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リヴィアの香水瓶

 リヴィアは町の工房で交渉するユミルの様子を伺い、

ユミルが探している物を自分が持っていることに気づきます。それは…

午後になってからも数時間かけて街を回り、何とか引き受けてくれる工房を見つけることができた。

中央からはやや外れた地点の、あまり人気のない工房で、出てきた職人も落ち着いた礼節ある雰囲気だった。

そこまでは良かったのだが、それで万事解決とはならなかった。


「研磨機や機材の調達が他のところより遅れてしまって……それほど立て込んでいませんから、構いませんよ。ただ……」


しかし、それで一件落着とはいかなかった。

お守りを作ること自体は良いが、中に入れる鍵のチャームが無いのだそうだ。


孔雀石のお守りも色々種類があるようで、中でも鍵のチャームを入れたものが特に人気なようだ。

持っていると、運命の相手の心を開く力があるのだとか何とか。

件のウルリカという少女も、鍵入りのお守りを望んでいるらしい。


その鍵のチャームというのが、何でも新規に製造されたものではないのだとか。

もとは十数年前に流通した香水瓶の装飾にされていたものを流用したらしい。

新たに開発された孔雀石のお守りと、その香水瓶のチャームを組み合わせて、新たな流行を巻き起こしたお守りが生まれたのだそうだ。


「例のチャームはシアレットのみで取引されていたもので、もう大半がお守りに加工されています。

お守りでなくてもチャームをどこかのお嬢さんに譲ってもらえれば作れると思いますが。

心当たりはありませんか?」


「う、うーん……それは……」


新たに現れた関門に、ユミルはまた難しい顔をする。葛藤しているのだろう。

勿論、カドラスの名を使えばそんなものは幾らでも調達できるだろう。

だが、家名を使って職人に無理強いしたくないと言っていたユミルだ。

その関門を越えたのは良いが、そこに来て新たな壁だ。

ユミルの性格からして、どこかのご令嬢に私物を手放せと強いることはしたくないだろう。

どうするのだろうとシノレは思った。


「…………取り敢えず、チャームを入れる前のところまで進めてみて下さい!

ちょっと街を回って探してみますので!」


「承知致しました。いつでもお気軽にお越し下さいね」



彼らの話しあいが終わり、工房と別れて再び歩き出す。チャームを探しに行くのだろうか。

リヴィアは咄嗟に物陰に隠れた。どくどくとかき鳴らす心音が煩かった。

呆然と頭が白くなって、四肢が冷えて、そのくせ鼓動は大きくなる。

持ったままだった香水瓶を改めて見下ろす。

そこについているのは紛れもなく、今話題に上っている装飾だ。


付き人が案じるように声を掛けてくる。彼女にも全てが聞こえていたのだろうか。

それは分からないが、ただならぬ状況であることは察しているようだった。


「お嬢様……」


「……私は……」


これは、天恵かもしれない。


使徒家の方の助けになることは、教徒にとってこの上もない名誉だ。

その一つ、カドラス家の嫡男が求めているものが、偶然この手にある。

家運を左右する、今やそれは文字通りの鍵だ。

それを使えば、家名を回復させることができるかもしれないと、そう思った。


「……………」


同時に、冷たいものが体の中心に奔る。

胸の前で香水瓶を握りしめたまま、リヴィアは暫しそこに立ち尽くしていた。



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