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サフォリアの元首

舞台は騎士団に移ります。

都市サフォリアの元首親子は歴代の先祖の肖像画の前で会話をかわします。

息子マルセロは思うところがあるようで…


朝日が昇りゆく。この月で最初の光は、窓辺の端から朝を滲ませるように輝いていた。


続く道のりは決して平坦ではない。

けれど、ここまで来れたのだ。月が変わる度、いや日が変わる度に、マルセロは何とも言えない安堵と、いつまでこんなことが続くのかという疲労感に包まれる。


肖像画の間で、歴代の先祖にまず挨拶をする。

両親が存命ならば、その部屋にも続けて挨拶に行く。

貴族の一日はそこから始まる。

以前まではそれも叶わず、肖像画がずらりと並んだ回廊と、両親が使っていた居室に儀礼的に参じるだけであったが、今は相手がいた。


「おはようございます、父上」

「……ああ」


父もまた、先祖への挨拶に訪れていた。父子でそこに入り、いつにもまして陰鬱な面持ちだった。


「…………かつてここに飾られていた肖像は、我々の一族ではなかった」


何を言わんとしているのかはすぐに分かった。

元々ここにあった肖像は、今ではセヴレイルと呼ばれる一族のものだった。

他の全てと同じように、ここも先祖が本来の支配者たちの肖像を剥ぎ取り、貶め、塗り替えて奪った場所だ。


「父上……」

「長い捕虜生活で、ずっと考えていた。

どこに囚われようと、ずっと心はこの城にあった。

……我が一族は、どこへ流れ着くのかと、そう考えていた」


一度生じた因縁を何世代、何百年と引きずるのが貴族だ。

セヴレイルを裏切った咎は、忘れられることはない。

だからって、今更引き下がるなど論外だ。

現在の長は自分たちなのだと、どこまでも突っ張るしかない。

彼の家の当主は、代々己をサフォリアの元首と自認し、周囲もそう称する。

ただ統治者としての呼称であれば、他の貴族と同じ領主で充分なものを、敢えて元首と称するのもその現れであった。


それを彼は、見苦しいと感じる。けれど、投げ出すわけにもいかなかった。


「……この因果に決着をつける術は一つしかない。

どちらかが完全に滅び去るまで、終わらないのだ。

かの一族か、我々か……我々が選ぶ道は一つしかない。

たとえそのために、全てを裏切ることになったとしても」


「弁えております。全て、そのために」


白竜の死を境に、セネロスで動き出した策謀。

そのために、方針を大幅に転向せざるを得なかった。

父にも、既に話は通してあった。それだけで彼らには通じた。


「…………ままならないものですね。これでも平穏を希求していたのですが」


それでも一度決めたのなら、完遂しなければならない。

人を率いる立場の者なら尚更である。惑い、躊躇い、右往左往するような人間が長では、重心を失い空中分解するのが落ちだ。

その先に待ち受けるのは滅びだけである。


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