまでになるオシュタイン文化の隆盛の発端であったことは、あの日あの部屋にいた私たちだけの秘密である。
カンテ結晶石:『まずは小さな一歩から』参照。




