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勇者の後見の意味

茶が冷めるくらいには長い話を、エルクは気まずげに締め括った。


「これがカドラスならば何の問題も無かったのでしょうが。

ヴェンリルは特に、戦において他の干渉を嫌う家なので……」


――そんな話を聞かされてどうしろというのだと、成り行きを聞いたシノレは頭を抱えた。


半月ほど前から始まった聖都の動揺については、シノレも気がついていた。

それとともにセヴレイルやその関係者からの、聖者への招待や贈り物も一層増えた。

リゼルドの方は何も言ってこないのも、こうなっては不気味の極みであった。

そこにこの三年前の事情説明である。


(……まあ、うん……うん、最悪だな)


動機自体は、分からなくはない。

命懸けで戦っているところに、安全圏から訳の分からない横槍を入れられれば、それは不快にもなるだろう。

起こした行動も、楽団の基準ではまあ妥当の範囲内ではある。


だが教徒としては不味い。

経験の浅いシノレでも分かるのに、(一応)生まれながらの教徒に分からないはずがないだろうに。

ましてそんなものに自分が巻き込まれつつあると考えると、ぞっと背筋が冷えた。


ウルレアが顔を曇らせ、頬に手を当てる。


「ヴェンリルもセヴレイルもそれぞれ、楽団との戦、他勢力との外交において大きな裁量が認められているのよね。

それが対立してしまった形だわ。

でもこの件については、ほぼレイグ様の後出しのような形だったから……

他の使徒家としても、どちらかというと支持はできかねるという方が多かったように思うわ。

ただ、リゼルド君を擁護するには使節団の件があまりにも……

ということで、必然どちらにもつかず、中立を決め込む方が殆どで……

これを収拾できるのは猊下しかいないのだけれど、これに関して何も仰らず、どちらのこともお咎めにならなかったので、依然対立が続いたままなの」


同じ教団を守護する使徒家同士で、いつまでも睨み合っているわけにもいかない。


だが絶対に相手に譲歩したり頭を下げたりしたくない。

仲裁すべき教主は沈黙を保っており、そこにシノレの後見問題の浮上だ。


「その確執をこの際、勇者殿の後見という形で決着させようと……

そういうことなのかと思います。

勇者殿の判断は聖者様のご判断、ひいては神のご意思、という結論に持ち込めなくもないですし」


冗談ではない。

何故そんな争いに巻き込まれなければならないのだ。

そんな心境を知ってか知らずか、エルクはとても同情的な目を向けてきた。

聖者もまた、どことなく遠い目をしていた。

「……どうしたものでしょうね」

「……聖者様はどっちが良いの?」

「私はそうしたことに関与するつもりはありません」

「そう言ったって、僕がどちらか選べばそっちも道連れだよ?

取り込まれるでしょ、どう考えても」

「…………」


あんまりな事情を聞かされて取り繕う余裕もなく、敬語も今や完全に剥げ落ちていた。

もう色々面倒くさいし、咎められないのでもうこのままいくことにする。

その切り返しに聖者は黙り込み、困ったように視線を泳がせた。

あまり考えたくない、そんな感情が見て取れる。

シノレも全く同じ気持ちである。


「……貴方が付きたいのはどちらなのですか」

「正直に言うね、どっちも超嫌」

「…………無理もありませんが……。

このまま、状況が変わらぬのであれば、私は。レイグ様を選ばざるを得ません。

……貴方を戦場に連れて行かれるわけにはいかないのです」


聖者のそんな静かな声が、やけに暗く響いた。

頭越しに交わされるやり取りを聞いていたエルクが、「あの」と、恐縮した様子で口を挟む。


「……僕如きが口を挟めたことではないのですが。

慎重に、お考えになった方が宜しいかと。

こう言っては何ですが……権力闘争で最も力のない者が板挟みにされ、悲劇が起きた例は枚挙に暇がありませんので」


エルクのそんな言葉が、嫌に耳に残った。


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