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宴の空気の変遷

騎士団の姫オルシーラと、教団教主の弟エルクは挨拶をかわします。

オルシーラの竪琴の演奏の腕前から、彼女への視線と場の雰囲気も変わって行きます。

そんな中、聖者は…

「エルク様に、まことに僭越ながら私からもお祝いを申し上げます。

そして、こうしてお目にかかることができたことを感謝致します」


「こちらこそ、オルシーラ姫にお会いできて光栄です。

御自ら、素晴らしい演奏をありがとうございました」


 二人は微笑みあい、やがて場に拍手が広がっていく。

注目の的となったそこへ、観衆から様々な視線が注がれる。


 演奏前と後で、場の空気は微妙に変遷していた。

奏でられた二曲は趣は違うが、どちらもかなり技巧的な曲だ。

それを実に自然に、簡単そうに弾いてのけた。


この場にいる者の殆どは、教養として音楽や楽器の心得がある。

だから、それがどれほどのことかは誰しも分かる。

正直誰しも、ここまでの腕とは思っていなかった。


「レイグ様、このような席を設けて頂きありがとうございました。

未熟な演奏ですが、僅かでも余興になったなら光栄です」


「とんでもない、素晴らしい演奏でした。

これほどの弾き手がおいでなら、近日中にまた演奏会を開いても良いかも知れませんね」


 続いてオルシーラは、先日彼女に絡んだ男にも優雅に膝を折った。


「クレドア様も、今宵は竪琴をお貸し下さりありがとうございました。

想像していた以上の、素晴らしい音色でしたわ」


「いえいえ、オルシーラ姫こそ素晴らしい演奏でございました。

この稀なる夜の栄誉に、きっと我が祖父も、竪琴も喜んでいることでしょう」


 竪琴の持ち主は得意満面といった様子だった。

そこには先日オルシーラに向けていた、意趣のような色はない。

所有の楽器が聖者たっての願いで、人前で……それもワーレン一族のもてなしに使われる。

彼としては、これ以上なく面目を施した形だった。


 それを契機に、俄に人の流れが発生した。

中心にいる人間たちに話しかけようと色めき立った者たちが、次々とシノレの前を通っていく。

これは大変そうだ。端に退いておいて正解だった。


「シノレ」


 聖者が、そう呼んだ。先程の演奏の感想でも言うのかと思ったが、聖者の関心は別にあるようだった。


「オルシーラ姫の、あの首飾りですが……あれを、貴方はどう思いますか?」


「……特に何も思わないけど……高そうってことくらい?」


 その回答は意に染まるものではなかったようで、聖者は少し難しい顔で沈黙する。

そして更に、質問を重ねてきた。


「…………オルシーラ姫と会ったのでしょう?」

「なんで知ってるの」

「…………力の、残滓を感じます」


 何故か濁したが、言わんとすることは分かった。

分かったが、シノレは少しぎょっとした。

確かに、魔力は独自の波動を持つものだし、特に例の剣などは異様なほどの覇気を放っているが、しかし人間まで広げて考えたことはなかった。


「……誰の力だとか、そういうのも識別できるの?」


「はい。シノレも慣れれば、ある程度分かるようになります。

……その時に何か、異変などは感じませんでしたか?」


 シノレは首を振る。聖者はそれに不安げに沈黙したが、


「…………分かりました」 


 そう、目を閉じた。月の最後の宴は、夜とともに緩やかに更けていった。


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