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カドラス家の当主

「御機嫌よう、ルファル様。

お変わりないようで何よりです」

「聖者様こそ本日もお美しい。

妹の案内は行き届いていましたかな?」

「…………はい」


少し応答が強張ったような気がして、聖者を見つめる。

それを他所に、今度はフラベルが話しかけた。


「あんなにお小さかった妹君が、立派になられましたなあ。

しかもあのお優しさに高潔さ、まさに古き良き騎士の在り方ではありませぬか」

「フラベル殿まで。

いえいえ、年頃を迎えても一向に淑女らしくならず……

じゃじゃ馬娘で困ったものです。

誰に似たのやら」


そうぼやきつつ、顔は悪感情を浮かべていない。

先程リゼルドに物申していたところからは想像もできないほど、温度のある表情だった。

そんな顔に、先程見送った後ろ姿を思い出す。

面影を探ろうとするが、どうやらあまり似ていないようだった。


「確かに我が家は、女子だろうと一通りの心得は身に付けさせますが……

中でもあれはすっかり武芸に染まってしまいまして。

あれでは嫁ぎ先でどうなることかと案じられてなりません」


一通り近況や親戚の話に花を咲かせた後、聖者はシノレを紹介する。

それを受けたルファルはシノレをまじまじと見る。

それは戸惑うような、蔑むような、何ともいえない複雑な眼差しだった。

眉を顰めたルファルは無骨な手で顎を押さえ、聖者に視線を戻す。


「……聖者様、予てより気になっていたのですが。

どうか忌憚なく仰って下さい、妹は何か、お気に触るような非礼な真似でも仕出かしたのでしょうか」

「とんでもございません。

シオン様は、私などには勿体無いほどの騎士であられました」


聖者は言下に否定する。

それは常よりも早口で、動揺していることが窺えた。


(流れからして、無理もないか……)


聖者にとっては、この挨拶回りで一番気不味い相手かもしれない。先程の女騎士は、聖者に仕えていたと口にしていた。

その妹の後釜が――自分で言うのも何だが――どこの馬の骨とも知れない奴隷もとい胡散臭さ満載の勇者では、口を挟みたくもなるだろう。

先程会ったシオン当人は全くシノレに悪感情を見せなかったが、寧ろそちらが奇特なのだ。


とは言え事情が全く分からないシノレには、無言で状況の推移を見守ることしかできない。


「何度でも繰り返しますが、シオン様には何の落ち度もございませんでした。

……これはただ、私自身の問題なのです」

「……分かりました。

これからも何かありましたら、何なりとお申し付けを。

我が家には聖者様への献身を惜しむ者はございません。

近い内、また是非屋敷にもお出で下さい。

ユミルにも会ってやって下さい。この場には連れてきていないのですが」

「御子息も、もう大きくおなりでしょうね。

喜んでお伺いします」


しかし、ルファルは深く追求せず引き下がり、聖者はほっとしたように微笑む。

約束が取り付けられ、場の空気が緩んだ一瞬を狙ったようにそれはやって来た。


「ああ聖者様、いらしていたのですか。ルファル殿。

少々聖者様と話をしたいが、宜しいですか?」

「おお、そうですな、レイグ様の仰せとあらば」


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