良縁狙い
令嬢たちの茶会では良縁を狙う話題で持ちきりです。
それは正妻とは限りません。妾になることも使徒家ならば望外の出世なのです。
「こういう催しでは、良縁狙いの方々が出てくることがお約束ですけれど。
今年はレイグ様に挑戦する強者が現れるかしら?どう思います?」
「まあ、流石にもうないのではありません?
ここまでの経緯でまだ諦めない者がいたら、強者ではなくただの間抜けですわ。
今は寧ろ、エルク様の方が遥かに狙い目でしょうねえ」
「全くです。妹など張り切ってしまって」
使徒家の者の妾となるのは、女性にとって望外の出世だ。
家内の指揮系統の都合上、平民を妾にすればもうそれ以上の身分の者を娶ることはできないから、慎重を期す必要はある。
しかし、そうした注意点はあるにせよ、相手に気に入られさえすれば妾入りはそこまで険しい道ではない。
それこそ、たまたま出会った町人が見初められる可能性も、低いながらも存在する。
だからこそ地方の者たちは、使徒家の訪れがあると、万が一の玉の輿を期待して胸ときめかせるわけだ。
先代教主の死によって多くの若者が結婚を遅らせられたが、レイグも似たようなものだった。
正妻との結婚直後に先代教主の殺害、それから起こった争いで忙殺されることになり、それどころではなかった。
本人も妾を取るのに積極的な方ではないため、今も正妻一人である。
彼が今後妾を迎えるのかどうか、それは彼女たちの中でも最注目の話題であった。
しかし――
「レイグ様は昔から、男女問わず、媚丸出しで近づいてくる相手はお嫌いですもの。
この先新たに縁談が上がるとしても、政略的に利のある相手を粛々と受け入れるだけでしょうねえ」
「全くです。まあ、ヘレナ様の邪魔にならない方というのが最低条件ですわね」
妾になるに当たって何が大事かと言えば、既存の妻たちとどう折り合いを付けるかだ。
極論夫との愛も相性の良さも必須ではない。
仮に夫と上手く行かなかったとしても、正妻や上位夫人たちに受け入れられさえすれば何とかなるのだ。
しかしその逆はほぼ無い。
とにかく大切なのは、そして婚家で生きていくことなのだから。
不在が多い夫の愛よりも、長年関わり合う妻たちとの関係の方が余程大切である。
第一夫人の生家は正妻より格下でなければならず、第二夫人の生家は第一夫人よりも格下でなければならない。
つまり平民の女性を妾にした場合、それよりも格の高い相手とはもう結婚できない。
そうでないと家内秩序が混乱するのだ。
妻としての格と生家の格は連動するのが望ましい。
正妻ともなれば、夫よりも生家が格上ということも珍しくない――教団における重婚は、このような序列のもと成り立つものであった。




