目的の物
遠くに戦火の気配を感じながら、シノレは街の様子をうかがいます。
その時、思いがけず目に留まったものは…
お守りに入れる鍵のチャームを探す道のりは、案の定長丁場になった。
あちこち路地に入って、雑貨店や古道具屋を色々回ったのだが、やはり件の香水瓶は見つからなかった。
「次行きましょう、シノレ!」
「……はい」
返事して、ユミルの後を追いながらも、シノレは西の空を見つめた。
あの下では多分、今にも火種が弾けようとしている。
弱者の本能と言うべきだろうか。シノレには、そういうものは何となく分かる。
周りにいる人間が、どうして気づかないのか不思議なくらいには、戦火の足音がはっきり聞こえる。
けれど――
(……改めて見返してみるとここも、ただ脳天気な街ではないな……)
前に街を巡った時には気づかなかったが……街のあちこちに、危急の時に備えた仕掛けが散りばめられている。
例えば、そこかしこに見える屋台。その殆どは折り畳みが可能な構造だ。
状況に応じてすぐさま撤去・転用が可能だろうし、台車や樽の類も、封鎖の柵としても使えるよう作られているのが分かる。
ジグザグと入り組んだ道や建物の配置といい、全体的に「守るため」の作りが徹底されている。
初代使徒を模した、あの無駄にでかい上に陰気極まりない記念碑や銅像にしたって、市内が戦場になれば立派な遮蔽物として機能することだろう。
そんなことを考えながら、シノレは周りを見て歩を進めていた。だから、気づけたのだろうか。
思いがけないところで旅路は終わることになる。
そこはどこにでもあるような、道端にある普通の露店だった。
「うーーん…………」
ユミルは悩む素振りで、数歩先を歩いている。シノレも何気なく通り過ぎようとして、(あれ?)と足を止めた。
何か違和感を覚えた。視界の端に、気にかかるものが映ったような…………シノレは立ち止まり、周囲をじっくりと観察する。
そして一点で目を見開く。振り向いて、今し方通り過ぎた露店の品に目を凝らした。
シノレは実物を知っているわけではないが、それは――
「あの……ユミル様。あれ、お探しのものではありませんか?」
「え?……ぁ、あれっ、はい……え!?」
何気なく顔を向けたユミルが、やや目を見開く。
一瞬視線を外し、そして勢いよく戻す。
次の瞬間、ユミルは、露店の真ん前に走り込んでいた。
店番の男があまりの勢いに怯んだようで、ぎょっとした顔で身を引く。
「こ、こ、これどうしてあるんですか!?!?」
いきなり詰め寄ってきた、飛び切り身なりの良い少年に、商人は「ど、どうしたんだ坊っちゃん」と慌てふためいた様子を見せる。
「このチャーム、ずっと探してたんです!!
どこに行ってもなかったのに、ここで出会えるなんて!!」
「あ、ああそうかい……これはね、さっき通りがかった女の人が置いていったんだよ。
丁度通る時に荷物を落としてしまって、拾う手伝いをしたら、お礼に商品にしてくれって」
商人の口から、商品の経緯が語られる。話し方からして本当に、つい先程のことだったようだ。
それは奇跡、偶然と呼んで良いものだった。
「それじゃあ買うのかい、坊っちゃん」
「勿論です!!」
辿り着いた終点に、ユミルは両手を上げて喜んだ。
懐に勢いよく手を突っ込み、商人の手に金貨を無造作に押し付けた。
ついていけず目を白黒させる商人にも構わず、やったやったと飛び上がって、シノレに笑顔を向ける。
「素晴らしい巡り合わせもあるものですね!幸運でした!」
「……良かったですね」
何だか、話が上手すぎる気もしたが……………シノレは深く考えないことにした。




