北の地にて
「どうしたらいいの……」
岩陰から私は後方をうかがう。
最悪の状況だった。
見渡すかぎり真っ白の世界。細く長い木はつもった粉砂糖を振り落とすかのように寒風に揺れ、遠くに見える連なる山々も灰色の空と同化するほど雪をかぶっている。
空気は冷たく、鋭く、呼吸するたびに肺が痛む。防寒用の毛皮や厚い毛織物を纏っているけれど、それでも立っているだけで芯から凍えそうだった。
北の地で同道していた護衛の騎士たちとも引き離され、私はカイルとふたりきりだった。しかも、カイルは怪我を負い、もはや動くことがかなわない状態だ。
不運と、想定していなかった状況がいくつも重なり、私たちは追い詰められていた。
ひとつは突然の天候不順により、後続を断たれてしまったこと。
ふたつめは、本来安全であるはずの場所が父、あるいはフレディリク様によって買収され、蛮族とはまた別のものたちが私たちに襲いかかってきたことだった。
「剣か馬を習っておくべきだったわ……」
警戒されるのを恐れるよりも万が一のことを考えて手を打っておくべきだった。いまとなってはもう遅いけれど。
複数の足音が近づいてくる。
安全と思われる街は、まだはるかかなた。私ひとりのちからでは傷ついたカイルを連れて追っ手を振り切り、たどり着くことなんてできない。かと言って、私が囮になったところで、弱っているカイルでは逃げきれずすぐに見つかってしまうだろう。また、追っ手が諦めるのを待ってここに隠れていても私も彼も凍え死ぬだけ。
カイルの手当てもしなければならない。彼の体から少しずつ流れゆく血とともに熱が奪われていくのが分かる。肌はいっそう白く、唇は青くなってきている。
どうしよう。焦りでうまく頭の中がまとまらない。
「落ち着くのよ、テオドラ。カイルのことだけを考えるのよ」
自分に言い聞かせる。
いまは余計なことを頭から締め出さなくては。膨らみ続ける不安と恐怖を無視し、すべきことに意識を集中させる。
カイルの将来のことを、カイルが本当に受け取るべきだった未来のことに考えを巡らせた。
――そのためにいま私にできることを。
* * *
「ねえ、開けてちょうだい!」
私の言葉をうけ、丸太を組み合わせた頑丈な門の上にかがり火が次々に掲げられる。
向けられるのは若い女が立っていることにたいする困惑と警戒と、それ以上に下卑た好奇心の交ざった視線。
「誰だ、お前は」
私は寒さと、なにより恐怖で歯の根がかみ合わなくなるのをごまかすために、ゆっくりとひとつひとつの言葉を吐き出す。
「私はテオドラ・ラノビア、ジュード・ラノビア宰相の娘よ。開けてちょうだい、カイル王子を連れてきたわ!」
確かめようと近づいたのだろう。かがり火に照らされ、無精ひげの男が胡散臭げに見張り台に姿を現した。
「嘘じゃないわ」
私は腰の小袋から取り出した指輪をかかげて、彼らに見せつける。しっかりと火の明かりにあたるように。かじかんだ指で落とさないように。
「父の指輪よ。この指輪の意味するところは、言わなくても分かるでしょう?」
彼らに認印つきの指輪の文化はないが、それがもつ役割は彼らも重々承知しているはずだった。
「ねえ、いれてちょうだい。寒くて凍えそうよ。やっと騎士も賊もまいて王子をつれだしてきたっていうのに……」
私は愚痴っぽく呟き、わざとカイルを乱暴に置く。ただのお荷物であるかのように。そうして腕で自分の身体を抱きしめ、盛大にもう耐えられないとアピールする。
そこでようやく、男がひとり、張り出した見張り台から飛び降りてきた。着地とともに雪が舞い、地に振動が伝わる。
男は少しでも私がおかしな行動をとればすぐに上から矢が降ってくると言い含めてから、用心深くこちらに近づき、カイルの髪を掴み乱暴に灯りのほうに掲げると顔を検めた。そして、門の上でこちらをにらみつける男にむかって頷く。
手が振られ、門を開けろ、との合図とともに丸太の連なりがゆっくりと開かれていく。
「入れ」
男が建物に向かい、顎をしゃくる。
第一段階はクリアだわ。
私は、カイルをかかえ直して歩く男の後ろに付き従いながら、そっと安堵の息を吐いた。
かがり火がたかれた石造りの山塞の中を進み、何度か折り返す階段を上がった先の広間に、その男はいた。一段高くなった位置にどっしりと陣取っている様子からして、この人物が彼らの頭目だろう。つまり、カイルを翻弄し、片目を奪った男。
粗削りな顔立ちに野放図に伸びたひげ、櫛を入れたことがないのではないかと思うほど乱れもつれた髪と太い首。毛皮や厚い織物に覆われて見えずとも、その下のがっしりとした体格も想像がつく。荒くれをまとめるに相応しい、まるで獰猛な熊のような風貌だった。
その体躯に見合った重低音の声が私に向かって放たれる。
「あんたが、ラノビアの娘だそうだな」
「ええ。そうよ」
傷だらけの大きな手は男のこれまでのすさんだ生き方を表していた。私が渡した指輪をためつすがめつ確かめたあと、男はじっとこちらを値踏みするように見つめる。やがて、髪の色や、顔のパーツに父の面影を見たのだろう。納得したように頷き、指輪をこちらに放りなげてきた。受け取った私に対して、
「どうしてここが分かった?」
「父から話は聞いていたから。もしものときは、騎士を引き離してこちらのほうに誘い出せ、と」
「それで、俺たちのところに連れてきたってわけか。肝が据わってるな」
「父の娘ですもの」
王族殺しを企むだけのことはある、と男は声を轟かせるように笑う。
火がたかれているおかげで、ようやく凍えるような寒さはなんとかおさまってきていた。横目で床に転がされているカイルをうかがう。まだ気を失っていて、相変わらず傷口は開いたままだけれど、でも、すくなくとも彼も凍死は免れたはず。
私の視線に男が目ざとく気が付く。
「どうした? いまさら旦那の様子が気になるのか?」
「旦那じゃないわ。まだ結婚していない。するつもりもないもの」
「こいつはそうは思ってなかったみたいだがな」
私がカイルに大切にされているのは、このような辺境にすら伝わっているらしい。だから、嘲るように――演技であってもカイルの優しさを否定するのは胸が痛かった――吐き捨てる。
「ええ、馬鹿な男よね」
「……なるほど。あんたと俺たちの思惑は、たしかに一致してるらしいな」
男は周囲に向かって呼び寄せるように片手を掲げると、近づいてきた部下に喉をかき切る仕草をしてみせた。命令を受けて、別の男がカイルを連れて行こうとする。さすがにここを血で汚すわけにはいかないから、どこか別の場所で殺すのだろう。そして証拠の首だけを父に送るつもりなのだ。
さぁ、ここからが本番よ。
心臓が早鐘のごとく鳴っているのを見破られないよう、ゆっくりと息を吐いてから言った。
「待って。まだ殺してはだめよ。新しい王を立てるには、王子の宣誓の署名が必要なの」
私の言葉に男はゆっくりと振り返り、私にひたと視線を据える。
「そんな話は聞いていない」
「あなたたちが父から仕事を請け負ったのは、春の花蕾の頃でしょう? 戴冠法は先月発布されたばかりよ」
男は鼻先で私の言葉を笑い飛ばす。
「そんな珍妙なことを信じろっていうのか?」
今度は私が相手の言葉を笑い飛ばす番だ。
顎をつんとあげ、まさにテオドラらしく周囲のすべてを見下す。これだから田舎者はとでも馬鹿にするみたいに。焦って早口にならないよう、口調に怪しさが含まれないよう、細心の注意を払って私は言った。
「信じるか信じないかはあなたが決めて構わないわ。でも、彼を殺せば父は激怒するでしょうね。そうしたら、どうなるか分かるわよね? 約束のお金は手に入らず、代わりに討伐の騎士が差し向けられる。この人数で戦えて? それに、わたくしだって努力を無駄にされるのは我慢がならないわ」
相手が静かになる。私の言葉を吟味しているのだ。
法の成立過程を知らない彼らには、公布の前にまず審議や採決があり、その時点で父から連絡が入るはずということが分からないのだろう。
私もまた言葉に真実味を持たせるためにあえてフォローを入れず、沈黙を続けた。
男は目を細めて疑いのまなざしで私を見つめ続ける。
「……とうてい信じられん話だ」
「それほどまでに疑うのなら父に確かめればいいわ。返事が来るまで、たいしてかからないはずよ。もちろん、彼はここに置いていくわ」
「いや、お前もここにいろ」
「冗談でしょう? このようなみすぼらしい場所にわたくしが?」
カイルの応急処置をしたら、すぐに出立して騎士を呼んで来る――かなう期待はしていなかったけれど、このプランは没だ。
これ以上文句を言ったら怪しまれる。
少なくともここにいればカイルの看病ができるわ。かせいだ日数、その間になんとか彼に意識を取り戻してもらい、逃がすことができれば……。
「では、お湯を沸かしてちょうだい」
「なに?」
私は横たわるカイルに目をやって、冷たく言い放った。
「返事があるまで彼に死んでもらっては困るでしょ? 面倒だけれど、止血はしておかないと」
傷口を洗い、新しい布と取り換える。傷の部分が開かないよう強く締めあげると、気を失ったままの状態でぐっと彼が呻いた。
「ごめんなさい、カイル。痛いと思うけれど、我慢してちょうだい」
私は囁いて、他に見逃した怪我はないか、念のため彼の体を確かめておく。
私が砦に来てから数日が過ぎた。本当は牢に入れておきたいのだろうけれど、それではカイルが死んでしまうかもしれないから、部屋の一室が与えられ、手当ても許してもらえた。
とはいえ、彼らも私の言うことを信じているわけではない。ただ、とほうもない大金がかかっているから、万が一ということを考えて最後の確認をしているだけ。今日殺すか、明日殺すかの違いでしかないのだ。
同時に、彼らの中ですでに私は彼らの所有物の認識になっているのが肌でわかる。
食事を運んでくるとき、替えの布を持ってくるとき、舐めるように私を見てくる。視線が服の下の肌をなぞっているのが分かる。脱がすようになんどもなんども往復する。
怖い。もし全てが嘘だとバレたら、私はあっという間に彼らに辱められ、最後にはゴミ同然の扱いで雪の中に放置されるだろう。舐りつくした果実の、残った種だけを投げ捨てるように。
ときどきは、見ているだけでは我慢できない飢えたがさがさの手が、味見をするように私の手や頬をなでていく。
カイルの触りかたとは全然違う。彼はまるで壊れ物を扱うみたいに、いつも優しく触れてくれた。私を押し倒したときでさえ、首筋に触れる彼の手は優しかった。
この時期は吹きおろす風により、下りは速い。もし使者が天候に恵まれ、昼夜を問わず移動しているなら、おそらく最速で3日後かその次の日にはこの砦に到着すると思われる。川が凍結して遅らせてくれることを期待したいけれど、それにはまだ少し寒さが足らないはずだった。
明日中にカイルが目を覚まさなかったら、無理やりにでもたたき起こして出発させるしかない。
「……う……ぁ……」
やがて、朝日が差し込もうという頃、小さなうめき声をあげて息を吐き、カイルのまぶたが震えた。
「カイル、目を覚ましたのね!?」
私の抑えた呼び声にゆっくりと目が開かれる。
「ティ、ア……?」
何度か瞬いたあと起きあがろうとするのを制し、まだ眠ったままの彼の様子を探っているふうをよそおって上体を倒し、カイルの耳元に顔を寄せる。
「起き上がってはだめよ、このまま聞いて」
周囲の景色と私の雰囲気がおかしいことにすぐに気が付いたのだろう。
返事の代わりにカイルは起き上がるために床に着いた手をそっと横たえ、目だけを動かし、押し殺した声で問う。
「……いったい、何があった? ここはどこだ?」
「ここは蛮族の砦の中。あなたは襲われてけがをしてからずっと気を失っていたの」
「蛮族――なぜ、そんなところに?!」
「私が運び込んだの。お願い、この状況で私を信じてなんて都合がいいのはわかってる。でも、信じてほしいの」
「……お前を信じると決めた瞬間から、お前を疑ったことなど一度もない」
“信じると決めた”? いつの、なんのことを言っているのだろう。
気にはなるものの、いまはそういうことを話している時間はない。
どう説得しようか色々と悩んでいたけれど、とりあえずカイルが私を信じてくれるのなら話は早い。
「ここを出たら、小高い丘を左にひたすら下るの。やがて森とその近くに小さな水路があるわ。水路がつねに見えるようにして森を進み、歩き続けて。そうすれば街の灯りがふもとのほうに見えてくるはずよ」
「わかった。砦はどこから出られる?」
「窓よ。高さがあるけれど、下に雪があるからなんとかなるわ」
カイルは傷に響かないようゆっくりと起き上がって身なりを整える。一部の包帯を締め直し、干していた上着を羽織り、ブーツをはく。私はこっそりとっておいた食糧を彼のためにハンカチで包んでおく。
そうして準備をする彼を見守っている私に、カイルが気がついた。
「ティア?」
「あなたは先に逃げて。私はあとから行くわ」
「なんだと?」
「あなたが目を覚ましたことはまだ誰も気がついていないの。藁を敷いて、あなたの代わりにしてごまかすわ。夕刻までなら、時間を稼げる。だから――」
カイルはつかつかと歩み寄り、強く私の手首をつかむ。ひっぱってでも連れていこうとするかのように。
「断る。逃げるのなら絶対にお前も一緒だ」
時間がないのに。今は言い争っている場合ではないのに。
私は苛立ちを抑え、彼の手を振り払って、聞き分けのない子どもを諭すようにカイルに伝える。
「カイル、ごまかす時間が必要なの。さっきも言ったけれどここは蛮族の砦、大勢の男がいるの。あなたひとりで相手にできる数ではないわ。気づかれて追いつかれたらおしまい。しかも、あなたは今怪我をしているのよ」
「大勢の男がいるのなら、なおさら置いておけないのはわかっているはずだ」
「あなたにはこの国を導く義務があるわ。ここで決して死んではいけないの。私は……あなたには幸せになってもらいたいのよ」
それは嘘偽りない私の本心だ。
たとえ私に死刑を告げる人であっても、彼の幸せを今この瞬間も心から願っている。
「だめだ。お前も一緒でなければ俺は行かない」
「お願いだから、聞いてちょうだい」
カイルは首を振って頑なに私の提案を拒否する。
カイルはわからないのだ。だから言える。
今までどれだけ私が頑張ってきたか、どれほどの思いで生きるために神経をとがらせ休むことなく父たちとわたりあってきたのか。そして、あなたを生かすために、そうやって必死で守ってきた未来をいま捨てようとしているという、その意味も。
私はこの山塞を訪れると決めたときから、自分が生きてここを出られることはないだろうと覚悟していた。
「わかったわ。私もすぐに行くわ。でもふたりでは目立つから、あなたが先に――」
「ティアがいないのなら俺は動かない」
「カイル、お願いよ……!」
早く行ってほしい。そして私に偽装と自害の備えをする時間をあたえてほしい。
ここは獣の巣穴だ。あの男どもの餌食になるくらいなら死ぬほうを私は選ぶ。死ねば興味をなくしてもらえるという保証はないが、すくなくとも心の底からの絶望は味わわなくて済む。
「お願いだから――」
「どうやら、お目覚めのようだな」
突然背後から浴びせられた声に、背筋が凍る。恐怖におののきながら、私はのろのろと振り返った。
幻聴であってほしいとの願いも虚しく、そこに立っていたのはあの男だった。
「嫌ってるわりには、ずいぶんと仲がよさそうなことで」
にやにやと、からかうような調子で私たちにそう告げる。この状況を面白がっているのは明らかだった。逃げ出そうとしていた私たちを見ても焦りや怒りがみられないのは、優勢を確信しているからだろう。
それでも、カイルを見る目に油断はなく、部屋に入ってくると従えた数名とともに戸口をふさぐようにして男は立つ。万が一のため、部屋の外にもさらに何人かいるはずだ。そして、この状況では窓からカイルを脱出させても彼が逃げ切れるかどうか。
「……取引をしたいわ」
私がもちかけると、男がこの部屋に来てから初めてカイルから視線を外し、私ひとりに目を向けた。さらに値段を告げれば、用心深い目に好奇の色が浮かびあがる。
父と頭目が交わした契約の額はおおよその見当がついている。私にはダスターに支払うはずだったお金が丸々手元に残っているけれど、それでも父の額には足りないだろう。
しかし、前金の残り、王殺しというリスクを負ってまで手に入れる全額よりは、少なくとも見逃すだけで今後の安全をも一緒に得られるのならば十分な金額であるはずだった。
頭目は脅しにも似た薄笑いを浮かべる。それだけでは足りないと私をすみずみまでなぞる視線が物語っていた。
「お望みなら、私もつけるわ」
「ティア!!」
私の返答をカイルの怒声が遮る。
カイルは私をかばうように一歩前に出て、履いていたブーツのかかとから光るものを取り出した。
それは武器と呼ぶにはあまりにも弱弱しいナイフだった。
「カイル、やめて!!」
私の叫びも意に介さず、カイルはよろめきながらも私を背後にかばったまま、構えたナイフをおろさない。
「好きな女ひとり守れないで……国が守れるわけがない……」
「カイル……!!」
私が何も知らない無垢な少女であったなら、どれほどよかっただろう。
彼は王子様で、私はただの婚約者。この背に縋り、なんのしがらみもなく、ただ互いを支え合い、ふたりで未来を築いていくのだと信じられれば、どれほど――。
「……私は、あなたが守るほどの価値もない女よ」
よもや、こんなことで真実を告げるはめになるとは思ってもいなかった。
「私の……父なのよ。あなたのご両親の暗殺に手を貸した、王宮内で手引きをした人間は」
声が震えるのを抑えられない。舌がうまく回らない。
耳の奥でごうごうと音が鳴っていて、空気が薄くなったように感じる。手に爪を立て拳を強く握って耐えなければ、めまいで倒れてしまいそうだった。
「私はその男の娘なの。私はあなたの憎むべき敵なのよ。だから、わかったでしょう? 守る必要はないわ」
視界がにじんで、頬をながれていくものがある。
どうしてだろう。涙がとまらない。のどがつまって、声がかすれてしまう。
私はなぜ泣いているのだろう。
あれほど頑張ったのに、結局私の人生はここで終わってしまうから? それとも、もっとべつの別れを迎えようとしているから?
伝えなければいけないことがほかにもあるはずなのに、頭になにも浮かんでこない。つのるのは後悔ばかりだ。
もっとちゃんと彼と向き合って真実を伝えていれば、せめてもうすこし悔いは少なかったのだろうか。その瞬間、私は全てを失うことになるのだとしても……。
カイルはゆっくりと振り向き、私の顔を真っ直ぐに見据えた。そこにあるのは嫌悪でも憎悪でもなく、否定してほしいとすがる驚きでもなかった。
私には読み取れないなにかを孕んだまま、カイルはただ静かに言った。
「――……知っている」
あと3話で終わりますが、来週はお休みします。いままでの誤字脱字などの修正をおこなう予定です。




