宴での攻防
教主の弟ということから、エルクはつながりを持ちたい令嬢たちから話しかけられます。
期待に満ちた令嬢をどのようにかわすか…。
内心、苦悩しながら対応するのでした。
「エルク様、またお目にかかれて光栄です。七年前、聖都で一度だけお目にかかったことがあるのですが、覚えておいででしょうか」
「七年前、とおっしゃいますと……
……猊下の誕生祝賀会の折でしょうか?」
「ええ、そうなのです!初めて皆様にお目にかかり、ご挨拶をさせて頂きました。
こうして、エルク様にまたお会いできるだなんて……!」
成人前にエルクが出た公式行事など、両手の指で数えられるほどしかない。
七年前という時期と、相手の家格や派閥も踏まえて推測したのだが、正解だったようだ。
目を輝かす相手を前に、「ああ、あの時の……」と時間稼ぎをしながら、どう答えたものかと考える。
「覚えています」と答えた場合、相手に変に期待を持たせることになりかねない。
かといって「覚えていません」も弱みを見せるようで好ましくない。
「それではこれから交流を結び、理解を深めましょう」という風に持っていかれる恐れがある。
そもそも、その出会いが本当にあったことかも確定的ではない。
目を輝かせる令嬢には申し訳ないが……エルクは素早く考えをまとめ、答えを出した。
「そうですね。あの日は僕にとって、たくさんの素晴らしい方々との出会いに恵まれた、思い出深い一日でした。
あれからあまりに多くのことが起こり、かつての日々は遠ざかってしまいましたが……
こうして改めてお話できることを嬉しく思います」
「まあ……むしろ私たちこそ、嬉しく思っておりますのに。
エルク様がこのシアレットにおいでくださったこと、どんなに光栄かはとても言い尽くせませんわ」
記憶の有無については明言しない。
個人的な話ではなく、場全体への話へとすり替える。
更にエルクはさり気なく視線を散らし、特定の相手との交流を避けようと一手を打つ。
「……聖都を出た先での皆様との交流は、僕にとって貴重な学びの機会です。
猊下のお役に立つためにも、少しでも多くを吸収したいと思っております」
「素晴らしいですわ、エルク様!
私どもにできることがあれば何なりと仰って下さい」
「ええ、ありがとうございます」
どうにか相手を傷つけず、上手く躱すことができたようだ。
エルクは内心で胸を撫で下ろした。成人し、聖都を出てからこうしたことばかりだった。
使徒家の嗣子であるユミルも似たような攻勢は受けていたが、彼は持ち前の明るさで受け流している。
あまりに年が低いので親族がそれとなく庇っているし、そのため売り込む側も遠慮している節がある。
だが、エルクはそうもいかなかった。
こういった攻防が今日も終わりまで続くだろうと、そう覚悟していた。




