休憩
聖者によって宴の場から連れ出されたエルクは、シノレジレスと共につかの間の休憩を取ります。
「いや、別に話とかないけど。……聖者様。
連れ出す口実が尽きたからって、勝手に名前使わないでくれる?」
そして引き合わされたシノレは案の定、嫌そうな顔をした。
聖者はすまなそうに肩をすぼめた。
まあ、そうだろうなと思った。
本当にシノレが自分に用があるなら、あんな場面で聖者を通して呼び出さないだろう。
僅かな交流でも分かるほど、シノレは目立つのが嫌いなのだから。
「すみません、シノレ。聖者様は僕を気遣って下さったのです」
「……あ、いや。べつに謝ることはないけど。そちらも大変みたいだ……ですね」
近くにいたジレスの剣呑な視線を意識してか、シノレはそう途中で言い直した。
聖者はそちらにも会釈したが、ジレスははっきりと顔を顰めて、より深い角度で返礼した。
「……あれからお変わりないようで、何よりのこととと存じます。
ですが聖者様ともあろう御方が、そのように振る舞われるのは如何なものかと」
ザーリアー家の彼から見て、聖者は降って湧いた異分子であり、警戒対象だ。
教団を掻き乱されるのは御免だが、卑下されることも承服しがたい。
そういう複雑な心境が見て取れた。ザーリアーとしては、先代教主の選定に泥を塗ることは決してできないのだ。
聖者は顔を曇らせたが、謝罪の言葉は口にしなかった。
全くそれを望まれていないことは分かっているのだろう。
その場は、「……とりあえず、一度座りませんか?」とシノレが提案したことで、一旦は収拾がついたのだった。




