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もう一つの茶会

同日同刻、エルクの館からやや離れた場所でももう一つの茶会が催されていた。


茶菓をつまみ品良く談笑しているのは、聖都に住まう教徒の中でも特に気位の高い所謂貴族たちである。

取り分けセヴレイルの傘下が多かった。


そのテーブルに並ぶ茶菓は教団の中枢たるシルバエルでも早々見られない高級品ばかりであった。

果物をふんだんに使ったものや瀟洒な飴菓子、酒に浸した焼き菓子、動物の乳を使ったババディアなどが、所狭しと並べられ、辺りの光を受けて輝くようだ。

どれもが純度の高い砂糖を惜しげもなく用いたものだ。

セヴレイルとベルンフォードは使徒家の中でも、身内に対して気前が良いことで知られている。


奥に端座するのは今では御隠居と呼ばれている、セヴレイル家の先代当主だ。

彼を主催に開かれたこの茶会の目的は一つである。

今回のヴェンリルへの対処について、互いの意思を確認し、今後の合意を取り付けるためだった。


「良く集まってくれた。

ヴェンリルの小倅の件は業腹なれど、皆の心がこうして一つになったこと、嬉しく思う。

――今日は存分に楽しんで欲しい」


前当主の言葉に、取り巻く周囲が合いの手を入れる。


「全くその通りでございます、ご隠居様」

「身の程を思い知れば、多少は身を慎むことでしょう」

「卑しい傭兵風情が己の分限も弁えず、当主様のお言葉に逆らうなど……とんでもないことです」


そうした声は、父の傍に控えるレイグの元へも向かってくる。

それに儀礼的に笑い返し、当たり障りなく言葉を返した。


「ええ、あってはならぬことです。

ですが、楽団由来の者たちにそうした道理が通じないのも無理はないこと。

それを失念していたことは私の落ち度でしょう」

「まあ当主様、何と言う寛大な……」

「あのような者にまで、かように慈悲深いとは。我らの誇りです」


向けられる目には、言葉通りの称賛を浮かべたものもあれば、揶揄を含んだものもある。

レイグは微笑の下からそれらを観察し、話を切り回していく。

と言っても、茶会の主旨が主旨だ。

リゼルドと三年前の騒動が話題の中心となるのは必然であった。


事の起こりは三年前のことであった。


リゼルドが率いる師団が、楽団の都市ロンドを落とそうとしていた時のことだった。

これが中々難航しており、周辺の砦を落とすに当たって相当数の犠牲を払った。

そしていよいよ都市に手をかけようというところで、聖都からの待ったがかかったのだ。


その時に停戦命令を出したのがレイグであった。

諸々の交渉の末、教団への服従を条件に降伏を認め穏便に済ませる、そういう合意がなされたのだ。

そうした理由は色々とあるが、レイグの、セヴレイルの最大の悲願は、ある都市を手に入れる――否、奪い返すことだった。

そのためにロンドが灰燼に帰すことは不都合だった。


しかしヴェンリルは聞かなかった。

穏便に済ませるにはあまりに犠牲を払いすぎたのだ。

リゼルドはこれに、自ら動いて対処した。

即ち、自身で馬を駆り、強行軍で戦場から先回りし、交渉のために教団領に向かっていたロンドの使節団を待ち伏せた。

麾下の者たちと追い回し、駆り立てて自陣に引きずり込んだ後は阿鼻叫喚の幕開けだ。

攻勢の片手間に拷問の限りを尽くして死なせるという酸鼻を極める懇親会を開催した。

挙げ句抗議に来た使者に血の滴る生首を投げつけ、とても再現することができないような言葉で罵倒したと言う。

使者は這々の体で逃げ帰った。

程なくして落ちたロンドがどうなったかは語るまでもない。

講和は当然白紙、どころか互いの溝が深まり、以来両家の対立も続いているのだった。

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