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宰相の娘  作者: 衣々里まや
17歳
33/50

会議

「お通しはできません」


槍が私の行く手を遮るように交差する。


私は彼らの顔を見つめ、彼らも臆することなく私を見つめ返す。


「それなら、カイルを呼んでちょうだい」


「そちらも承服できかねます。殿下は現在、この奥でみなさまとご歓談中でございます」


この状態では伝言を頼んでも素直に伝えてもらえるかどうか不明だ。よくてすべてが終わったあとに、そういえば、と形ばかりのことづてが渡されるだけかもしれない。


それでは遅いのよ。


ここにいるのはカイルの忠実な配下。彼を裏切らない人たち。命を落とすその最期の瞬間までカイルのそばにいた、優秀な人たち。正義の人たちだ。


だからこそ、カイルの態度が柔らかくなった今でも彼らははっきりと私を敵だと認識している。宰相の娘だから。むしろ、カイルの分まで自分たちが警戒すべきだと気を引き締めていることだろう。


どのような甘言を弄しても、手を回しても、屈することはない。


「だったら、わかったわ」


私は襟元のリボンに手をかける。


生きるためだったらなんだってやってやると決めているのよ。そのためなら淑女だってやめてやると。


このためにわざわざ着替えてもきたのだ。


「――私の覚悟を見せてあげるわ」




「ティア!?」


自ら扉をひらき室内に裸で入ってきた私を見て、カイルが悲鳴のような声をあげた。


部屋の一番奥、上座に座っていた彼は私のうまれたままに近い姿を真正面からとらえた形になるのだから、当然かもしれない。


「どうしてここに!? そ、その格好は!?」


慌てて彼が駆け寄り、着ていた上着を脱いで私にかけ、肌を覆う。


なんども制止はされたけど、さすがに表の騎士たちもこの状態の私に触れてまでとめようとしてくるものはいなかった。裸の乙女の肌に触れるなど、彼らの騎士精神に反するのだろう。


“己が名誉を辱むることなく、弱きを助け、強きをくじき、他者を尊重し、淑女には敬愛の念をもって接せよ”。


騎士道というのは時に厄介なものである。


一応追いかけてくる音は聞こえたけれど、多分目を瞑ったまま歩行したのだと思う。背後で盛大に壁にぶつかる音とぎゃっという叫び声だけは、振り向かなくても理解できた。


そして騎士だけでなく、同席していた人たちもまたみな紳士だった。カイルが命じるまでもなく、一目で状況を見て取ると私からいっせいに目をそらしたのだから。


「武器を持っていないと証明できないかぎり入室させられないって言われたから……」


「だからといって、なにもお前がここまでせずとも俺を呼び出せば……」


「それよりも聞いて、カイル」


「そんなことより、まず服を――」


「きいて、カイル!!」


私の鋭い声に彼がようやく動きをとめる。同様に驚いた何人かがうっかり顔をあげてこちらを見てしまい、あわててまた顔を伏せた。


「北の地の件を決定する前に聞いてもらいたいことがあるの。まだ決まってないわよね!?」


「なぜ、そのことを――ああ、もう宮中に噂が回っているのだな。いまちょうど話し合っていたところだが……」


「じゃあ、まだ決まっていないのね? 伝えたいことがあるの、あの――」 


「わかった。わかったから、まず着替えてくるんだ。……俺もそうだし、他のものも話が頭に入らない」


カイルがにらみつけるように諸侯に目をやると、見えずとも気配を感じた彼らがますます頭をさげて身を縮こませる。


「そ、そうね……」


とりあえず、議場には乗りこめたのだから、喫緊の目的は果たせた。彼のいう通り、詳しいことは着替えてからでも遅くはない。お歴々の方々の頭をいつまでも下げさせておくのも申し訳ない。


駆けつけてきたロニヤの手を借りて――ほんとうは簡単に脱げるような格好だったから手助けはいらないのだけれど――着替えをして戻るとカイルの横に椅子がひとつ追加されていた。カイルはごく当たり前のように自ら立って私のために椅子を引く。


カイルの優しい気遣い。


でも、今は私の邪魔にしかならない。カイルはわたしのほうを向いていたから気づかなかったのだろう。彼が私のために動いた瞬間、場にいた全員が眉をしかめ、非難がましい目を向けたことに。


だから私はカイルの手を上から抑えるようにしてその行為をとめ、自分の手で椅子を別の席へと移動させた。


「テオドラ……?」


カイルの戸惑いの声と、上等な椅子だから半ば引きずるようになってしまった重いものが絨毯をこする音だけが部屋に響く。


私はいちばん下座にきて、ようやく椅子から手を離し、深く首を垂れる。


「お忙しい皆様のお時間を頂戴してしまいましたこと、深くお詫び申し上げます。カイル殿下、このように本来足を踏み入れることのできぬ立場でありながら、お慈悲によりお許しとお話しの機会を賜りましたこと、心より感謝申し上げます」


私がここに来たのはティアとしてではなく、ひとりの貴族として意見を述べるためである。いまは婚約者でも宰相の娘でもなくただのテオドラ・ラノビアで、同席しているほかの貴族と一緒、いいえ、この場にいる中では爵位も持たぬ最底辺の人間である。


わきまえなければならない。私はすでに自分の権限を越える場所に踏み込んでいるのだから。


カイルは私が引いた一線に気がつくと、寂しそうな顔をみせる。でもそれも一瞬のことですぐさま自分の立場と役割を思い出し、ぐっと口元を引き締め、言った。


「――発言を許可する」


為政者としての顔に、満ちる空気の質が変わり、一斉に視線が私に集中する。今から戦が始まるかのごとく。


カイルが許したことで一応話を聞く姿勢こそ見せているが、彼らは私を敵と認識している。


悟られぬよう、射抜くように見つめてくる面々をさっと確認する。


ありがたいことにモーリュ伯爵の姿は見えない。排除されたのだろう。少なくとも、ここでのことがすぐに父にバレる心配はなさそうだった。


やはり、風は私に吹いているわ。


私は逸りたつ思いを抑え、ゆっくりと口を開いた。


あいまいさや無駄は排除し、可能な限り明瞭簡潔に説明をする。それでいて重要な部分は省くことなく伝え、知識を披露するのではなく事実のみを述べることに集中する。芝居がかった仕草もなし。


私を見る一同の目が話をするごとに変わっていく。


疑念や不信からやがて、一部についてはしぶしぶながら同意できなくもないといった感じへ。


必要なことは伝え終え、私が口を閉じると、話し始める前とは異なる沈黙が部屋に満ちた。


カイルが説明を求めるように、ひとりの男性の顔を見た。真面目そうな面立ちの眼鏡をかけた人――ケイア伯爵だ。


求められた側は、同意するように頷き、立ち上がり、壁際の木箱に立てかけられた大きな巻紙をいくつか持ってくる。いま卓上に開かれているのとは別の古い地図だった。それらを机の上に重ね、


「考えられない経路ではありません。いえ、大いにあると言っても差し支えないでしょう」


そう言ってから、


「殿下、こちらをご覧ください。かつて、こちらの古いものにはたしかに山を貫く水路が描かれております。いっぽう、現在の我々はたくさんの荷を馬で運ばせるため急峻な道を避けねばならず、輸送路は――」


彼は地図の上を王都から目的地まで大きく弧を描くように指でなぞる。


「このように動かなければなりません。ラノビア様が仰られているとおり水路が現存しており、使用することが可能であるならば、かなりの日数を省くことがかないましょう。しかし……」


彼は一瞬こちらを見て言い淀み、けれど、はっきりと口にした。


「船が沈んでしまえば同じことです」


つまり、誰かの――言うまでもなく父である――策で妨害を受けないとなぜ断言できるのかと尋ねている。それならば、山を行く危険も同じではないか、と。


「逆に私はラノビア様にお尋ねしたい。なぜ、この水路をお持ちなのかと」


あたかも最初から事件が起こるのを知っていて狙っていたかのようではないか。と聞いているのだ。


この疑問があがるのは当然なので、ラパント卿とできれば共同という形をとりたかった。先生であったなら、何をしようとも疑われることもないから。とはいえ、生徒である以上私も先生の信用性を借りられるのだから、弊害の差は大したものではない。


このために厳しい授業に耐えてきたのよ。立場は大いに利用させてもらうわ。


「先生の――失礼、ラパント卿の授業の一環ですわ。自国の貿易と経済、流通を己の目で確かめろとのことでしたの。机上ではなく、自らをもって知るべきだ、と。ですのでわたくしは海運卿に倣い、お持ちのうちのひとつの権利を買い取らせていただきました。市場のお邪魔をすることがないよう、ごく小さな規模のものを選んで。このたびはそれがたまたま合致しただけのこと」


やはり先生の名は偉大だ。ラパント卿のものだったと聞いて、彼らは一応納得の意をみせた。


別の人物が口を開き、尋ねる。


「こたびの問題をいずこよりおききに?」


「わたくしの使用人にそちらの出身の者が。ご両親がお住いの地域に獣の足跡が残り、非常におびえていると以前より相談がございました――連れてまいりましょうか?」


尋ね返すと、これ以上関係のない人間が増えては困るとでもいうように、手のひらをこちらにむけた。不要という合図だ。念には念を入れて用意はしていたけれど、やはり必要なかったらしい。


また別の人物の質問が飛ぶ。


「獣の正体を探るにしても、ご令嬢の仰る兵の数は多すぎるのではないかと思われますが」


「正体がわからぬ以上、慎重を期すべきだと申し上げているのです。皆さまはご存じでしょうか、北の地で語り継がれている“森の妖獣”を?」


雄牛のように大きな体でありながら狼のように速く走り、熊のように丈夫な歯とあごで骨までかみくだき人も家畜も喰らうという、迷信やおとぎ話のたぐいの生き物だ。


「よもや、ご令嬢はそのような世迷いごとを信じておられると?」


「まさか……。ですが、噂が作られるのならば、元になる何かがあったはず。――ところで、バルム男爵、男爵のご領地では、たしか数年前に“首無し騎士”が現れて大変だったとうかがいましたわ」


急にふられた男爵がびくっと体をこわばらせ、それから慌てて説明にまわる。


「ああ、あれですか、いや、たいしたことでは……正体を知れば笑い話なのですが、逃げ出した家畜の山羊だったのです。とても大きな、黒い長毛種の。刈られていない毛が山となりそこに枝葉やあげくの果てには首のとれた案山子かかしが絡まったせいで、遠目からは幽鬼のように見えたというだけでして」


「つまり、くだらん妄想であったということだな」


ひとりが声を挙げて笑う。見下した嘲笑だった。これ以上は時間の無駄だ。帰ってはどうかね、お嬢さん、と。


私は気にせず微笑みかけ、続ける。


「何事もなかったということですわね。暴いてみれば実体とかけ離れたつまらないもの、というのはよくあることですわ。一方で、“コルビーダムの獣”と呼ばれる事件がかつてございました。ご存じでしょうか?」


ききなれない名称にそれぞれ顔を見合わせる中、ケイア伯爵が代わりに応じる。


「建国初期にまでさかのぼる歴史上の事件ですね。獣が人を襲っていたという噂があり、当時はたんに狼の仕業だと思われていましたが、次々と村や街が襲われ、被害が拡大し、差し向けられた討伐隊も皆殺しにされたというものです」


「で、正体は? 今度は太った猪とでもいうつもりか」


「政治体制に不満を持つ反貴族派の仕業でした」


ばかばかしいと振っていた手がとまり、一気に空気がざわつく。私はゆっくりと肯定する。


「ええ、そうです。社会変革のために王権の失墜と政権の転覆をもくろみ、獣という隠れ蓑で非合法に暴力におよび、破壊的な活動をおこなっていたとか。最終的には国外の勢力まで引き入れようとし、全員をとらえるのに数年を要したと記録にあります」


私の言葉にさらに何人かがぎょっとし、また何人かが顔をしかめ、猜疑のまなざしで私をまじまじと見つめ、考えを巡らせる。


今の話には何か含みがあるのか? 娘の表情はなにを示唆している?


長いあいだ戦争は起こっておらず、その気配もない。獣というのも言い訳で、ただの火の不始末で貯蔵庫が燃えただけであろう。昨晩も街のどこかで小火があったと聞くではないか。何を気にする必要がある。


その一方でこう考える。


だが、もしこの小娘の言うとおり何かがあるのだとしたら?


小娘の案を潰したとして、万が一実際に何かが起こった場合、殿下は今後、斥けた我らではなく娘の意見を尊重するようになるだろう。王になってからも。それは畢竟、宰相に王冠を譲り渡すことを意味するのではないか。娘が強引にも非常識で破廉恥な行動に出たのも宰相の指示に他ならず、それこそが狙いなのでは。


真実がどのようなものであれ、背景に何がしかの思惑が働いている可能性はおおいにあるのやもしれぬ――と。


宰相の娘という私の存在と仮説が影響をおよぼし、彼らは疑心暗鬼に陥いっていく。


普段なら飛躍的すぎると笑い飛ばす連想でさえ、今はためらわれるはず。


あるものは結果の波及とそれがおよぼす政策や大勢(たいせい)について、またある者は己が地位への影響についてすばやく計算を始める。誰もが政治家として頭の中で駆け引きをしている。


反対して責をこうむるのも権力を譲り渡すのもごめんだけれど、私の言うがままに策を採るのも腹立たしい。


肯定も否定もできず、動けなくなり、部屋が静寂で満たされる。


「――よいのではないでしょうか」


沈黙をやぶったのは、二番目の席次にいたノヴェルティ侯爵だった。もっともラノビア家と対立している家が同意を見せたことで、周囲の人たちも一様に信じられないといった面持ちで彼を見つめている。私も形ばかりの驚きの表情を忘れずにはりつけておく。


「ただし――」


つづけて彼はじろりとこちらをにらみつけ、言い放った。


「ご令嬢の首をかけられよ」


「ノヴェルティ!!」


とたんにカイルの怒声が部屋に響き、カイル以外からも非難と嫌悪をにじませた声があがっていく。


「ノヴェルティ侯爵、さすがにそれは……。ご令嬢の首を求めるなど、ましてや未成年にそのようなことを仰るのは……」


「かまいません。もし船が沈めば、わたくしの処分はご随意に」


応じた私にさらにどよめきが広がる。


「わたくしがこちらに立っておりますのは、幼さゆえではなく、殿下の忠臣のひとりとしてのこと。皆様と同様の立場であり、皆様同様に覚悟してございます」


言外ににじませ、私は部屋を見回す。


さぁ、どう? 私は首を賭けたわよ。ほかに有用な策を進言するのならば、同じく首を賭けてくれるのでしょう、と。


沈黙が深くなる。ますます軽率に言葉を発することはできなくなったのだ。


今口をひらけば、全ての責任をかぶることになるから。


彼らは高みにいるがゆえに今までに大勢(おおぜい)見てきている。たった一日、一言ですべてが台無しになり転落していった者たちを。その末路を。


さらに彼らの向こうで困惑と、なによりこちらを心配そうに見つめる目がある。カイルだ。私も彼に視線を合わせ、小さくうなずく。


カイルからも傍からは分からないていどに頷きが返ってくる。


“わかった。お前を信じる”


「たしかに、獣の正体がわからぬ以上、警戒しておくに越したことはない。また水路を使えば、荷も兵も山道ほどの手間をかけずいちどきに運ぶことがかなうだろう」


カイルの静かで、厳かな声が響きわたる。


「とはいえど、ひとつの案にすぎないのも確かである。たとえ宰相の娘であろうとも俺はひいきをするつもりはない。この場にいるものには等しく意見する権利があるのは周知のとおりだ。俺はいつでも聞く準備ができている。我こそはと思う者あらば、声をあげるがいい――」




「いやはや、どうなることかと思いましたがなぁ……」


水上輸送の案が採択され、会議が終わり、囁きながら出ていく彼らを私は見送る。


カイルはすでに退出していた。法に関係するものではなく、名目上はただの荷運びと現地調査にすぎないから、ここで決まったことを摂政であるフレディリク様や父に報告したり意見をうかがう必要はない。


また、議場に出席していた人たちからも漏れることはないと私はみている。


いま下手に情報を流し騒ぎ立てれば、どうして重要な場に宰相の娘が闖入できたのかみなが不思議に思うだろう。近臣としても紳士としても、将来の王妃の――というより宰相の娘の裸体を目にしたなどと言葉にできるわけがない。


私が口止めをせずとも、よほどの問題でも起こらない限り、一様に口を閉ざすはずだ。


さらに口外した状況で船の案がうまくいっても私の株が著しく上がるだけ。ならば静観し、宣言のとおりもしものさいにはすべての責任を私に転嫁させればよい。場合によっては、宰相の責任も問えるかもしれない。


私が彼らの立場でもとりあえず成り行きを見守るにとどめるだろう。


「お待ちください、ノヴェルティ侯爵」


私のかけた声に出ていこうとするひとりの中年男性が足を止め、ゆっくりと振り返る。浮かんでいるのは冷たい非友好的な表情だ。


ほかの人たちは立ち止まった侯爵を避けるように脇を歩いていき、やがて私たちだけが部屋に残される。


「さきほどは、わたくしの意見にご賛同をいただきましたこと、まことにありがとうございました」


腰を折り、謝意を表す私の頭に侮蔑の声が降ってくる。


「我が父の意向だ。私ではない。忌々しいことに、親子ともども取り入るのだけは長けていると見える。しかし、これ一度きりだ。次はない」


ふん、と不服そうに鼻を鳴らすのが聞こえた。私の案を支持することが侯爵にとってどれほどの屈辱であったか、語らずとも伝わってくるというものだ。


「どうなるか、みものだな。貴様の首が飛べば、さすがにあの宰相の鉄面皮も剥がれ落ちるやもしれん。その時が楽しみだ」


吐き捨てると、返事も聞かず今度こそ足音荒々しく去っていく。途中、


「父上も父上だ。死んだ人間は戻らんというのに、いつまで3人に固執するつもりなのか……」


そう呟く声が最後に聞こえた。


思った通りだった。爵位こそ譲ったものの、ノヴェルティ家の実権はいまだ先代にあるのだ。エメリー嬢があの場所で私に口撃をしなかったのも、おそらくそのためだろう。


ノヴェルティ家のことはいまも調べている。しかし、侯爵家ともなるとさすがに働いている者たちの口も堅く、徹底されていて簡単に情報がおりてくることはなかった。現状つかめているのは誰もが知っていそうなことばかり。


ノヴェルティ卿が父側の人間であったなら。何度もそう仮説を立てて、考えた。


そして私が出した結論はこうだ。


――ノヴェルティ家は父の側の人間ではない。


根拠となるものはいくつも挙げられるけれど、その最大となる理由が、もしノヴェルティ卿が宰相派閥だったのならカイルはとうの昔に父に負けていたであろうから。


先ほどの侯爵の言葉も、こちらの推測を肯定するようなものだった。


弓とともに渡された情報は容易に集められるものではなかった。常日頃からニンス家と多少でもかかわりのある家すべてを執拗に調べていなければ手に入らないものであった。


ノヴェルティ家は、なかでも先代の侯爵がニンス家になんらかの恨みを持っているのだろう。それも相当の恨みを。


「いったい二家のあいだに何があったというの……?」


侯爵の残した言葉にみえた、両家の確執。


気にかかるとはいえ、父とのことで忙しい私に、その原因を知ることができる日はくるのだろうか。

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