年上の友人
最後に聖都に戻ったのは三年前。
この男と会うのもそれ以来だが、年上の友人は相変わらずであるようだった。
三年ご無沙汰であったというのに、まるで絶えず付き合いを続けていたと言わんばかりの様子だ。
押しが強いとも違うのだが、とにかく遠慮がない。
相手に拒まれるなど露ほども考えない、ある意味天真爛漫なのかもしれない。
だがここに来てベルンフォードが、それも正面切ってやって来たとなれば、何らかの所為を促されていると見て間違いないだろう。
明らかに教主の差し金であり、釘を差されている。
中々に面倒な状況ではあるが、そう悪い話でもない。
この聖都で、ヴェンリルの気風が異端であることは流石にリゼルドも承知している。
この都、ひいては教団の中核は、カドラス、セヴレイル、そしてベルンフォードが――騎士団の者たちが築いたものであるからだ。
こんな常識破りの訪問が罷り通るのも、ヴェンリルが軽んじられ、それが黙認されていることの証左だった。
リゼルドとしても、けして居心地が良いわけではない。
聖都で立ち回るにあたって、この男の助力があれば有益なのは間違いがなかった。
色々と思い巡らすリゼルドを見つめ、ウィリスは微笑んだまま歌うように語りだす。
「……明日が終わればいよいよ聖都も賑わおうな。
精々気張ると良い、人生一度の晴れ舞台だぞ?いや楽しみだ。
明日は久方ぶりにオルガの音が聞けようし、噂に聞く勇者というのも、この目で見てみたかったからなあ」
「僕以上に待望してるじゃないか……
……別にそういうの、良いんだけどねえ」
本当に興味がなさそうな顔で、リゼルドは静かに呟いた。
明日の儀式そのものは、彼は本気でどうでもいい。
列席する人間に幾らか興味があるのが混じっているので、強いて言えばそれだけが楽しみだ。
だがそれ以上に会いたくもない相手がごろごろいる。
「そう言うな、これも使徒家の役割ぞ。
盛大に盛り上げねば後が続かん。
この五年は結婚しようにも憚られ、式を延ばしていた連中もいることだしなあ。
流石にそろそろ緩めねばなるまいよ」
「えーっと、お前がその筆頭じゃなかったっけ?」
「生憎と我が家はもう、楽団との件が完全に決着するまで慶事は見送ると決めている。
だから精々頼むぞリゼルド」
「え~~そんなの背負って戦いたくないんだけど~?」
リゼルドはげんなりとした表情を浮かべる。
ぶらりと足を揺らし、叩きつけた踵は上質な絨毯に吸い込まれ、ぽすりと間抜けな音を立てた。
身辺を取り巻く何もかもが、馴染んだものとかけ離れている。
勘を戻す、というほどのことでもないが。
リゼルド自身、面と向かって他の使徒家とやり取りするのは久々だった。
会話を続けながら眼の前の男からそれとなく視線を外す。
彼自身はともかく、この顔を見るといけ好かない男を思い出すので長時間見ていたくはないのだ。
三年前の出来事を思い出し、眼差しに微量の殺気が混ざる。
相手は気づいているのかいないのか、悠然とした様子を崩さない。
先日の教主の物言いからも薄々感じていたが、あの時の精算をすべき時が来たのだろう
(さて、どうしたものか……。
事によっては使徒家なんか打ち捨てるのもありだけれど、それは流石に最終手段だよね~)
大まかに道はふたつある。
ほぼ心は決まっているとは言え、情報収集を怠っては上手く収まるものも収まらないだろう。
現在の聖都の状況がどうなのか、教主の意がどこにあるのか、まずはこの男から可能な限り探り出す必要があった。




