本題と真意
シノレはセヴレイル家の当主レイグに連れて行かれます。
一体、何の話があるのか…
レイグは、ある家の人物についてシノレに探りを入れます。
連れて行かれたのは上品な茶色で彩られた、広くはないが洒落た部屋だった。
奥には山の方に面した大窓があり、風通しが良い。
カーテンが揺れ、夏場でも清涼な雰囲気があった。
卓の上には酒肴や遊技盤が置かれている。
そしてその周りの革張りの椅子には何人か、身なりの良い男性が腰掛けている。
(あれ……?)
一瞥してシノレは違和感を感じ、すぐにその正体を突き止めた。
椅子に座る彼らは勿論のこと、使用人に到るまでただの一人も女性がいない。
少し疑問に思ったが、その疑問はすぐに氷解した。
彼らの話に少し耳を傾ければすぐに分かった。
「いやあ、最近は家に帰りづらくて」
「我が家も最近妻たちが緊迫していて、どうすれば良いのか全く分からなくて……」
「いやはや、どこも同じですね……これは私の姉から聞いた秘伝ですが、どうやら女心というものは、」
何分話題が生臭いのだ。
妻たちのいがみ合いだの騒動だの愚痴だの、恋愛や結婚の心得だのが、あちこちで身も蓋もなく語られている。
たしかにこれは女性がいる場ではできないだろう。
彼らも日頃は、名家を負う者として傲然と振る舞っているのだろうが、今の様子は何だかどこか煤けていた。
教団では楽団同様、複数の妻を持つことが認められるが、その実態は真逆のようだから、まあ、色々あるのだろう。
「これはレイグ様、お邪魔しております」
「ああ、そのままでいい」
そんな男たちはやってきたレイグに口々に挨拶し、続いてシノレにも目を向けた。
「これは、勇者殿。お会いできて光栄です」
「ささ、どうぞこちらへお掛け下さい」
「……はい、ありがとうございます」
シノレは勧められた椅子に慎重に座った。
そして向けられた視線は思っていたほど物見高くなく、若干驚く。
ここ数ヶ月で聖者の信望が上昇すると同時に、おまけたる自分も引きずられてある程度認められたのかもしれない。
別にシノレ自身が何をしたわけでもないのだが、良い変化であるのは間違いない。
それにしても、どうしてここに連れて来られたのか。
耳目があるところでするからには、極秘の話などではないのか……考えるシノレに、レイグが話しかける。
「前々からお話をお聞きしたかったのですよ。
勇者様はカドラスの方々と、良く一緒においででしょう?」
「…………ああ、はい」
その物言いと、周囲で交わされた刹那の目配せで、本題と真意が分かった。
ここ最近のユミルとブライアンの交流をレイグは、そして彼らは訝しんでいるのだろう。
しかしユミルを捕まえて問い質すわけにもいかない。
カドラスの騎士たちの目もある。
専ら一人でふらふらしているシノレの方が捕まえやすく、話もしやすいということだろう。




