改革派との談合
ウィリスは改革派の代表たちから状況の報告を受けます。
やはり改革は内部は一枚板ではなく、大変なことになっているようです。
結局街を半周して、館に引き返す。一息ついて着替えてから、ウィリスはこれからの談合に備えた。
時間通りにやってきた改革派の代表たちは、見るからに恐縮した顔つきだった。
「恐れ入ります。ウィリス様がわざわざ起こし下さるとは……」
「いやいや、いつもご苦労。それで、ここ最近で気になることはあったか?何でも聞かせてくれ」
改革派は目を合わせてから、順序よく報告していく。
側近たちも、感情を窺わせない静かな顔でそれを聞いていた。
形式通りの挨拶の後聞き出したところによると、やはり改革派内部は大変なことになっているようだった。
一口に改革派といっても、保守派に急進派と色々いるのだ。
一人が疲労の面持ちで、零すように事態の重さを伝えた。
「……我々の内側も、様々な意見で揺れております。中には一部独立などと、極端なことを言い立てる者まで……」
「……そうか。そういう者が活発になっていると……つまり、数が増えているということか?
改革派全体に影響を及ぼすほどに?」
「いえ、流石にそんな恐れ多いことを申す者は一握りもいません。
ですが、声を上げる勢いが徐々に強まっているようで……」
反応しそうになる側近たちをそれとなく制して、ウィリスは彼らの話に耳を傾ける。
「……土砂撤去は、まだ間に合わないのか?」
「何とか来月には終わる見通しですが……間に合うかどうか」
ワリアンドは壮絶な内戦の果てに、現在はヴィラ―ゼルとベルガルムの陣営で南北に二分割されている。
だが、そこに急激に変化が生じつつあるのだ。
最近のワリアンドの動きについては、彼らも知っていた。
途中で決裂してくれれば良かったが順調に進み、互いに戦場から軍を退き始めている。
恙無く休戦協定への流れは整えられた。
これはもう、止めることはできないだろう。
そしてその狙いは考えるまでもない。教団に侵攻するためだ。
「……やはり楽団の侵攻は避けられないか……
ワリアンドから攻め込んでくるとしたら、ベルガルムの方だろうなあ。位置的にも、成り行き的にも。
ヴィラ―ゼルへの警戒は怠れないにしろ、多分、そう遠くはないだろう」
ウィリスの言葉に一人が、「私も同意見です」と頷いた。
一人が恐る恐るという風に口を開く。まだ若い青年で、この場に萎縮しているようだった。
「恐れながら、ベウガン……いえ、ウィラントについてですが、少し気になることが……」
それにウィリスは目を合わせ、「聞かせてくれ」と応じる。
「……現在、ウィラントに詰めていらっしゃる将校のことです。
お名前はサレフ様と仰って、聖都では近衛騎士でいらしたそうです。
ウィリス様とは、面識がお有りではありませんか?」
「んー近衛か……」
記憶を探ってみる。言われてみればいたような気もする。
全く思い出せないではないが、何かこう、ふわふわしている。
「……サレフ、か。まあどこかで、名前は聞いた気はするな。
あまりはっきりしないが。それで、その者がどうかしたか。
改革派入りを望んで接近してきたのか?」
「いえ、まだそこまでは……改革派の者が幾つか話を聞かれただけだそうです。
……ただウィラントは、何かあれば最前線となる地点です。
この状況下で、そこを取りまとめるお一人がそうした行動を取ったということに、不穏を感じまして……」
「なるほどな……」
親戚に何人か、近衛隊所属の者はいる。
彼らに問い合わせれば教えてもらえるだろうが、ウィリス自身はそれほどそちらに詳しくなかった。
シオン辺りなら、詳細な人となりも知っているかもしれないが……ウィリスは首を傾げて思案した後、小さく頷いた。
「分かった。私からも調べておくから、お前たちも引き続き気をつけておいてくれ。
些細なことでも、気になることがあれば報告して欲しい」




