表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
<R15>15歳未満の方は移動してください。

【前編】魔王は平和に暮らしたい

作者: 文月

 人間と魔物が共存する世界―――テレスティアル。

 大きく分けて三つの大陸に分かれており、世界の中心にある一番大きな大陸には現在、カーディナル国、ノースグラン国、マナラジア国、ウィザーシルバー王国の四国家が治めている。海を隔てて北西にアストリア王国が治める大陸と、南東には魔族が支配する大陸が存在する。南東の大陸以外は人間が治めているが、魔物はそこかしこに点在している。

 この世界にはダンジョンと呼ばれる洞窟や森林地帯があり、そこが魔物を生み出す瘴気の溜まり場となっているのだ。普段は安易に近づかない限り人間を襲うことは無いが、魔王が復活した場合は話が違ってくる。およそ五十年の短い周期で復活する魔王から吐き出される瘴気は世界各地に広がり、ダンジョン内に漂う瘴気にも影響が及び、魔物を狂暴化させてしまうのだ。また狂暴化だけでなく、瘴気が濃くなると魔物が次々と生み出されてしまい、時間が経つほど人間側は疲弊し被害が増してしまう。そうなる前に魔王を倒せる唯一の存在である勇者によって戦いの終止符が打たれるというのが何百年もの間繰り返されてきた歴史だ。

 勇者とは、十五歳の成人を迎えた年に天啓により与えられる職業の一つである。戦闘職の剣士や魔道士など複数人が授かるものに対し、勇者は魔王が現れた年の成人の儀で一人だけが選定される。勇者となった者は、速やかに自国の代表の元へ召集され、魔王討伐の任を与えられるという過去十一代続いてきた歴史が変わろうとしていた。



 高い山脈に囲まれ、うっそうと生い茂る森林の中に古びた城がひっそりと佇んでいる。外壁や石畳の道がしっかりと手入れされている様子から、この城に住んでいる者が居るということが窺える。

 ここはテレスティアル南東にある魔族が支配する大陸の魔王城だ。現在の主は三十年前から住み始めたが、当初は先代の魔王と勇者が戦った後という事で、城内や周辺の修繕他、負傷した者たちへの手当で大忙しだった。それも落ち着いた頃、快適な生活を送る為の大規模な改修をすべく仲間内であれこれと提案を出し合い、完成してからは不自由なく暮らしていたのだが・・・

 ―――飽きた。

 今、俺が居るこのだだっ広い部屋は、引き戸が付いた本棚と机、そしてテーブルを囲むように配置されたソファーだけで構成されている。俺の執務室兼会議室でもあるのだが、幼少の頃は豪華な暮らしとは縁遠い庶民の生活をしていたこともあり、完成した当初はかなりはしゃいだものだ。しかし、今となっては新鮮味もなくなってしまった。気晴らしにこっそりと流れの冒険者を装いギルドで依頼を貰いたいのだが、立場的にこの大陸の外へ出ることが出来ず、近頃はフラストレーションが溜まり気味だ。

 「また良からぬことを考えているのですか?」

 ソファーに凭れてぼんやりと天井を眺めていたが、声の主に一瞬考えてからむくりと体を起こした。

 俺の目の前に涼しげな視線を寄こしてくる青年の名はアスレイ。人間が生きているうちに辿り着くのはほんの一握りとされている賢者へ二十歳にも満たない年齢でクラスチェンジを果たした天才だ。聡明さに加え、魔力が強いことを証明する銀髪に端正な顔立ちは、昔から多くの女性の視線を集めてきた。本人にそこの所をどう思っているのか聞いてみたことがあるが、誰かさんのサポートや他に考える事がたくさんあり過ぎて気にしている暇はないとの回答を貰った。

 そんなアスレイとは幼少期からのいわゆる幼馴染だ。故に俺の顔を見ただけで何を考えているのか当ててきやがる。アスレイ曰く顔に全て出ているらしい。

 今はこの部屋にある本棚に書物が入りきらず、机の上に積み上がってしまったものを別室の書庫へ移す段取り中だ。以前、俺も書庫へ持ち運んだことがあるのだが、その際、棚の中へ適当に放り込んだことがお気に召さなかったらしい。

 「別に良からぬことじゃねーよ。魔王城の生活も飽きたから世界各地を周る旅でもしたいなって思っただけだよ」

 「それが良からぬことじゃないですか・・・」

 眉間に深くしわを刻ませながら、アスレイは盛大に溜息を吐いた。

 「ルーク、貴方は今やSランクの冒険者でさえ警戒レベルのステータス表示になるほどの力を持っているのですよ。万が一、意図せず見られたらどうするおつもりですか?」

 Sランクの冒険者とは、世界各地にある冒険者ギルドに所属している者達の強さや実績を表す為にランク付けされたもので、その最高峰にいる実力者だ。ギルドだけでなく国からも認められている存在で、しばしば国からの要請を受けることもある。魔王が復活し、魔物の脅威が増しても、彼等の活躍のお陰で人間側の被害が少なく済んでいるといっても過言ではない。一騎当千とまでは流石に行かないが、それに近い働きをするのは確かなようで、先の戦いでも世界各地で大活躍だったと聞く。

 ―――今は確か、世界で三人だけだと聞いた記憶があるが・・・

 アスレイが危惧しているのは、鑑定スキルを持っていれば確認したい対象のステータス内容を空間に表示させて視認が出来てしまうことだ。対象が人の場合、確認できる範囲は基本的に、名前、職業、種族の三種類だが、鑑定する相手が格上の場合、危険レベルに合わせて文字の色が変わる仕組みになっている。最も安全な色が淡い水色、そして標準レベルに近づくほど青色から黒文字で表示される。逆に標準からやや危険な場合は鮮やかな赤色となり、警戒レベルとなるとどす黒い血のような赤文字で表示されるのだ。隠蔽スキルを使えば全てのステータス内容を隠すことも可能だが、各項目の文字色まで誤魔化すことはできない。

 「確率の問題なら別に構わないだろ?」

 「問題ありです!良いですか?貴方はご自分の立場を弁えなければならない地位に居る事を忘れないでください!」

 「だからってよー・・・」

 「まだ言いますか!貴方は十二代目の魔王なんですよ!」

 それを言われてしまってはぐうの音も出ない。およそ五十年の周期で復活するはずの魔王が既に誕生しているなんて全世界の誰もが想像していないだろう。なんせ、世界を混乱させるほどの影響を持つ魔王が吐き出す瘴気を俺自身が止めているのだから気づかなくても当然と言えば当然だ。定期的に世界各地を調査して貰い、魔物達に影響が出ていないか確認を行っている。その結果は毎回異常なしで、人々からすればあと二十年は平和ということだ。

 俺が魔王となった当初、瘴気を吐き出さず常に体内に留まらせている自身に悪影響なのではという懸念もあったが、そこのところは勿論確認済である。それは魔王のスキルとは別に俺自身が持つ固有スキルが瘴気を無害化させているようだ。

 歴代の魔王と違って俺は人間――種族でいえば、人族と争うつもりは一切ない。とはいえ、鑑定スキルで俺のステータスを見られたとしたら間違いなく混乱を招き入れることになるのは理解している。

 ―――だが、しかし・・・

 「正直この生活に飽きたんだ!良いじゃねーか気分転換したって!」

 リフレッシュさせろと幼い子供のように駄々を捏ねてみたところでビクともしない岩のように堅物のアスレイが首を縦に振る確率なんてゼロに近い。というより、皆無だ。魔王として生まれ変わった十代の頃から見た目の変化は無いものの、中身は五十歳手前のオッサンだ。そんな野郎が駄々を捏ねたところで可愛げなんてあるはずもない。なんならウザいはずだ。

 それでも奇跡を信じて喚いていると、再び大きな溜息が聞こえてきた。

 「・・・まあ、貴方にしては良く我慢していたと思います」

 てっきり呆れ果てられたのかと思ったが、そうでも無かったようだ。

 ―――むしろ褒められてる?

 「じゃあ旅に出ても・・・」

 「それは少し待ってください」

 期待したのに突き落とされた気分だ。

 「別件の対応があったので保留にしていましたが、以前から改良できないかと思って取り掛かりかけていた魔法があるので、そちらの完成を待って貰いたいのです」

 五属性の魔法は全て操れるアスレイが昔から空いた時間に取り掛かっているのは、魔法の改良だ。攻撃や防御といった戦闘向きのものだけでなく、魔力を殆ど持たない者でも使える生活魔法まで多岐にわたる。

 「時間は掛かりそうなのか?」

 「複雑なものではありませんのでルークは旅の予定でも立てておいてください」

 「うおぉぉぉ!!」

 三十年ぶりに大陸の外へ出られることに思わず歓喜の叫び声をあげてしまったが、ヤバいと気づいた時は既に遅かった。

 「敵襲かッ!?」

 扉が勢いよく開き、血相を変えた男らが武器を構えて集まって来た。

 右からセミロングの金髪に真っ青な空と同じ瞳を持つファリシア、屈強な体つきで野性味を帯びたオルデウス、細身の体格で優男っぽいジェイド、一番幼く小柄なアーディン、そして漆黒のロングヘアーで炎に似た赤い瞳を持つミラリスの五人だ。見た目は人間と変わらないが、アスレイを含め彼等も種族で表すなら魔族だ。人の姿をしていることで魔人とも呼ばれる。

 「あ。悪り。喜びすぎて叫んじゃっただけだから」

 俺の軽い謝罪に全員一瞬呆けた顔をしたが、瞬間沸騰で沸いた湯の如く、激昂したジェイドが殴り掛かってきそうな勢いでこちらへ近づいてきた。

 「紛らわしいマネしてんじゃねぇよ!」

 「だから謝っただろ!?」

 一見優男っぽいが口の悪いジェイドと口論しているのを横目に、アスレイの方は冷静に対応に当たっているようだ。

 ジェイドとはアスレイの次に長い付き合いになる。俺が魔王になる前は、アスレイ、ジェイド、ファリシアの四人で旅をしていた。魔王城で一、二を争う剣の腕を持つジェイドだが、今は第一線から離れている。しかし、緊急事態と判断した際はこうしていち早く駆けつけてくれるのだから頼もしい限りだ。

 「アスレイはルークに甘いよなぁ」

 何があったのかアスレイから説明を受けたオルデウスが何処か納得したような様子で呟いた。誰よりも好戦的な男だが、弱肉強食の魔物だらけで常に争いが起きている魔王城周辺の警備部隊をまとめる立場にいるだけあって状況の把握と順応は流石である。

 ―――普段は、戦闘馬鹿の脳筋野郎なんて思っててゴメン。

 「たまには譲歩も必要でしょう」

 「譲歩ねぇ・・・ものは言いようだな」

 「それで、どのくらい予定しているのかしら?」

 一番離れて様子を見ていたミラリスが口にしたのは、俺が魔王城を離れる期間の確認だ。一応この城の主たる俺が不在となるのだから必要事項だろう。しかし、旅の申請をして許可が下りたのは、今の今だ。

 ―――正直に、どのくらいの期間かなんて全く考えてないって言ったら怒られるかな・・・

 そんな俺の心配に助け舟を出してくれたのは、オルデウスだ。

 「野暮なこと聞いてやるなよ。久しぶりの帰郷なんだからよ」

 「帰郷といっても身内どころか住んでた村も無くなってるからなぁ」

 俺の故郷は先の戦乱の中、滅亡したグランダーナ帝国領にあったミガル村だ。そこで俺は人間の赤ん坊として生まれ、成人の儀である職業を授かった。そして今、魔王となった俺に帰る場所なんてないし、良い思い出ばかりがある訳でもない。幼少の頃に両親は亡くなっているし、俺が魔王城に来る切っ掛けにもなった唯一の肉親も失っている。

 俺が生まれたのは人間と魔物との戦いが激化する少し前だ。先代の魔王が誕生してからは生死なんて紙一重だったし、俺を知る者が今どれだけいるのかも分からない。人族の平均寿命は七十歳。先の戦いで無事だったのであれば、同年代から親世代はまだどこかで暮らしているだろう。長命である魔族にとって三十年の歳月は僅かな年でしかない。そう考えると自分は魔族になったんだなと改めて思い知らされる。

 「詳細が決まりましたら私の方から皆さんにお知らせしますので、各自持ち場に戻るなり解散しましょうか」

 アスレイが一旦仕切りその場は解散となった。ジェイドとファリシアが退室する際、何か言いたげな視線を送ってきたが俺は首を横に振った。

 扉が閉まり再びアスレイと二人きりとなった俺が今度は盛大に溜息を吐く番だ。

 「お前ら気ぃ使い過ぎ。いくら鈍感な俺でも分りやす過ぎるし、何十年経ったと思ってんだよ・・・」

 どうやらアスレイ達は唯一の肉親だった妹を目の前で亡くした俺を気遣ったようだ。

 ―――俺の発言も迂闊だったかもしれないが・・・

 今でこそ魔王城でのんびり暮らしているが、あの日を境に一緒にいたアスレイを始めジェイドとファリシアは俺が巻き込んだに過ぎない。寧ろこちらが気遣う側だ。

 「同郷のお前だって変わらねーだろ」

 「ですが・・・」

 「レイ。もう俺を気遣うな。ジェイドとファリシアにも伝えといてくれ。そんで、改良魔法を急いでくれよな」

 「貴方は・・・分かりました。お二人への伝言と改良魔法の事は任せてください」

 アスレイまで部屋から出て行ってしまうと、さっきよりも部屋が広く感じる。少し寂しさを感じながらも旅の予定を心躍らせながら考えることにした。



 「あーやっぱ空の移動は快適だな!」

 現在、ワイバーンに乗って移動中だ。魔王城の庭から飛び立ってから僅かな時間で、周りの景色は海だけが広がっている。

 アスレイの改良魔法は翌日に完成したが、旅の行き先がなかなか絞り切れず時間を要してしまった。何も考えずに好きに行って来れば良いじゃねーかと、オルデウスからありがたい助言もあり、気ままな旅を満喫することにした。

 昔、アスレイ達と旅をしていた頃は使命に追われ、こんなにも解放感に満ちた気分になることなんて無かっただけに、高揚する気持ちが抑えきれない。締まりのない顔をしているのは、高速で飛んでいる風圧の影響ということにしておこう。

 「さて、念の為にステータスを確認しとくか」

 鑑定スキルで目の前に自分のステータスを表示させた。

 本来であれば職業は魔王となっているが、今は剣士に表示が変わっている。種族も魔族から人族に変えているのは、都市によっては入国時の審査ではねられてしまうことを防ぐ為だ。魔族の中でも魔人は魔獣や魔物と違って魔王の瘴気で理性を失うことは無い。しかし、魔族というだけで信用されないなんてことはザラだ。友好的に共存している町も一部存在するようだが、圧倒的に数は少ない。

 「改良魔法で偽情報のステータスを貼りつけるとか・・・」

 今表示しているステータスは、隠蔽スキルを魔法陣で構築し、改良を加えて偽造した内容を付与させたらしい。悪党共が書類を改ざんする話は聞くが、これだけは言える。

 「アスレイが味方で良かった・・・!」

 ―――怒らせてばかりだけど・・・

 この偽造した情報は、本来のステータス上に紙を貼りつけているようなもので、通常だと俺のステータスが警戒レベルの表示だったとしても標準レベルの黒文字で表示される。この為、無駄に警戒される心配もない。

 「俺の幼馴染、有能過ぎるだろ」

 改めてアスレイに感謝しつつ、休憩に良さげなポイントが視界に入ったところでワイバーンの高度を下げさせた。



 いくつかの休憩を挟んだ後、魔王城周辺の森のように木々が生い茂る山間に降りた。今は、全く舗装されていない険しい森の斜面を昔の記憶と勘を頼りに登っているところだ。

 この辺りまで人が近づくことが無い為か、大小の岩の上にびっしりと苔で覆われた足元は非常に滑りやすい。空からは密集した木の様子しか見えなかったが、人の手が加えられていないこの自然溢れる場所は、上質な魔素の宝庫といって良いだろう。

 ここまでの道中に乗って来たワイバーンは今後、人里が近くなることから帰って貰った。南東の大陸を明け方に出発して中央の大陸を越え、アストリア王国が治める北西の大陸まで休憩を挟みつつもかなり長距離を飛行させてしまったのだ。これ以上拘束するわけにもいかない。

 普通に船や馬車を使った旅ならば月をまたぐ期間を要するが、ワイバーンを使っての移動は十時間も掛かっていないという驚異の速さだ。これだけで十分すぎる。

 歩き始めてから程なくすると、熱気と独特な匂いが漂ってきた。足場が悪い為、高揚した気持ちのままでは、うっかり転倒してしまいそうだ。

 「この上っぽいな」

 俺の背丈の五倍近くある岩壁の隙間から木の根が飛び出しているのを見つけた。目的地の頂上付近で、掴むにも丁度良さそうだ。

 手を伸ばすと、地面から黒い帯状の影が木の根に向かって伸びた。しっかり巻きつけた後に引っ張って強度を確かめたが問題無いだろう。それをロープ代わりに岩壁を蹴り飛び越えた。

 「おお・・・!」

 勢い余って跳び上がり過ぎてしまったが、目の前には湯気が立ち上る温泉が湧き上がっている。

 ここは高い岩壁の上にあるだけではなく、途中にも険しい道を通る必要があることから、一般の人間が近づくことは殆どない秘境の天然温泉だ。岩底から自然に湧き上がる温泉は、疲労回復、血行促進、美肌効果、その他もろもろ傷病にも効くらしい。

 昔、旅をしていた頃にこの温泉の情報を掴んでいた。だが、日を増すごとにくつろぐ時間は許されず、いつしか記憶の片隅へと追いやられていた。魔王城で暮らす中、旅に出たい気持ちが芽生え始めた頃から、この場所に思いを馳せていたのだ。

 「はあ~三十年越しの温泉は沁みるぜー」

 雑に服を脱ぎ棄て、湯加減を確認することなく飛び込んだ。

 行儀が悪いと叱ってくる奴もいない。なんて素晴らしい!

 泳ぎ回れるほどの広さも十分にあるが、他人の視線が無いとはいえ流石にそこは自重しておこう。

 まだ日も高いはずだが、ここには梢葉の合間から僅かな日差ししか届かない。誰もいないが一人で執務室に居る時とは違う特別感がある。

 「レイ達も連れて来てあげてーな」

 人肌よりも少し熱めの湯加減は、ついつい長風呂をしてしまいそうになる。時間を忘れて一人旅を謳歌することが目的のはずなのに、日々多方面に立ち回ってくれている仲間のことが脳裏に浮かぶ。最早、切っても切れない関係なのかもしれない。無意識に笑みがこぼれる。

 ただそれだけに何かが切っ掛けで壊れてしまうことが怖い。そして、その切っ掛けを持つのは俺だろう。

 俺のステータスは魔王だけではない。

 要らぬ誤解を与えない為に隠蔽スキルで隠している部分がある。それはかつて先代の魔王を倒した者だという証。成人の儀で俺が授かったのは勇者だ。

 ある影響により俺は魔王へと進化した。しかし、その過程で問題があったのかステータス上は「魔王/勇者」となっている。勿論、どちらの固有スキルも使用可能だ。故に、俺の体内で留まらせている瘴気は勇者の固有スキルにある浄化で無害となっているわけだ―――今は。

 魔王と勇者が五十年周期で誕生する歴史通りであれば、あと二十年後に次の勇者が現れることになる。その時、俺はただの魔王となってしまうのか、自我を保っていられるのか予想がつかない。かつて戦った先代の魔王のように憎悪と殺戮だけの存在になってしまうことは絶対に避けたい。あの絶望のような日々が繰り返される歴史が俺の代で阻止できるのであれば、終わらせたいのだ。その為に、世界各地にある歴史にまつわる文献を集め片っ端から調べたが、未だに有力な情報は何も見つかっていない。

 「・・・とりあえず、旅の間は忘れよう」

 気分転換に出てきたのにこれじゃあ魔王城に居る時と変わらない。

 今夜泊まる場所を探す必要があることを思い出し、下山する準備を始めることにした。



 「少し長風呂し過ぎたかな・・・」

 湯あたりしたようで頭がくらくらする。しばらく歩いていたが、近くに沢を見つけた俺はそこで一旦休憩することにした。

 沢の水を飲む前に水質に問題ないか鑑定スキルで調べると、一番安全を示す水色の文字が浮かび上がった。それを確認すると、両手ですくって口に含んだ。

 「うまい・・・!」

 透き通るような美味しさの冷たい水が喉を潤してくれる。夢中で何度もすくって飲むうちに全身に冷たさが伝わったのか、体の火照りが少し和らいだようだ。

 現在、温泉があった場所からはかなり下山してきたとはいえ、近くの都市か町に辿り着くにはまだ時間が掛かるだろう。何より、この美味しい水を確保しておきたい。

 「空間収納」

 この空間収納とは、空間の狭間にアイテムを保管することが出来る大変便利なスキルだ。空間内では時間が止まっている為、収納したアイテムは、どれだけ時間が経過した後に取り出したとしても劣化することは無い。勇者時代に収納したアイテムもまだ残っているが、魔王城からは旅に必要そうなものを色々と詰め込んできた。その中から取り出したのは、空のボトルだ。この中に沢の水を詰めて収納しておけば、いつでも美味しい冷たい水が飲めるわけだ。

 もっとたくさん持って来ておけば良かったなと思いつつ水を汲んでいると、遠くから人の叫び声が聞こえてきた。

 「悲鳴・・・?」

 ここに来てからまだ魔物の気配を感じていないが、尋常ではない声だったのが気掛かりだ。

 ―――ん?魔物の気配を感じないのは俺のせいか・・・?

 気を付けていないと魔力が駄々漏れになっているらしく、魔物が怯えて困ると魔王城周辺の警備をするオルデウスから苦情が来たことがある。

 温泉に浸かっていた時はかなり気が緩んでいたので可能性がなくもない気がするが・・・

 「まあ、この辺りには元々魔物が居なかったことにしておこう」

 声が聞こえた方向へ木々の間を縫うように走っていると舗装された平坦な道に出た。

 この辺りから聞こえたということは、一般人が魔物か盗賊にでも襲われたのだろうかと思ったが、それらしい物音は聞こえてこない。

 「何事もなかったと片付けるには早計だよな・・・探知スキルで周辺を確認するか」

 悲鳴を上げた主が意識を失っている可能性もあるし、何者かが俺の存在に気づいて周辺に潜んでいるのかもしれない。

 探知スキルは、人や魔物の生命力に反応する。生命力が高いほど強く、逆に瀕死であれば弱い反応となるのだ。

 確認した結果、一番近くに弱弱しい反応が一つと、少し離れた場所に三つの反応があることが分かった。周辺に潜んでいるものはいないようだが、一番近くの反応は急いだ方が良いかもしれない。

 注意を払いながら道なりに進んで行くと、脇の木に凭れるように人が倒れているのを見つけた。

 駆け寄って様子を見ると、腕や胸に抉られたような深い傷がある。身なりからまだ若い冒険者の男であることが窺えるが、腰にホルダーがあるものの剣を所持していない。周囲にも落ちておらず代わりに血痕が先に続いている様子を見ると、ここまで逃げてきたが意識を失ったのだろう。僅かに息はあるがこのままでは失血死は免れない。

 「大丈夫か?回復薬だ。飲んでくれ」

 男の体を支えながら声を掛けると、薄っすらと目が開いたのを確認した俺は、小瓶に入った液体を少しずつ口に流し込んだ。回復薬で自然治癒力が高まり、体に出来た傷は見る見るうちに癒えていく。それと同時に意識もはっきりしてきたようだ。

 「回復薬を使ってくれたのか、すまない。しかも傷の治り方からして上級なものを使ってくれたんじゃないのか?」

 勇者時代から空間収納に入れっぱなしになっていた回復薬だ。怪我をしてもファリシアの回復魔法で治癒して貰っていたので、保険で何本か持っていたに過ぎない。それに自然治癒力が桁違いに高くなった今の俺には使い道が無いものだ。

 「気にしなくて良い。それよりもあんな怪我をするくらいだ。何かあったのか?」

 俺の言葉にハッとしたように男の顔が目に分かるよう青ざめた。

 「仲間が大変なんだ!助けを呼ぶ為に俺だけ逃げてきたんだがこの有様で・・・」

 傷口は塞がったとはいえ大量に血を流していた。今はまだ立ち上がることも難しいだろう。

 「怪我の具合からして魔物に襲われたのか?」

 「ああ・・・この森には上級以上の魔物が現れるなんて殆どないのに、しかも生息していないはずのワイバーンに遭遇しちまって・・・」

 ―――ん?

 「丁度この辺りで狩りをした帰り道で異変があって調べてたんだ。Bランクの俺達でさえ只事じゃないって感じてたけどまさか・・・!」

 ―――これはひょっとして・・・いや、認めるべきか。

 「頼む!俺の代わりにリーディアの冒険者ギルドにこの事を報告してくれ!直ぐにでも討伐隊を組まねーと周辺の町にも被害が・・・っ」

 「いや、今から報告に行って要請してたんじゃ遅いだろ。俺がアンタの仲間を助けに行ってくるよ」

 ―――格好つけて助けに行ってくるとか、全部俺のせいだろ。

 いきなりやらかしてしまった。

 魔王城での生活が長すぎて通常の感覚がバグってた。空の王であるワイバーンを乗り物にしている時点でアウトだろ。

 一応、人里からは少し離れてるからここで解放したけど、異変に気づいて調査していた冒険者の彼らと遭遇しちゃったんだな。

 ―――アスレイが居たら何を言われるか・・・!

 「だったら俺も一緒に―――」

 「時間無さそうだから悪いな」

 地中から湧き出した荒波のように蠢く漆黒の影が覆い被さるように男を飲み込んだ。影は再び地中へと消え、男には外傷一つ無いものの完全に意識を失っている。

 魔王固有スキルの一つだ。

 自身の影を自在に操って拘束したり、あらゆるものを吸収することが出来る。さっき温泉までの岩壁を飛び越える時にも使ったものだ。

 この男には悪いが、このスキルのデメリットで意識を奪わせてもらった。痛みや触れられた感覚もなく、一瞬のことで何が起こったのか分からなかったはずだ。ただ、使い方次第で命も奪ってしまえるほどの力がある為、扱いには慎重さを要する。

 意識の無い人間をこんな場所に残すのは躊躇われるが、周りに他の生命体の反応は依然ないままだ。

 「それじゃあ責任を取りに行くとするか・・・!」



 探知スキルでも確認していたが、男が流した血痕を辿った先に目標を発見した。やはり俺が魔王城から乗って来たワイバーンだ。

 少し開けた場所には大小の岩山が点在しており、その内の一つのような巨躯を地面に預けている。

 時折、一番大きな岩山に向かって頭部をぶつけては同じ場所を凝視している様子から、恐らく人が入れるだけの隙間に先ほどの男の仲間が身を隠しているのだろう。

 位置情報を確認する為にワイバーンに近づくが、興奮しているのかこちらに気づく様子はない。

 「いた・・・!」

 思った通り、僅かな空洞で奥行きもそんなに無さそうな場所に怯えた様子の男女の姿が見える。魔法障壁でワイバーンからの攻撃を防いできたようだが、度重なる衝撃を受けて効果が切れるのも時間の問題かもしれない。

 ワイバーンの意識を俺の方に向けさせて威圧スキルを使えば大人しくこの場から去ってくれるだろうが、近くにいる男の仲間達までスキルの威力に巻き込んでしまう可能性がある。耐性があれば気絶程度で済むかもしれないが、今はワイバーンからの恐怖で精神的ダメージを負っている中、無事であるとは到底思えない。

 「かといって間に入ってしまったら間違いなく目立ってしまうしな・・・」

 俺としては目立たず、且つワイバーンを傷つけずに男の仲間達を救出したいのだ。

 「・・・試してみるか」

 頭でシミュレーションした内容を実行に移すことにした。

 まずはワイバーンの背後に回り、影を伸ばして尻尾を掴んだ。これで振り返ってくれたら楽なのだが、違和感を覚えた程度のワイバーンは尻尾を大きく振る動作だけに止まった。

 今度は巻き付けた影を後方に引っ張ると、煩わしそうに後ろを振り返った。理想としては体ごとこちらに向いて貰いたい。ワイバーンの体格を利用して彼らの壁になって貰う為だ。

 「あと一息・・・!」

 更に影を伸ばしワイバーンの翼に巻き付けた。

 翼を拘束されては流石に無視できなくなったのか、巨体を大きく動かし振り払う動作を確認した俺は影を解除した。

 自由になった翼を羽ばたかせ空中で体を半回転させると、再び地面へ着地した。舞い上がった砂埃で男の仲間達から俺の姿は見えなかったはずだ。

 「悪いな。俺が深く考えないでお前を解放したせいなんだけどさ、この辺りから早急に離れて欲しいんだ」

 魔王の固有スキルの中に、魔物を従わせることが出来るものがある。だが、興奮状態にあるワイバーンには無効化されてしまうようだ。魔物の本能でもある闘争心が刺激されていては、お願いするのは難しい。やはり当初の予定通り威圧スキルを使うしかない。このスキルの効果は、対象の相手に怯みを与える。恐怖心を植え付けると言っても良いかもしれない。

 「・・・悪いが、俺の目の前で人を傷つける行為は容認しない」

 全力を出さずとも現時点ではテレスティアル上全てのものを捻じ伏せるだけの力を持つ俺からの圧力に、ワイバーンの危機回避能力が反応したようだ。相手の力量を見極める能力があるのも強者の証だろう。攻撃態勢に入っていたが、羽を大きく羽ばたかせ後退するように飛び去って行った。

 再び大量に舞い上がった砂埃が落ち着いた頃合いを見て、空洞に身を潜めたままの男の仲間達の元へ駆け寄った。



 テレスティアル北西の大陸南部にある港町リーディア。年間を通して気候はやや雨が多いものの安定しており、気温も高温になることはない。海に面している為、他国との貿易や漁業が盛んな町だ。

 様々な飲食店が軒を連ねる中でも冒険者が数多く集まる酒場へ案内された。四人がけのテーブルいっぱいに並んだ料理と酒を目の前に気分が上がる。

 「ルーク、今日は俺達の奢りだ!存分に食べて飲んでくれよな!」

 山道で助けた男のゲイルと、ワイバーンから救ったということで、彼の仲間のレナとクリスに連れられてやって来たのだが少し気が引ける。三人と出会ったのは、近くの都市に続く道の手前にあるモルビスの森という場所だったようだ。彼等がワイバーンと遭遇してしまった元々の原因は俺なんだとは口が裂けても言えない上、全員が全く疑わずに接してくれるのがなんだか申し訳ない。

 「港町ならではの魚料理はどれも美味しいから食べて!」

 「他国との貿易でお酒の種類も豊富ですし、飲み比べてみるのも良いですよ!」

 彼等は、この町にあるギルドを拠点にしているBランクの冒険者で、昊天の光というパーティー名で活動しているそうだ。

 まとめ役でもあるリーダーのゲイルは剣士で、やや細身ながらも引き締まった体格をしている。紅一点のレナは人懐っこそうなヒーラーで、クリスは物腰が柔らかそうな魔道士だ。全員まだ二十代前半だがBランク保持者ということは優秀なのだろう。

 ゲイルとレナはこの町の出身ではあるが、十五歳で冒険者として活動を始めてから知り合ったらしい。需要の高いヒーラーのレナは別のパーティーに二年間所属していたが突如解散となり、ソロで活動していたゲイルから声を掛けたそうだ。多人数のパーティーに少し辟易していたレナとソロでの活動に限界を感じ始めていたゲイルの利害が一致したことで、二人はパーティーを組むことにしたようだ。

 何度か討伐依頼をこなしたある日、今訪れている酒場で二人はクリスと出会ったという。

 酒好きのゲイルと一見飲むようには見えない酒豪のクリスが意気投合し、三人で併せてみたところ連携にも問題なく、そのまま昊天の光を結成し今に至るそうだ。

 酒豪というだけあってクリスは次々と酒をオーダーしているが、ゲイルとレナが何も言わない辺りこれが通常運転なんだろう・・・

 「私達、ルークのお陰で命拾いしたんだから遠慮しないでね」

 「いや、俺はゲイルに回復薬を飲ませたくらいで、ワイバーンは駆けつけたら直ぐに何処かに行ってしまった訳だからあまり助けた感じは無いんだけどな・・・」

 「そんなことはありません。ルークさんが来たからこそ何かを感じ取ったワイバーンが逃げて行ったのでしょう」

 レナとクリスからは俺の姿が見えないようにワイバーンを退けたのだが、出会ってからはずっとこの調子だ。クリスに至っては俺に潜在的なものがあると匂わせるようなものの言い方で、内心ヒヤヒヤしている。

 彼らは今日、討伐依頼が終わり町へ戻る途中、鳥や動物だけでなく魔物の群れまで何処かへ向かって逃げて行く姿を見かけたのだという。今までに見たことが無い異常行動に周辺を調べてみたが特に何も見つけることが出来ず、再び帰路についたところでワイバーンと遭遇したようだ。

 クリスとレナが身を隠していた岩山に出来た空洞の奥はダンジョンに繋がっているようで、最悪その中へ逃げ込むことを考えていたようだ。

 「確かにダンジョン内は別空間になってるからそれもアリかもしれねーけど、危険もあるだろ?」

 「あのダンジョンは初級者向けで低級の魔物しか湧かねえから心配いらねーよ」

 既に踏破済のダンジョンで宝箱も取りつくされているということで旨味が無く、駆け出しの冒険者が戦闘経験を積むのに潜るぐらいだそうだ。

 「ダンジョンについて詳しく知ってそうだけど、ルークも冒険者なの?」

 「いや、俺は冒険者じゃねーよ。今は、気ままに旅をしてるだけだ」

 これについては嘘をついてない。しかし、余計なことを言ってしまったようだ。

 「職業は俺と同じ剣士なんだろ?なのに稼業を冒険者にしないってことは、ルークって実は良いとこの貴族だったりするのか?」

 「確かに!私らと年齢変わらなそうなのに、気ままに旅してるってことはお金持ちなの?」

 そんなことは無いと否定してみるが、これ以上喋ってしまうと色々とボロが出そうだ。職業を偽装するだけでなく、もっと設定を細かく決めておくべきだった。

 「二人とも、ルークさんは今日会ったばかりで、しかも僕達を助けてくださった恩人ですよ。そんな方に詮索するような質問をするのはマナー違反では?」

 ―――節度のあるタイプが居てくれて良かった・・・

 クリスからやんわりと注意を受けた二人は素直に謝って来た。根はいいようだ。

 気にしていないことを告げると、切り替えが早いタイプなのかレナは今日遭遇したワイバーンについて再び話を持ち出した。

 「ギルドに目撃情報は報告したけど、また現れると思う?」

 「こればっかりは分かりませんね。けれど、いつ非常事態が起きても良いように対策しておくに越したことは無いと思います」

 クリスの意見には全員が納得するものだった。だが、三人とも浮かない表情だ。何か問題でもあるのかと尋ねてみると、レナが気まずそうに答えてくれた。

 「リーディアの町からは最高ランクのSランク冒険者は何十年も出てないの。私達を含めBランクはいるけど、今日遭遇したワイバーンに何もできなかったわ」

 「Sランクどころか、A級すらここ数年は出ていませんからね」

 「この辺りは上級以上の魔物は殆ど現れないからな。中級をいくら狩っても届きやしねえ」

 Bランクは上級の魔物をパーティーで倒せるくらいの実力なのだろう。だが、ワイバーンはその上の警報級に位置する。戦うとすれば複数のパーティーで挑む必要がありそうだ。

 だが、問題は他にもあるようで、この町のギルドの依頼の半数以上は、船の護衛関係だという。山や森も近いが、こちらは魔物の脅威が低い為か、依頼数は少ないそうだ。そうなると、自動的に船の護衛で数日から長期的に町を離れるパーティーが複数出てくることになる。高ランクのパーティーがその中に入っているとなると、確かに厳しいものがありそうだ。

 「ギルドは関係ありませんが、強さでいうなら先代の勇者が誕生したくらいですからね」

 「だな。この町は勇者ヴァルドルフの出身だけが名誉みたいなもんだ」

 「ホントそれ。けど魔王討伐後は王都暮らしだし、この町に特に恩恵もないし・・・どうかしたの?ルーク」

 料理を口に運ぼうとしていた俺の手が不自然に止まったのを見て、レナが不思議そうに問いかけてきた。

 魔王と勇者の歴史はこの三十年間調べてきたつもりだ。そこには必ず勇者の名前も記載があった。俺の前の勇者であれば、周りの誰もが名を口にすることも出来たくらいだ。だというのにゲイルから何故その名前が出てきたのか・・・レナとクリスからも訂正は無い。嫌な予感がじわじわと膨らんでいく。

 「先代の勇者の名前って、バルドーじゃなかったのか・・・?魔王と勇者の歴史について文献は沢山読んできたが・・・勇者ヴァルドルフなんて、名前は・・・無かった・・・」

 震えそうになる声を必死に堪えながら言葉を紡いだ。

 歴史を辿る中で違和感はあった。だけど認めることは同時に受け入れなければならない事実があることを意味する。

 「確かに文献では勇者バルドーになっていますよね」

 「そうなの?なんで?」

 クリス達が目の前で話している内容が耳に届いているのに、現実ではない感覚に支配されている。

 そう、これは拒絶だ。

 「専門分野が違うので、僕もどういった経緯で愛称が正式な名前になってしまったのかは分かりませんが・・・」

 何か思いついたのかクリスに声を掛けられて俺は我に返った。

 「あ、悪い。なんだっけ?」

 「歴史に興味をお持ちでしたらこの町にある王立図書館の分館はどうでしょう?勇者ヴァルドルフの資料もあったはずです」

 「俺でも利用できるのか?」

 「勿論。ですが、今日はもう閉館時間が過ぎていますし、よかったら明日にでもご案内しますよ」

 その後の会話や料理の味は正直殆ど覚えていない。だが、この時点で既に今後の俺達を取り巻く何かが動き始めていたことに、まだ気づけないでいた。



 「ルークさん、おはようございます!」

 泊まった宿で朝食を済ませてから外へ出たタイミングで、爽やかな笑顔を浮かべながらクリスが駆け寄ってきた。彼は昨日、かなりの量の酒を飲んでいたが、全く持ち越していないようだ。

 「おはよう、クリス。昨日は色々と世話になった」

 宿の紹介や酒場では、俺の素性をゲイルとレナから詮索されそうになっていたところを防いでくれたり、何かと助けて貰った。そして今日は朝から王立図書館へ同行をお願いしている。

 「今日も時間を作って貰って悪いな」

 「とんでもないです。それより、今日はルークさんの顔色が良くて安心しました。昨日、酒場での会話中になんだか様子が違って見えましたので・・・」

 「あー・・・久しぶりに旨い酒と料理をがっついたせいか、胃がビックリしたみたいでさ」

 「ははは、そうでしたか」

 咄嗟に考えたにしては、あまり嘘くさくなく誤魔化せたんじゃないかと自画自賛してみる。

 洞察力が鋭そうなクリスが一応納得してくれたようで安堵したものの、もっと気を引き締めないと総崩れになりかねない。

 「そうそう、王立図書館の利用についての補足ですが、保管されている資料には閲覧レベルが五段階あります。この国に市民権を持たない旅の方はレベル1しか貸出も閲覧も出来ません。ですが、ルークさんは歴史についてかなりお調べになっている様子でしたので、僕にお手伝いが出来るんじゃないかと思ったんです」

 「じゃあ、クリスは高レベルの資料も閲覧できるのか?」

 「はい―――あ、ここが王立図書館の分館です」

 立ち止まって見上げた建物は年代を感じさせる煉瓦造りになっており、周囲の建物と比べても圧巻の大きさだ。正面の外階段を上って扉を開けると、天井は吹き抜けになっており赤い絨毯が引かれた先に受付のカウンターが見えた。左右に階段があり、コの字型で繋がっている廊下に並ぶ扉の奥に書物が保管されているのだろう。王立図書館と聞けば厳かな雰囲気を想像していたが、一般人の利用も可能なことから堅苦しさは感じられない。

 「あら、クリス様。今日はどのような資料をご入り用ですか?」

 受付にいた二人の内、右側の女性がクリスの姿を確認すると声を掛けてきた。職員用のスーツ姿に肩まで伸びたダークブラウンの髪を片耳にだけかけたシンプルな装いだが、目鼻立ちがはっきりしていて華がある。表情や口調も柔らかく、相手に安心感を与えてくれる対応は、仕事上で作られたものだけではないように思う。

 「やあ、カレンさん。今日は僕の用事では無いんだ」

 クリスが隣に並ぶ俺を紹介してくれた後、改めて名乗り会釈した。

 「彼はこの国の市民権は無いのだけど、多くの歴史資料を調べているみたいなんだ。それで僕の閲覧権限を使って彼にここの資料を見せて欲しいんだよ」

 「まあ!歴史を学ばれているのですね!」

 「はい。実は、今までに読んだ文献では先代勇者の名がバルドーと紹介されていたのですが、正式にはヴァルドルフだと聞き、他にも何かまだ知らない内容があるのではと思いまして」

 「成程、そういう事でしたか。では、レベル5は国家機密の資料となる為、クリス様の権限を全てご利用いただくことは出来ませんが、レベル4まででしたら閲覧いただいて構いません」

 「は・・・・え・・・?」

 五段階中、全権無理でもレベル4まで良いって、どういう事なんだ?レベル5は国家機密だとしても、その一段階下って普通の人間じゃないだろ・・・!

 「ルークさん顔に出てますよ」

 「いやいや、おかしいだろ普通!クリスって何者なんだ!?」

 Bランク冒険者以外には何も知らない。それに、それだけで国家機密資料を閲覧できる権限を持てるとも思えない。

 「クリス様は国家を代表する学者を多く輩出する家系の出身なんですよ。もちろん、クリス様ご自身もこの若さで功績を認められており、最高権限をお持ちなのです」

 ―――学者で冒険者・・・聞いたことあるような無いような感じだな。

 「僕の専攻は魔法理論です。冒険者の傍ら魔導学術会にも所属していまして、魔法をもっと使いやすくする為に、魔法陣の簡略化などの研究をしています。けれど、僕の研究は今代の勇者と共に戦った賢者アスレイには遠く及ばないと思っていますが」

 魔王討伐の旅の途中、アスレイもまたクリスと同じように魔法陣の簡略化で魔力の消費を抑えるといった技術を惜しみなく提供していた。魔物と戦う人々の消耗を少しでも軽減させたいと当時話していたのを覚えている。今も続けている魔法改良はその延長線なのだろうか。

 「そういえば、ルーク様のお名前って三十年前に魔王を倒した勇者と同じですよね。それで歴史に興味を持たれたとか?」

 「え?あ、ああそうですね、何か引かれるものを感じたのは確かですね!」

 カレンからの不意打ちといってもいい質問の答えにツッコミ満載だ。実は本人なんですなんて当然言えるわけないが・・・。

 「カレンさんは勇者ルークと賢者アスレイがお好きですよね」

 「ええ!勇者ルークといえば正義感溢れる人物だったと、どの文献にも紹介されていますし、彼を支える聡明な賢者アスレイに絶大な信頼を置くお二人の関係性は、それはもう尊いものです!」

 世間ではそんなふうに思われていたことに少しばかりこそばゆい気持ちだったが、この後すぐにとんでもない言葉の羅列が飛んできた。

 「幼馴染だからこそ互いに相手を分かっている、その唯一無二の存在はいつしか恋愛感情に発展して・・・!」

 「女性の一部の間では流行っているんですよ。男色本が」

 呆気にとられていた俺に気づいたクリスが補足してくれたが、今もうっとりしながら捲し立てるように二人の関係性について熱く語ってくれているカレンの話が全く頭に入ってこない。

 しかし、いつの間にそんな本が出回っていたのかが気になるところだ。

 ―――俺は笑って流せるが、レイが知ったら・・・

 背筋に冷たいものが走った。



 クリスとは受付で別れ、世界各地の歴史資料がまとめられた一室に入った。まだ開館してから間もないからか、俺以外の人はこの部屋には居ないようだ。

 部屋一面に並ぶ本棚から、閲覧用に渡された魔道具の腕輪を付けて目的の資料を探し出す。館内の資料には全て魔法で鍵がかかっており、腕輪に付与された権限までは解除できる仕組みになっているらしい。また、手にした資料は腕輪内に記録される為、紛失防止の役割もあるようだ。

 カレンの一存で俺にレベル4までの閲覧権限を与えて良いものなのかと心配したが、彼女は王立図書館の副館長で館長と同等の権限を持っているとの事だった。

 手始めに本棚から二冊を抜き取った。

 歴代の魔王と勇者の戦いをまとめた歴史書と、先代の勇者ヴァルドルフの人物像などがまとめられた資料だ。一冊目の歴史書は魔王城にも保管しているくらい一般的に出回っているものなので権限レベルは1だ。二冊目の勇者ヴァルドルフの出自などをまとめた資料には、勇者として戦った数々の功績以外にも一般的には公表されていない内容が含まれる為、権限レベルは3になっている。更に低い権限レベルで同じような資料もあるが、どうせなら秘匿情報や守秘義務が高い内容を知ることが出来るチャンスだ。それに魔王との戦いが終わった後の内容が記載されている可能性が高い。言い換えるなら、勇者ヴァルドルフが後世はどのように過ごしていたのか。

 そこに考えが至るまでにはいくつかある。

 俺が魔王として魔王城へ再び訪れた際、先代魔王の思念体と出会った。

 「呪いは受け継がれて行く」

 それを告げると、先代魔王の気配は完全に消えてしまった。

 そして、先代魔王との戦いの中で確認していたことがある。鑑定スキルで見た魔王の名はヴァルドルフ。

 正直、今も発狂せずにいられる自分を褒めてやりたい。

 俺がなんとか平静を保っていられるのは、まだ全く同じでは無い可能性が残されているからだ。

 同じ魔王でもヴァルドルフと違う点でいえば、俺のステータスは、「魔王/勇者」となっている。そして、魔王ヴァルドルフと対峙した際、彼からは破壊と殺戮の為にしか存在しないような、自我はどこにも無いように見えたからだ。

 ―――次の勇者が現れるまでには、まだ時間がある。

 「完全に魔王と化してしまうのが運命だというのなら、抗ってやる・・・!」



 夕刻を過ぎた頃、俺は王立図書館を後にした。収穫はあったが、決め手となるものは見つけられなかったのが残念ではあるが、久しぶりに時間を忘れて没頭してしまった。閉館まで時間はあったが、流石に昼飯も食わず過ごすには限界があった。

 夕食の場所は昨日の酒場か泊まっている宿屋、それとも何となくふらりと入った店というのも旅の醍醐味というやつかもしれない。

 「何処にするかな・・・あっちも気になるな。いや、こっちかな・・・・・・」

 入る店を迷っているフリを続けること五件目。

 ―――バレバレだっつーの!

 今朝、クリスと合流した時からずっと後をつけている奴がいる。正確には複数人。

 図書館にいる間は流石に外で待ち伏せていたようだが、なんとも暇な奴らだ。

 昨日の酒場で、ゲイルとレナが俺を金持ちのように騒ぎ立てていたのを聞いたのだろうか?

 それとも、見かけない顔で身なりはそれほど悪くはない俺を、そこそこ金のある旅人とでも思ったのだろうか?

 どちらにしろ、金目の物を強奪しようと考えているのだろうが、実に単純で浅はかだ。愛剣から全ての持ち物は別空間に収納している。

 この別空間に収納できる空間収納スキルを持っている者は少ない。持っていない者は空間魔法が施された袋や鞄を携帯するが、高額な割に収納できる数等も限られている。回復アイテムや金品などの生活用品は収納可能だが、武器類は制限があるのかナイフくらいしか収納が出来ない。それでも欲しい奴らはいるわけで、恐らく狙われているのは腰元の鞄だろう。だが、これは正真正銘ただの鞄だ。そして中身は空だ。空間収納スキルは人前で使うと目立ってしまう為、フェイクで携帯しているに過ぎない。

 よって、俺から奪えるものは何もないのだが・・・。

 ―――折角、気ままな一人旅なのに、このまま四六時中付き纏われるのもうんざりだな。

 店を探す素振りを続けながら相手に気づかれないよう人気のない路地に入ると、もはや定番お約束のような行き止まりに辿り着いた。勿論、助けを呼ぶにも誰にも声は届かないだろう。

 「用件は聞いた方が良いか?」

 俺は後ろを振り返らずに確認してみた。探知スキルの反応では四人。

 「オレ達に気づいていながら誘い込んだっていうのか?」

 「舐められたもんだな。お前、ただの剣士だろ?剣豪のオレ様に敵うとでも思ってンのか?」

 どうやら鑑定スキル持ちで俺の偽造されたステータスを確認したらしい。チンピラにも有効なようだ。

 「大人しく金目の物を差し出せば―――」

 男達の後ろから大波のような黒い影が全員を飲み込んだ。声は何も聞こえなかったが、地面に倒れこむ音が次々と耳に届いた。

 「疑問形だったから答えてやるけど、目立ちたくないからこの場所を選んだし、剣豪だからといって修行して経験を積まなきゃ雑魚でしかねーぞ」

 といっても、聞こえている奴はいないだろう。



 非常に面倒だが、俺から強奪しようとしていた男達を拘束して冒険者ギルドへ引き渡すことにした。

 ギルドの場所は本通りに出たところで出会った通行人に尋ねると、かなり驚愕した様子で教えて貰った。騒ぎ立てる男達を引き摺っていたからだろうかと不思議に思いつつも、到着したギルドでその訳を知ることになる。

 「この度は大変申し訳ございませんでした!」

 拘束して連れてきた男達は万年Bランクの冒険者で、ギルド側も素行の悪さには気づいていたらしい。

 底辺でランクを上げられない冒険者が、悪知恵でも働かせたのかと思っていた俺としては、その事実に逆に衝撃を受けてしまった。

 「ルークさんは冒険者ギルドに所属されていないとの事ですが、どこかの国の騎士団などでご活躍されているのでしょうか?」

 「いや、全く関係してないけど・・・というか、正直これ以上目立ちたくないから、もう帰っても良いか?」

 ギルドに到着してからずっと好奇の目で見られている。俺としてもこれ以上は耐え難い。

 「大変失礼いたしました・・・!ルークさんがお強い方だと見受けられましたので、つい詮索してしまうようなことを申し上げてしまい―――」

 「そういうの大丈夫だから謝らなくて良いよ。一人で旅してると自分の身を守る為にもいくらかは強さが必要なだけで、拘束した彼らもかなり油断してただけだろうし。あと、余計なお世話だと思うが、戦闘職じゃない人達が俺と同じ目に遭う可能性を考えるとギルドの体制は少し見直した方が良いと思うぜ」

 相手に相槌や否定を入れる間も与えない速さで捲し立てると、その勢いのまま冒険者ギルドを後にしようとした。

 「大変だ!モルビスの森にコカトリスが現れた!」

 勢いよく扉から入って来た冒険者の叫び声にギルド内の空気が一瞬にして凍りついた。

 なにやら驚いているようだが、コカトリスは平たく言えば、巨大な鳥の尻に蛇が付いた魔物だろ?

 ―――ん?この言い方だと場の雰囲気と合っていないな。

 確かに、勇者時代の駆け出しの頃は、毒のブレスや石化攻撃にかなり苦戦した魔物ではあったので、まだ強さの感覚の補正が出来ていないようだ。

 気になるのは、昨日のワイバーンもそうだが、上級を超える魔物に対しての耐性がこの町の冒険者には無いように見える。この辺には滅多に上級以上の魔物が現れないとゲイルが言っていたが、それだけとは思えない。今はまだ大人しいとはいえ、俺が関係しなくてもこの世界には危険な魔物が常に存在している。

 ギルド内は騒然としているが、太刀打ちできないようではいずれ滅びても仕方ないだろう。冷たいかもしれないが、魔物は基本的に弱肉強食だ。力が無ければ蹂躙されるだけの話だ。

 拘束した厄介者を引き渡すことは完了した。俺がここに留まる理由はないだろう。



 薄暗い森の中を駆け抜ける。まだ日は完全に落ちていないが、高い木々に覆われたこの場所には光が殆ど届かない。

 「クソ・・・っ」

 ギルドを後にしようとした背後からの声が聞こえなければ、俺はまだ町に留まっていただろう。昊天の光のメンバーがコカトリスの足止めをしているなんて知らなければ。

 昨日彼らを助けたのは、俺が魔王城から乗って来たワイバーンに襲われていたことが原因だった。その後の流れで行った酒場で、俺の前の勇者と魔王が同一人物だったことが分かった。それだけでも大きな収穫だった。そして、王立図書館で見つけた新たな手掛かりは、クリスの協力が無ければ見つけることが出来なかっただろう。そんな彼らが窮地に陥っているのであれば、助けに行かないという選択をすることは出来ない。

 ―――人族から裏切られた俺を知っている仲間からすれば不可解に思うだろうが・・・

 「足の速いウルフくらいはいると思ったのに探知スキルにも反応しねえ」

 俺が着くまで少しでも時間稼ぎをして貰いたかったが、それは望め無さそうだ。

 昨日から魔物だけでなく、鳥や動物の気配もないままだ。反対に上級より一段階上の警報級の魔物であるコカトリスが現れたのは、ワイバーンの力に引き寄せられたと考えて良いかもしれない。

 探知スキルを発動して再度反応を確認した。反応しているのは七個。

 「コカトリスと昊天の光の三人と他の冒険者ってところか・・・」

 だが、三つの反応が弱い。祈るような気持ちで彼らの元へ更に急いだ。



 漸く辿り着いた先で目にしたのは、建物でいうなら二階建て相当の体長六メートルを超えるコカトリスだ。

 上級以上の魔物は殆ど現れないようだが、良く育った個体も居たものだ――と、感心している場合じゃない。その個体と戦っている冒険者を確認すると、やはり昊天の光の三人のようだ。

 遠距離からクリスが魔法でダメージを与えつつ、前衛の剣士のゲイルが隙を狙って攻撃を与えるセオリー通りの戦い方だ。しかし、火力の弱さがコカトリスへの大きなダメージに繋がらないのが惜しい。レナも絶妙なタイミングで支援魔法を唱えているが、そろそろ全員の限界が近そうだ。

 「無事みたいだな」

 手ぶらでひょっこり現れた俺に三人は驚いた表情を見せた。

 「ルークさん!何故あなたがここへ来たのですか!?」

 「そりゃ助けに来たからな」

 「助けに来たって武器も持たずにか!?」

 「ルークは恩人だけど、昨日みたいな偶然は何度も起こらないわ!」

 俺の実力を知らない三人からすれば当然の反応だろう。だが、彼らがこのまま戦っていてもジリ貧なのは明白だ。

 「まあ、ここは俺が何とかするから三人は倒れてる人を連れて離れてくれないか?できれば遠くに」

 「馬鹿言ってんじゃねーよ!死ぬ気か!?」

 「大丈夫、死んだりしねーから―――っと」

 悠長に話す時間なんてくれるはずもなく、目に見えない速さで無数の羽が飛んできた。

 それらが届く前に魔王固有スキルの影を使って障壁を展開し全て弾き返すと、すぐさま次の攻撃に備え俺は愛剣を召喚した。久しぶりに握ったが、自分の一部のように良く馴染む。

 「守りながら戦うのは苦手なんだよ。俺の攻撃が皆を巻き込む可能性もあるから離れて欲しいんだ」

 「・・・分かりました」

 剣士の職業に障壁を展開するようなスキルは無い。そして俺の愛剣は手にした瞬間、所持した者の魔力を吸い取る魔剣だ。それらを感じ取ったクリスは再び止めようとすることは無かった。ゲイルとレナは何か言いたそうではあったが、クリスに促されて倒れている冒険者達の救助に向かった。

 「お前の相手は俺だ!」

 コカトリスが彼等を見逃すはずも無く攻撃を仕掛けようとしたが、間に入って剣を振りおろし中断させた。十分な安全が確保できるまでこちらは全力を出せないが、相手はお構いなしだ。

 「見逃してやるつもりだったが、少しおいたが過ぎたな」

 俺の視線から何かを感じ取ったコカトリスは仰け反ったが、恐怖を払うように奇声ともいえる大声を上げた。周辺に振動が伝わり、救助者を支え退避しようとしていたレナの身が竦む姿が見える。すぐさまゲイルから叱咤され動き出した彼女を見て胸を撫で下ろした。

 コカトリスの方は俺に向かって突進してきたかと思うと、巨体に見合わない跳躍力で跳び上がり鋭い脚の爪を立てながら一直線に踏み潰す勢いで急降下してきた。再度障壁を展開しこれを防ぐと、弾かれたコカトリスは大きく後方へ着地した。

 「チッ・・・」

 大量の空気を吸う動きを見せたこれは、毒のブレスを吐く予備動作だ。あの巨体で吐かれたらかなり広範囲が汚染されてしまうが、まだクリス達の退避が完了していない。救助の為に散らばった昊天の光のメンバーを毒のブレスから守るには、魔王の固有スキルであるダークマターを使えば簡単に呑み込めるだろう。しかし、この力を使えば誤魔化しは利かない。ならば、中範囲の剣技であれば霧散することも可能だろう。

 ―――巻き込んでしまうリスクが高いが・・・

 剣を握る手に力を込めた。

 全力まではいかないが、力を解放しようとしたまさにその時、良く知る声と魔力を感じた。

 「全く、見ていられませんね」

 コカトリスから毒のブレスが吐かれたが、それと同時に俺達の周りを淡い光が包み込んだ。

 周辺の空気に異常はない。恐らくこれは、彼が独自に編み出したものの一つで、自分の周りから広範囲を守る結界が張られたのだろう。物理的なものは防げないが、手に掴めない微粒子や風圧といったものを遮断する効果がある。

 だが、これだけではまだ安心はできない。何が起きたのか戸惑った様子の昊天の光のメンバー達がまだ残ったままだ。

 毒のブレスを無効化にされたコカトリスがこちらへ突進してくる。勢いを止める為に斬りかかったが、こちらは囮だったと気づいた。尻尾の蛇が弧を描くように背後から迫ってくるが、体勢を立て直すには間に合わない。衝撃に備えたが、それが届くことは無かった。

 「面白そうだからついて来ちゃいました!」

 まだ幼さが残る声に反して、両手に握った双剣がコカトリスの尻尾を切り落とした。

 流石は剣聖を父親に持つだけあって見事な剣捌きだ。とはいえ、コカトリスを倒しきるダメージは与えられていない。なんなら激昂した声を上げこちらを睨んでいる。

 「貴方は優し過ぎるのですよ」

 「主、ここは俺に殺らせてください!」

 「お前ら・・・」

 魔物と対峙中の緊迫した場面なんだろうが、アスレイは静かに怒っているし、アーディンは完全に楽しんでいるのがひしひしと伝わってくる。とりあえず、接近戦が得意なアーディンにコカトリスの相手を頼むと、目を輝かせながら任せてくださいと了承の声と共に、とびっきりの笑顔もついてきた。

 意気揚々と一直線にコカトリスへ向かっていったかと思うと、突然姿が消えた。コカトリス自身も対象として捉えていたものが目の前から消えたことに混乱しているようだ。

 アーディンは俺達が魔王城で暮らし始めてからジェイドとファリシアの間に生まれた子供だ。魔族特有なのか、見た目は成人を迎えたばかりの少年の姿だが、実年齢は二十歳を超えている。幼少期から申し分のない環境の中で剣術の稽古を始めて育ってきた。十五歳で職業を授かってからは更に実力が伸び、魔王城の住人の中でも飛びぬけて敏捷性が高く身体能力を生かした戦闘が得意だ。

 「主に手を出したことを後悔させてやるよ」

 いつの間にかコカトリスの背後に移動していたアーディンが両手の剣を使って何度も切り刻んでいく。辺りには、コカトリスの羽毛と一緒に血飛沫が散乱する。けたたましい悲鳴を上げ、最後の力を振り絞るように羽を広げ半回転したが、そこにアーディンの姿はない。

 「遅すぎ」

 手にした双剣は魔力を纏い、実際の刀身の倍以上の長さとなっている。硬直したコカトリスの後方頭上から首元を目掛け、落下速度に合わせて双剣を振り下ろした。

 静かに着地したアーディンの後ろにゴトリと首が落ちると、続けざまに胴体部分が大きな音を立て倒れた。

 「お疲れ、アーディン」

 労いの言葉をかけたが、本人は不服そうな顔をしている。どうかしたのかと覗き込むと、一層不機嫌そうな表情に変わった。

 「両親や皆さんとの模擬戦に比べたら肩慣らしにもなりませんでした」

 どうやら物足りなかったらしい。

 魔王城周辺は災害級や天災級ともいわれている魔物ばかりだ。それに比べると階級の低い警報級の魔物では物足りなさを感じて当然だろう。

 「――あ」

 ここで俺は本来の目的を思い出した。クリス達に退避するよう求めていたが、アスレイとアーディンのお陰で完全に安心してしまっていた。

 「悪い!皆、大丈夫か?」

 昊天の光のメンバー達は見たことのない戦闘に退避することを忘れ、その場で固まっていた。そんな彼らに声を掛けたが、俺の方が多分大丈夫じゃ無いことに気づいた。

 ―――うん。完全に引いてるな。

 俺達を見る目がまるで別の生き物を見ているようだ。間違ってはいないけど。

 「え・・・と、助けてくれてありがとう。俺はゲイル、冒険者をしている。二人はルークの仲間なのか・・・?」

 二人が突然現れた上、自分達は殆ど歯が立たなかったコカトリスを相手に圧勝してしまったのだ。混乱と動揺を隠せていないが、昊天の光のリーダーであるゲイルが感謝の言葉を述べた。

 「別にアンタらを助けた訳じゃない。主に手を出したから殺しただけだ」

 「・・・特に名乗るほどの者ではありません」

 アーディンだけでは無くアスレイまで拒絶するような態度を取るのは珍しい。

 「悪い、コイツら悪い奴じゃないんだ。ただ、人族に対してあまり良い感情を持っていないだけで・・・許して欲しい」

 「え?その言い方ってなんだか・・・」

 レナの懐疑的な声色に自らの失言に気づいて誤魔化そうとしたが、一歩遅かった。

 「魔族だとなんか問題あんの?」

 ―――いや、まあ俺が悪いんだけどね。

 人族に対してとか言ってしまった訳だから俺にも非がある。けど悲しいかな。折角隠してきたのにあっさりゲロっちゃったよ。隣で溜息を吐いているアスレイの様子からすると、アーディンに余計なことは喋るなと釘を刺していたんだろうな。

 「私達は帰ります。ルークもあまり首を突っ込まないようにして下さいね」

 更に傷口を開きかねないと悟ったのか、アスレイがアーディンを連れて帰ろうとしたが、時は既に遅かった。



 昊天の光のメンバーがギルドにコカトリスの討伐が完了したことを報告へ行った後、俺達が新しく借りた宿の一室に集まることになった。ギルドへは通りすがりの凄腕ハンターに助けられたと伝え、それ以上追及されることが無いようクリスが上手く話をつけてくれたそうだ。

 ―――クリス様様だな・・・

 現在、昊天の光の三人とアスレイ、アーディンそして俺の六人が部屋に備え付けられたソファーに座って対面しているのだが、物凄く微妙な空気のままだ。ゲイルとレナは疑心暗鬼になっているのが丸わかりだし、アーディンはアスレイからかなり怒られたようで不貞腐れている。

 ―――唯一落ち着いて見えるのはクリスだけか。

 そもそも二人がここへ来たのは、心配性なアスレイを見かねたオルデウスが尾行することを勧めたそうだが、そこにアーディンが名乗りを上げたらしい。当然反対したようだが、息子溺愛のファリシアが加わり押し切られるような形になったのだとか。

 アーディンがいれば何かと手間は省けるが、それはあくまで問題行動さえなければの話だ。

 因みにここまでは、追跡魔法で俺の魔力を追って来たようだが、あれは精々数キロメートルくらいまでの範囲でしか使えないはずだ。しかも、強力な魔法を使った後でもなければ、魔力の残滓は直ぐに消えてしまう。

 ―――これ、世界のどこに隠れていようと発見されるやつだ・・・

 海を越え、広大な大陸を越え、更に海を越えた先に居た俺の魔力を辿って来たアスレイに、ただならぬ恐怖を覚えた。

 コカトリスを倒した後、アスレイがアーディンを連れて早々に魔王城へ帰ろうとしたのは、折角伏せた名前の露呈を防ぐ為だった。だが、駄々を捏ねたアーディンが彼の名前を口走ったことで思惑は早々に崩れてしまったというのが半刻ほど前の話だ。

 つまり、そのことで恐らく彼等は疑念を持ってしまっただろう。俺達の正体そのものに。

 「この部屋に遮断魔法をかけていますが、これから話す内容が外部に漏れることを防ぐ意味だけですので警戒しなくても大丈夫ですよ」

 物腰が柔らかく、接する相手に緊張を与えたりしないアスレイにここまで言わせるのは稀だ。

 ―――きっと俺は例外だろうが・・・

 「皆さんはルークと面識が出来ていましたから、私の名前を出すと複雑になると思い伏せておくつもりでいたのですが・・・知られてしまった以上、下手に隠すよりも私達の現状を知っておいて貰った方がお互いに安心できるのではと考えました。ですが、今から話す内容は余計な混乱を招く原因になりますので、口外しないようご協力頂きたいのです」

 世間では俺達が魔王を倒したことは浸透しているが、その他に関しての情報は一切ない。それは今からアスレイが話す内容の中に入っていることで、アーディンが人族を嫌う原因でもある。

 「皆を騙すとかそんなつもりじゃなかったんだけどさ・・・俺からも頼む」

 「勿論、ルークさんが僕達を騙していたとは思っていません。そんなことをするメリットが全くありませんからね」

 「だよな。この町くらい簡単に消してしまえそうな力があんのに、Bクラスの冒険者を騙したところで何の旨味も無いことくらいは理解してるつもりだぜ」

 当然、町を消すつもりなんて無いのだが、その辺は信用して貰えているようだ。

 「では、私達が人族側を欺いたり危害を加えるつもりは無いとご理解頂いていることを前提にお話し致します」

 初めに、既に予想している通り、三十年前に魔王を倒した勇者ルークと賢者アスレイであることを明かした。魔王との戦いが終わるまでは人族であったが、現在は滅びたグランダーナ帝国に裏切られ、俺の妹が人質となり抵抗できず命を落としたことや、魔王との戦いの中で呪いを受けていた俺が死に際に新たな魔王へ進化したことを丁寧に説明した。更に、俺が使用した闇属性の蘇生魔法によってアスレイ達も魔族として蘇ったことを付け加えた。

 とはいえ、これだけの情報量を「はい、そうですか」で済ますのは難しいだろう。案の定、昊天の光の三人は俄かには信じられないといった様子だ。

 「確かに、魔王を倒した後も生きている可能性はあるのに、勇者ルーク達のことって知られてなかったものね・・・」

 「魔王が倒された直後にグランダーナ帝国が滅びたことは歴史上でも有名ですが、その原因はまだ解明されていなかったはずです」

 「ステータスも見せてもらったし疑いようがねーよ・・・」

 信用を得るためにも偽造していないステータスを開示したが、ゲイル達には危険度MAXのどす黒い赤文字で見えたようで、怖がらせてしまった。あくまで能力値の差によるものなのだと分かって貰いたい。

 「驚かせたのと怖がらせてしまって悪い・・・」

 「謝らなくて良いよ・・・!そりゃあ驚きはしたけど、それ以上にアスレイさんがしてくれたお話の方がショックだった。命懸けで世界を救ったのに、誰にも感謝されることなく裏切られたっていうのがやるせなさすぎるわ・・・」

 「アーディンだっけ?俺たち人族を毛嫌いするのも当然だな」

 「ルークさんは誰よりも人族を恨んで良いはずなのに、僕達は二度も助けて貰いました」

 俺が魔王だと知っても変わらずにいて貰えたことに安堵した。アスレイが予め俺達が危害を与えるつもりは無いことを伝えていたのが大きかったのかもしれない。怯えられたら間違いなく凹んでたし、この場も解散するしか無かっただろう。

 「恨むことに順序をつけるつもりはねーよ。まあ、裏切られた過去は忘れられねーし、許せるものじゃない。けど、人族が全員裏切ったわけじゃない」

 「そこを昇華させるのは難しいことだと思います。そんなルークさんだから慕われているのが良く分かります」

 確かに嫌われては無いと思っているが、慕われているように見られるのは少し気恥ずかしい。照れくささを誤魔化すように、俺は歴史を調べ始めた経緯について早口で説明を始めた。

 「俺が歴史を調べているのは繰り返される連鎖を止めたいからなんだ。勇者は成人の儀から選ばれるけど、魔王は何処から生まれるのか・・・。俺のように呪いを受けた勇者が代々魔王として生まれ変わるのかハッキリしなかった。文献には勇者の名前はあっても魔王の名前はどこにも記載がないからな」

 連鎖を手っ取り早く断つには、次の勇者が生まれる前に魔王の俺が死ぬという選択肢もあるだろう。だが、人族だったアスレイ達を魔族として蘇らせた俺がそれを選択するのは、彼等に対して責任を放棄するということだ。それに、彼等のことを抜きにしたとしても、それが本当に正しい選択であるかも分からない。

 「歴代の勇者達が魔王との戦いを終えてからの後世を記した物もありません。娯楽の小説など、私達に関するものも既に出回っていますが、そちらは全て空想上でしかないでしょう」

 王立図書館の副館長さんがお気に入りだと言っていた男色本も既に読んでいたということか・・・アスレイの内なる心の反応が怖すぎる。

 「確かに、勇者と次の魔王の名前が一致すれば、勇者は魔王へ生まれ変わるという構図が世間に知れ渡っていてもおかしくはないですね」

 「でもまだ仮説でしかないんでしょ?それに私達が知る魔王は世界を滅ぼそうとする存在だけど、ルークは違うんだよね?」

 「・・・そう思いたいけど、正直、自信を無くした・・・かな」

 歯切れの悪い俺の答えに、昊天の光の三人だけでなく、隣に座っているアスレイが反応したことには誰も気づいていないようだ。仮説が正しいかもしれないということを彼にはまだ伝えていない。

 「先ほどルークさんの説明で勇者が代々魔王として生まれ変わるのかハッキリしなかったと言われていました。これは仮説が解消されたと―――まさか・・・!昨日ルークさんの様子が途中でおかしかったのは・・・」

 「俺の前の勇者が先代の魔王で間違いないと思う」

 文献に載ることが無い魔王の名前を知っているのは、実際に戦った者達だけだ。

 俺は魔王となったが自我を持っているし、勇者でもある。しかし、勇者は魔王へ生まれ変わるという連鎖が分かった以上、次の勇者がいずれ現れるだろう。そして、この連鎖を止められない限り俺も歴代の魔王のように自我を失ってしまう可能性がほぼ確定したようなものだ。

 「そんな・・・」

 「だから、このことは絶対に口外しないで貰いたい。世間に出回れば次の勇者に危害が及ぶ。勇者の職業を授かったとしても、最初は何の力もない人間なんだ」

 静かに聞いていたアスレイがここで口を開いた。

 「歴代の勇者達が魔王の名前を公表しなかったのは意図的か、または出来ない理由があったかでは状況が全く違ってきそうですね」

 初代勇者以外、恐らく魔王が先代の勇者と同じ名前であることは気づいていたはずだ。寧ろ、気づかなかったという方が難しい気がするが・・・

 「僕はルークさん以前の勇者は、魔王討伐後も暫くは普通に暮らしていたのではないかと思います」

 勇者から魔王へ進化する呪いの発動条件が死であるならば、討伐直後に国が消える程の大きな事象は過去に起きていない。歴史から見ても国家間の紛争や内戦などはあるが、歴史が大きく動くのは決まって魔王が復活した時だとクリスは答えた。

 クリスの仮説でいくと、自分が魔王になるとは思っていなかった。また、倒した魔王の名前と先代の勇者の名前は偶然の一致との認識しか持っていなかった可能性も出てきそうだ。

 しかし、それは公表しない理由にはならないだろう。

 「確かにクリスさんの言う通り、その可能性は高そうですね。魔王との戦いの後、彼らがどう過ごしたのか・・・ここをやはり抑えたいですね。勇者ヴァルドルフや仲間の当時を知る人物だけでもいれば良いですが・・・」

 「それなら、王都に行けば家族とかいるんじゃないか?」

 勇者ヴァルドルフが魔王討伐後は王都に移り住んだことは、リーディアの町の人ならば知っていてる話だ。

 「バカ!配慮なさ過ぎ!」

 レナから叱責されてゲイルもハッとしたようだ。勿論、彼も悪気があって言ったことじゃ無いのは分かっている。

 俺達が倒した魔王の元は勇者ヴァルドルフだ。後世は普通に暮らしていたのなら家族が居てもおかしくはないだろう。

 魔王となってしまった彼に心が残っていたのかは、もう確認の仕様が無いことではあるが・・・。

 リーディアの町にも親交があった者との繋がりが残っている可能性はあるが、この町で生まれ育ったゲイルとレナにも心当たりは無いそうだ。全員が顔見知りの小さな村と違って、多くの人が暮らすこの町では人脈が広くない限り辿りつける確率は低いだろう。

 「それについてなんだけどさ、王立図書館で歴史に関する文献を探してる途中、勇者ヴァルドルフと一緒に戦った魔導師ゼーレの著書を見つけたんだ。魔導解析の著書ではあったけど歴史書の中に紛れててさ――」

 クリスが首を傾げる姿が目に入った。

 図書館内はジャンルごとにきっちりと区分されているので、それを良く知るクリスには不思議に感じたのだろう。

 「念の為確認したら二十年前に発行されたものだった」

 「待て待て。例え本人が書いたものだったとしても、流石に今も生存してるとは思えねーし、それって手がかりになんのか?」

 ゲイルが心配するのは当然だ。魔族になったからといって、人族の平均寿命を忘れているわけではない。もし魔導師ゼーレが生きているならば、百歳は超えているだろう。人族の平均寿命が七十歳といわれる中、八十歳の頃に著書を発行したことになる。これだけでも偉大なことだ。

 「そこでクリスに頼みたいことがあるんだ」

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ