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先代教主

(貴族ってものは使用人なんかを、壁や置物同然に無視するって本当だったんだなー……)


その黙殺は鮮やかすぎて最早怒りも湧いてこない。

レイグにとっては説得する価値があるのは聖者だけで、シノレの意向などどうでもいいというのを隠そうともしなかった。

客人がいた時はそこまででもなかったが、いざ帰られると押し寄せるような妙な疲れが伸し掛かってくる。


「……シノレ。五年前の、リゼルド様のことについては、どの程度知っていますか?」


レイグを帰し、場所を移してから、聖者はどこか疲れたような声で口火を切った。


「明日の儀式は、貴方も出席することになっています。

事情を知らず話についてこれないとなると、何かと困るでしょう?」


シノレが何か言う前に、そう言い添える。どうやら気遣われているようだった。


「そうは言っても、大体は知っていると思うけど」


五年前の慌ただしい当主継承については、シノレも人伝ながら聞き及んでいる。

その時リゼルドはまだ十になったばかりであった。

教団における成人年齢は十五、それより遥かに手前である。

そんな早い段階で何故家督を継承したかというと、先代が死んでしまいそうするより他になかったからだ。

しかも、死因は事故でも他殺でもない。


「五年前の先代教主の暗殺事件。

その責任を負って、二家の先代当主たちは自裁したんだよね」

「……ええ」


諸々の端緒となった五年前の事件、それは先代教主の死に深く関わっている。

その余波で教団は数年喪に服した状態で、大凡の祝い事は自粛する風潮にあった。

その死因は病だとか老いだとかの穏やかなものではない

。異教徒の騙し討ちによって殺されたのだ。あってはならないことだった。


五年前の、丁度今頃の季節の頃だ。

冬の初め頃、先代教主は辺境の都市に招かれて外壁の視察に向かった。

そしてその到着先で、多量の爆薬を携えた死兵の襲撃によって、付き従っていた側近諸共爆殺されたのである。

焼け残った遺品から、下手人は楽団との戦で討ち漏らした残党と判明した。


この時警備を担当していたのがヴェンリルであり、現場となった都市を管理していたのがファラードであった。

それ故に彼らはみすみす教主を死なせた罪を問われた。

そこまでは分かるのだが、その償いに自裁とは。

正直、何の意味があるのかよく分からない。

失敗したなら取り返せば良いし、無理そうなら逃げれば良い。

追われて殺されるならともかく、自ら己を裁くなどシノレには狂気の沙汰に思える。

だがそうでなければ許されない、家門を守れないとのことだ。それが教徒の作法なのだろうかとシノレは思う。


ともあれ、こうして教団の中核で、急速な世代交代がなされることになった。

独身主義の変わり者であったという先代には子がなく、甥に当たる現教主が跡を継ぐこととなった。

また当主が倒れたヴェンリル、ファラードは自動的に、その息子たちが当主の地位と後処理を継ぐこととなった。


そこまで思い出して、「あれ、でも」と思い至る。

「でももう五年も前のことでしょ?なんで今まで儀式をせずにいたわけ?」

「……仕方がないのです。

ファラード家のソリス様は簡易的とは言え儀式をなさったのですが、リゼルド様は……

……何しろ、肝心の御本人が儀式を放り出して戦場に行ってしまわれたので……」


あろうことか、ヴェンリル家の新当主は聖都での諸事を放り出し、戦場目掛けて一直線に飛び出して行ったそうだ。

こうした事情で、実質教団はこの五年間先代教主の喪に服し、仇討ちの弔い合戦に明け暮れたのである。

その間リゼルドはほぼ聖都に近寄ろうともせず、儀式を先延ばしし続け今に至る。


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