魔晶石
オルシーラの判断は迅速だった。衛兵たちを引き連れて現れた彼女は、強い口調で告げた。
「レイグ様。貴方には部屋にお戻り頂きます。今後の外出や接触については、私の許可を得て下さいますようお願い致します」
「……承知致しました」
衛兵に囲まれたレイグは、落ち着き払った顔で一つ頷いた。今のところ囲まれているだけだが、抵抗の気配でも見せればすぐに連行されるだろう。周囲の動きに従って、レイグはさっさと踵を返す。
「シノレ。教団の者として、聖者様に恥じぬ振る舞いをするように」
衛兵たちの間からそれだけ行って、彼は大人しく去っていった。マルセロも退室を促され、大人しく去っていく。シノレは眩暈に歪む視界で、何とかそれを見送った。それから動かされ、どこかに運ばれた。あんな通路で報告や相談をするのも不用心だし、恐らくどこかの部屋の中だろう。
ここで気絶するわけにはいかない。途切れそうになる意識を繋ぎ止め、周囲の会話に集中する。
「……大公様はいずこに?」
「お兄様にはお部屋にお戻り頂きました。報告があれば私が聞きます。……それで、一体どういうことなの、シモン」
立て続けの異常事態に、さしものオルシーラも声が張り詰めていた。
報告を促された騎士は、気がかりそうにシノレの方を見る。だが「構いません。続けなさい」というオルシーラの言葉を受け、姿勢を正した。
「……それでは、ご挨拶も早々に失礼致します。実は、北部の農村で異変が起きているのです」
彼がセネロスに齎した報せは驚くべきものだった。オルシーラはドレスの陰で拳を握り、努めて平静を保とうとした。
「北部の農村はここ数年、充分な年貢を納められておりませんでした。そのことはオルシーラ姫もご存じと思います。楽団の侵攻や不作が続き、年貢を払えず次々と首を吊る有様で、セネロスでも度々議題に上がっておりました」
「ええ、知っています。元々北部は楽団の侵攻に晒されることも多い地帯。崩壊させるわけにはいきません。最低限の暮らしは成り立つよう、救済措置が実施されたはずですが」
「その通りです。ただ……ある村が、その、年貢の代わりにと献上してきたものがありまして。それが三日前、ロスフィークに届けられたのです。穀物ではなく、先程の儀典に捧げることはできないのですが」
オルシーラは若干眉を動かしたが、冷静に応じた。
「……そのどこに問題が?儀式は儀式として、民の心尽くしを受け取らぬ理由はありません」
「ええ、その通りです。ですが、捧げられた品そのものが問題で……」
そう言って、騎士が差し出したのは粗末な麻袋だった。その中を確認したオルシーラは呼吸を引き攣らせる。
「これは…………」
ざらりと、鈍く濁った輝きが満ちている。それがとても毒々しいものに感じて、一瞬袋ごと投げ出しそうになった。
「はい、魔晶石です。常識では考えられない量、そして純度の」




