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セヴレイル家の当主

 いつの間に近くに来ていたのか、目を向けた先にセヴレイル家当主の優雅だが権高な姿があった。

レイグの尊大な声に、ルファルは特に不快さも見せず当然のように譲る。


(使徒家は一応、ワーレン以外はどこも対等って建前のはずだけど。

この空気感から見るに、やはり未だに騎士と貴族の感覚が染み付いているってことなのかな……)


聖者に従ってレイグの方を向きながら、シノレはそんなことを考える。


「……ご機嫌よう。レイグ様、先日以来ですね。既に紹介は終えておりますが、改めてもう一度ご紹介したいと思います。

彼がシノレ、私が……勇者と見出した者です」


聖者の目に促されてシノレも礼と挨拶を述べる。

そうしながらも、冷ややかな悪寒を覚える。

相対するレイグの目には、明らかに先日とは違った色が浮かんでいた。


「……ええ、知っております。

リゼルド殿は相変わらずですね。

多少は丸くなったかなどと、儚い望みを抱いておりましたが。

シノレ、君には困ったことでしたね。

聖者様もさぞお心細いでしょう。

ですが、私がお味方致しますからご心配は無用です」


そう告げるレイグは如何にも優しい、こちらを安心させるような笑みを浮かべていた。


「元より我が家の傘下の者が、シノレの後見として名乗りを上げておりまして。

私もそれを支援したいと思っていましたが、こうなっては私自身が名乗り出るより他無いようです。

どうか選択肢の一つとしてお考え下さいますよう」


笑っている。笑ってはいるが、その笑顔から何やら獲物を狙う猛禽の気配を感じた。

その時見計らったように、取り巻いていた周囲が口を挟んできた。


「ご覧になったでしょう。

リゼルド殿は、ああいう方です。

目をつけたものはどのようにしてでも奪い取る。

当主様のご意向を台無しにしただけでは飽き足らず、聖者様にまで」

「先が思いやられます。

良くも悪くも楽団の気質でしかない。

奪った後の処遇は、考えられませんし考えたくもないですが」


堰を切ったように不平不満が噴出する。

そこにレイグが穏やかに、宥める言葉をかけた。


「まあ、まだそのように喚き立てる段階ではないでしょう。

リゼルド殿もまだお若いのですし……

ですがこれに関しては、悠長に見守るわけにもいきません。

シノレに何かがあってからでは遅い。

聖者様とて、シノレが悲惨な末路を辿ることはお望みではないでしょう」

「…………そうですね。

レイグ様にそう仰って頂けるのは、とても心強く……」


嫌な汗と脳内の警鐘が止まらない。

辛うじて表情には出さずに済んだが、刻一刻と背後に迫る災難の足音が聞こえるようだ。

何か、何だか、とてつもなく面倒なことに巻き込まれている気がする。


(やばいこれはまずい、どちらを取っても碌でもないことになる――――!!)


「聖者様も既にご確認なさったでしょう、教徒の一員としてのさばっていても所詮は血に飢えた餓狼、その中身は楽団の悪鬼どもと何ら変わりありません。

お優しい聖者様が万に一つも、その凶行に巻き込まれるようなことがあってはと。

そう思うだけで私は胸を引き裂かれる思いです」


脳内に響き渡る警鐘は大きくなる一方だ。

そうしている間にも、節々にリゼルドを貶しながらの売り込みは朗々と続く。


「とは言え、道は一つかと存じますが。

この状況から貴方がたをお救いできるのは私だけなのです。

あのような者と関わり合ったとて良いことなど何もありませんよ?」


相手の心を瞬時に解すような笑みを浮かべて、そんなことを宣う。

頼みの綱のワーレン夫妻はいつの間にか、別の相手に足止めされている。

不味い、この手の相手に言質を取られたらとんでもないことになる。

聖者もあの手この手で言を左右し、曖昧に言い逃れようと四苦八苦すること暫し、助け舟は思わぬ方向からやってきた。


「――まあ、そういつまでも聖者様と勇者殿を独占するものではない。

我々にも譲ってくれ、レイグ」


その屈託のない声に、反射的に横へ目を移した。


そこにいたのは、恰幅の良い上品な紳士と、背の高い青年だった。

共通する飴色の髪から、親子であるらしいと見て取れる。

青年の方の顔を見て、シノレは顔に出さずに驚いた。

血が近いのだろうか。その顔立ちは鏡で写したようにレイグと似通っている。

だが色合いのためか表情のためか、こちらの方が格段に柔和な印象だった。


「……尤もですね。

聖者様、私の申し出をどうかお忘れなきよう」


意外にもレイグは、それだけ言って引き下がった。


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