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教主の家系

ウルレア=ワーレンは、先代教主の妹として生まれたワーレン本家の令嬢である。

先々代教主、即ち現教主の祖父にあたる人物が設けた子の内、嫡出であり無事成人したのが先代、現教主の父、ウルレアの三人であった。

先代は果断と勇壮で知られ、一代で教団の版図と権益を大きく広げた偉大な教主だったが、一方奇矯な変わり者としても知られていた。

その最たるものが独身主義であり、誰に結婚を促されても耳を貸さなかった。

遂に五年前に殺されるまで誰とも結婚しなかったらしく、それでは嫡子どころか庶子すら生まれるわけもない。


そのためその弟妹は、確かな血筋を残すため、それぞれワーレンの分家筋から嫁と婿を取り子を設けた。

そして生まれたのが現教主であり、ベルダットとその弟妹たちである。

現教主を設けた弟夫婦の方は既にどちらも亡くなっており、エルク以外の兄弟姉妹もない。

それ故、もしも現教主が子供を残さないようなことになれば、教主の位はベルダットかその弟に、即ちウルレアの血筋に引き継がれるわけだ。


また、分家出身である教主の母は、リゼルドの母の妹にあたる。

教主から見てベルダットは父方の従兄であり、リゼルドは母方の従弟となるわけだ。

更に教主の母はベルダットから見て父方の従姉であるため、従叔父・従甥にも当たるそうだ。

同様にリゼルドとも父親同士が再従兄弟であり、父方でも血縁関係があるらしい。


(家系図ややこしすぎてこんがらがる……)


ここまで口早に聖者に耳打ちされた情報を整理する内に、頭が痛くなってきた。

シノレは親の顔も知らない貧民街出身なので、親世代や祖父母世代の繋がりなどあまりに遠く感じる。

こういう血縁やら家系図やらについてまともに考えたこともない。

まして使徒家のそれは密接に入り組み過ぎていて、傍から見ていても目が回りそうなものだった。

遡れば更に枝分かれし、嫡流・庶流、直系・傍系と入り乱れ、それぞれの立ち位置からなる複雑怪奇な序列が存在する。そしてそれこそが、この使徒家交流の場を支配する規律であった。


本家に分家、嫡子に庶子、各家が形成する派閥に属する家の者たち。

それらが行き交い、静かに火花を散らすこの場では、些細な失態もその家全体の落ち度として見咎められるのだ。

見ているこちらが胃痛になりそうだった。


聖者の後ろに控えながら、それとなく視線を走らせる。

目と耳を凝らし、なるべく口を開くな、と言うのは館を発つ前に、改めて言われたことであった。

こういう場ではとにかく、悪目立ちしないことが大切なのだそうだ。

好印象を与えるより、まず悪印象を与えないことが重要であり、第一印象をしくじればその後が格段に難しくなる。


「シノレ、そこにいて下さい。何もしなくて良いですから」


聖者はシノレから離れるつもりはないようだった。

なのでシノレも、取り敢えず今日のところは聖者に任せ、場の空気に埋もれることに徹するつもりだった。

そこにワーレンの夫妻が加わったのは、吉と出るのか凶と出るのか。

文字通りの別世界、迂闊な真似は後々まで響いてくる。シノレなりに慎重に立ち回るつもりだった。


いつ誰が誰に挨拶するかは、予め決められているらしい。

それさえ終われば、後は好きに交流なり退出なりして良いとのことだった。

こうした宴席での取り決めは比較的緩く、目に余るような醜態でもなければ大凡自由にして良いらしい。


とにかく、シノレの喫緊の課題は当主たちへの挨拶だった。

派閥によって位置がそれぞれ固まっており、ワーレンに最も近いのはザーリア―だった。



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