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ヴェンリルへの隔意

「大分難渋しているようだな、リゼルド」

「お陰様で~。お前たちが茶々入れてこなければ、穏便に済むのにね。

聖都って素敵な場所だね、本当に」


早いもので、叙階から半月が経っていた。

今日も今日とて訪れてきたウィリスと向かい合い、気のない声で答える。

全く、これだから聖都は面倒なのだとリゼルドは思う。

奥の館にいる時は良いのだが、市街に降りる時は必ずこいつがついてくる。

自分の行動の制限やら揉め事の処理やらご苦労なことだ。


「で、どうしてくれんの?

今回のセヴレイルの暴挙は当然知っているよね」


言葉だけは詰問の体ながらも、リゼルドは至って気怠げにそう問いかけた。


ここ最近、どうも下の様子がおかしい。

追求すれば何のことはない。

ここ最近の祝賀の賑い、それに対して何も招待が来ないと言う。

要するに嫌厭されているのである。

その煽りを受けて、ヴェンリル傘下の家の者たち――特に商家も難渋しているそうだ。

その糸を引いているのは聖都に蜘蛛の巣のように広がる、セヴレイル傘下の者たちだ。

聖都は端から端まで向こうの縄張りであり、仕掛けを打つのは容易い。


たかが疎外と捨て置くべきではない。

教徒同士の支え合い、助け合いを旨とする教団、特にその中枢たる聖都では孤立は命取りなのだ。

市街の末端まで交流や利害関係が密接に絡み合っており、そこから弾き出された時点で居場所を失うことになる。


「上の確執は下に波及するし、折角の祝賀ムードも何だか微妙だし、貴族って余っ程暇なんだね〜。

まあ僕は良いんだけれど、どうせ聖都にいつまでもいるわけじゃないし」


教徒にとって聖都に住まうことは決して容易いことではなく、殆ど権利を奪い合うような状態になっており、必然派閥同士の争いにも関わってくる。

こうしたことが続けば、聖都を追われる傘下の者も出てくるだろう。

ヴェンリルの聖都における影響力と勢力圏を狭め、当主である自分を追い出した後は盛大に祝賀を行う。

それによって両家の上下を決定づける。

大方そんなところだろう。


リゼルドの言にウィリスは、頭痛でも感じたように渋い顔をする。

そこまで分かっておいてどうしてこいつは、と顔に書いてある。


「……悪いことは言わん。

レイグの元へ謝りに行こう?

私も一緒に謝ってやるから」

「え、何でお前が謝るの?無関係でしょ」

「それはそうだが、お前たち二人に任せられん。

三年前のこともあるし、どんな弾薬が投げ込まれるやら。

……それに一応言っておくが、レイグ自身が今回のことを指示したわけではない。

危惧を表明しただけだ」

「それを命令したって言うんじゃないかな~」


お決まりの貴族的文法に失笑する。

主人に家畜のように従順、右と言われれば右を向く。

貴族の配下とはそういうものだ。

その結果何が起きようとも「周りが気を利かせた」のであって、本人は手を汚す必要すらない。


「僕はともかく配下は関係ないだろうに。

僕一人を締め上げるために、僕が会ったこともない末端の奴らを巻き込むとはね。

お前たちは何かというと物事を多極化させたがる。

火の粉を被る下っ端は良い迷惑だよねえ」

「……そうだな、無論我らが悪い。

だがそれを前提としても、元々お前の叙階そのものが、それなりに反発を受け不安を呼んでいたのだ。

それに加えてあのような啖呵まで切れば、どうなるかは想像がついたのではないか?」


最近の聖都の有り様に眉を顰める者もいるが、誰も積極的に庇ったり仲裁しようとはしない。

それはリゼルド自身へ向けられた恐れもあるが、第一に教徒のヴェンリルに対する根強い隔意――はっきり言ってしまえば差別意識の齎すものだった。


ヴェンリルは使徒八家の中で唯一、明確に楽団を起源とする。

どこよりも楽団に近く、有事の際はその相手をする。

そのことから荒事や汚れ仕事を請け負うことが多く、結果忌み嫌われるということも多い。


対してセヴレイルは大陸でも有数の歴史を持つ家門、正真正銘のお貴族様だ。

まして聖都の住人にはあちらの方が遥かに身近な崇拝対象だ。

使徒家と言えばワーレンと貴族派三家という考えが刷り込まれている。


だから、ヴェンリルがセヴレイルに殴られていても誰も助けようとしないのである。

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