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神殿

あれから一度戻って正装に着替えたシノレは、庭を突っ切るように歩みを進める。

行き先に佇むのは東神殿だ。

空の青と庭の緑、神殿の白が目に痛いほど鮮やかだった。


「本当、あの街とは文字通り雲泥の差……」

いきなり響いた自分の声にぎょっとする。

心の中で呟いたつもりが、声に出てしまったらしい。

足を止めて周りを見渡すが人影はなかったので気にしないことにした。


目的地までは後少しだったが、ここにきて気が重くなり歩調が緩まる。

このシルバエルの中枢は、至る所に壮麗な建築が聳えている。

何処を向いても美しく整えられた芸術的な町並みは、大崩壊以前の文化と技術の結晶だ。

白を基調とし、荘厳ながらも華麗に佇む神殿は、根本的な人間の美意識に訴えるような、正に非の打ち所のない美しさを誇っていた。

その外観のみならず、計算され尽くされた内部の美しさもシノレは既に知っている。


そしてそれは教団が創り上げたものではない。

遠い昔に起きたと言われる大崩壊、そしてそれに続く暗黒時代に呑まれて滅びたレテウ王国の遺産である。


そうした経緯を思えば、エレラフ始め騎士団領の異教徒の怒りは正当だ。

彼らの神を称えるための、今や再現不可能な大いなる技術の結晶を、教団に力尽くで奪われ歪められ使用されているのだから。


だがここの連中は、そんな理屈が通用する相手ではないのだ。

彼らにとっては正当な神とそれを戴く自分たちこそが正しく、それを遍く広めることが正義なのだから。

シノレはこの半年間の日々で、嫌というほどそれを知らされていた。


正面のアーチの最も目立つ場所、打ち砕かれたそこに高々と掲げられた天秤のシンボルを見つめる。

神殿前に辿り着いたシノレは表情を引き締めて、いよいよ壮麗な神殿の離れ、その奥の間へと向かう。

扉の前の教徒に入室の許可を得て、戸口で改めて挨拶の口上を述べた。


「失礼致します。此度のエレラフの件について随行を拝命し、皆様方へのご挨拶に参りました」


その声掛けにふっと、声が途切れる気配がする。

構わず頭を下げ続ける。許可なく顔を上げることは許されない。


伝わる気配は三人分である。

考えてみれば、別にシノレが今回の指揮を取るわけではないのでこの場にいるのは場違いだ。

しかし仮にも勇者の初陣ということで便宜を図られているのだろう。有り難くもない。


「宜しい、顔を上げなされ」


悠然とした老人の声が耳を打ち、ゆっくりと顔を上げる。

そして視界に映った面子をそれとなく観察した。

この教団で過ごしていれば、使徒家の主だった面子の顔と名前くらいは嫌でも覚えるものだ。


(使徒家の中でも中枢の面子が揃い踏みだな……

 カドラスは知っていたけど、残りはワーレンとセヴレイルか)


指揮者として任命された教徒達は既に到着し、何事か語らっていた。

そこは既に椅子や飲み物が運び込まれ、歓談の場が用意されている。

腰を落ち着けているのは大人しそうな少年と、堂々たる佇まいの壮年の男、何処か底知れない雰囲気の老人だった。

当然のように全員が、天秤とともに使徒家の家紋をあしらった純白の装束を纏っている。



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