リゼルドの思惑
諸々承知してから、リゼルドはさてどうするかと考えていた。
これで被害を被るのはリゼルド自身ではなくその配下や分家筋たちだが、放置しておけるものでもない。
特に母が怒り狂って面倒くさい。
「……ベルンフォードとしては、御親戚を宥めてはやらないの?」
元々騎士団の貴族同士、使徒家になる以前からの縁戚だ。
セヴレイルは初代使徒からして他を見下しており、ワーレンとベルンフォードの言葉しか聞き入れなかったという。
子孫も似たようなものだ。
「無論諌めるとも。
徒に教団の足並みを乱すなど、明らかに教徒の規範たる者の振る舞いではない。
だが、同時に。下手にお前に肩入れすれば後々どういう影響が出るか、それが分からぬ以上深入りはできないのだ。
まして父上はお前のことを禄にご存じないからな」
「成程それで探りに来たわけね~」
こんな婉曲な殴り合い、リゼルドの望むところではない。
本気で殺しに来るのならともかく、こうした陰湿なのは好みではなかった。
いっそのこと武装兵を並べて押しかけてくるくらい振り切っていれば、楽しみようもあるものを。
……そうしてくるような相手なら、そもそもこうまで拗れてはいないだろうが。
かといって。ここで勝手に一抜けなどしようものなら、絶対に怒る。
主君の顔を思い出し、やや思案する。
「……ただ、まあ。考えようによっては好機となり得るかも知れないね?」
向かいの相手に気取られぬよう、口の中で呟く。
閃いたその思いつきにリゼルドは笑みを深め、爪先で軽く床を叩いた。
どうせいつまでも続くものでもなし、これも暇潰しと割り切ることにしよう。
元より聖都における勢力争いで、セヴレイルに勝てるなどとは思っていない。
端から向こうの縄張りなのだ。
リゼルドの狙いはそこではない。
彼の関心は、専らこれを織り込んでいるだろう教主の思惑についてであった。




