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セヴレイル家の枢機卿

聖者による魔力の鍛錬が終わり、一人になったシノレはとんでもない人物から話しかけられます。

なんとかして言い逃れようとするも、逃げられそうにありません…


ろくでもない初対面から一年と少し。

聖者について、分かったことが幾つかある。


神の威光を負う独特の立場と、偶像的扱いのために分かりにくいが、あの聖者は口の立つタイプでは全くない。

だから、言えないことは沈黙するしかないのだ。

そして聖者は言うまいと決めたことは何があっても黙秘するだろう。

そういう人間の目は、これまで何度か見たことがある――


一人になったシノレの思索は、突如かかってきた声に打ち切られた。


「これはこれは、お久しぶりですな」


聞き覚えのあるその声に一瞬硬直してから、シノレは嫌々振り返った。

そこにいた老人の姿を確認してから、なるべく丁寧に会釈する。


「……お久しぶりです、枢機卿様。エレラフの時はお世話になりました。お元気そうで何よりです」


そこにいたのは以前の討伐を主導した、セヴレイル家の老枢機卿だった。

高齢を感じさせないしゃんとした姿勢で、温和な笑みを滲ませる。

確か名前はルダクだったか……もう一年近く前のことなので、記憶が曖昧だ。


「良いところでお会いできましたな。久々にお話したいと思っていたのですよ。

宜しければお付き合い下さいませんか?」


「……その、お誘いは有り難いのですが。聖者様からお呼びがかかっておりまして……」


何とか逃げたい一心で嘘をついた。

聖者との話し合いと恒例の魔力訓練は先程終わったばかりだ。

今はすることがなく暇なのだが、逃げ延びるためにそう言ってみる。


「まあそう仰らず。お付き合い下さい」


「…………っ」


その声に呻きそうになるのを、シノレは何とか噛み殺した。

廊下の向こうに現れたのはレイグだった。

その顔に笑みはないが敵意も感じられず、そもそも何を考えているのかさえ判然としない。

だというのに口から出てくるのは、まるで気遣いのような言葉だった。


「れ、レイグ様。どうも……」


「……折角我が城にいらしたのに、きちんとお話したことは無かったでしょう?

滞在において何か不便を感じてはいないかと、気になっていたのです」


今この瞬間が最大の不便だと叫んで逃げ出したい。

そんなことができるはずもないが。

ていうか敬語が気持ち悪すぎて、夏なのに背筋が凍りそうだ。

そんな気持ちを全力でねじ伏せて深々頭を下げ、自分でもよく分からなくなりながら舌を回す。


「あのそれはレイグ様にお時間を割いてまで頂くことは特に問題はありませんし何かあれば聖者様にお話して」


「……そう言えば、聖者様でしたら先程、妻と一緒におられるのをお見かけしましたが。

結構お話が長引きそうな雰囲気でしたね。

呼ばれているとはいっても、多少の余裕はおありでしょう?」


だが無駄だった。セヴレイル関係の人間に口で敵うわけもなかった。

あっさり論破されたシノレは、成すすべもなく連行されていった。




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