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新たな鍛錬

 教団ではシノレが聖者の指導の下、魔力行使の新しい訓練を始めます。

「……宴の席で、そこにいた誰かの思念が聞こえたのですか?」


その日の朝、シノレは訪ねてきた聖者に、先月末の宴の時のことを報告した。

すると、聖者は驚いたようで目を見開いた。

そして少し考えるようにした。


「……そうですか。それは、思っていた以上に……そちらの方面に、先に進みましたか……」


「……そんなに意外だった?何か不味いの、これ?」


「いえ、そういうわけでは……、……分かりました。それでは次は、そちらに取り掛かりましょうか」


解錠も、もうかなりものになってきましたからね。そう聖者は呟き、机の上の箱に目を向ける。

それはもう蓋が開き、中に薄青色の花が鎮座していた。

定期的に続けた練習で、封印された箱も危なげなく開けられるようになっていた。


「そろそろ訓練を増やしても良いと、そう思っていました。

今朝から、思念の伝達を練習してみましょうか」


しかしこれが、思いの外難しかった。

試しにと少しの間取り組んでみたが、すぐに休憩することになった。


「お疲れ様です、シノレ。着実に、焦らずに進めましょう」


「うん……」


シノレは気力を振り絞り、疲れで若干くらくらしながら返す。

していること自体は、普段の訓練と大差ない。

やって来る流れに集中し、寄り分け、分析する。

そうすると、意味のある連なりとして響くようになる。


それは騒がしい場所で、自分の話し相手が発する音を拾うのに似ていた。

ただ音では苦も無くできることが、魔力だと中々難しい。思う通りに使えるまで、まだまだ時間がかかりそうだった。


「……ところで、宴で聞いたという思念。

それがどなたのものなのか、心当たりはありますか?」


「確信はないんだけど……セシルって、人かなと思ってる。

先月聖者様が話していた、クレドアって人がいたでしょ。あの人の娘みたいだね」


「セシル様?……そうですか……」


聖者は一瞬、意外そうに眉を顰める。だがすぐに話題を変える。


「……ジレス様も、お元気そうでしたね。よろしゅうございました」


「……ああ、うん……」


先月の末の宴を思い出す。

最も注目されていたのは言うまでもなくエルクだが、教育係も使徒家の人間だ。

お近づきになりたいという人間が山程寄ってきて、囲まれていた。

だから暫くこちらへ来ることはないと思っていたのだが…………宴の最終盤、さあ帰ろうという時になってとっ捕まえられたのだ。


『久しぶりだな、シノレ。

暫く教練を空けていたが、学習を怠けてはいないだろうな?

そのうち試験を行うのでそのつもりでいるように』


憮然とした顔を思い出し、シノレはため息を付く。聖者は軽く微笑む。


「……ジレス様なりに、貴方のことをお気にかけておられるのでしょう。

できる限りで応対して差し上げて下さい」


そこまで言って聖者はシノレと目を合わせる。

そしてどこか、しみじみした口調で呟いた。


「……ジレス様には、感謝してもしきれませんね。

ザーリア―家の方なのですから、私のことを良くお思いではないでしょうに。

私情を交えずに、貴方のことをしっかり教え込んで下さった」


「……まあ、あれだね。そういう器用さはないでしょ、あの人は。

その……先祖?あの長櫃を封じた使徒ザーリアーのことも、機会を見て聞くんだよね?」


「ええ。初代使徒のことが、何か分かれば良いのですが……」


そこまで話して、聖者は長櫃の方に目を向けた。


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